SFドラマ『ギャラクティカ』のもう一つの物語:『RAZOR/ペガサスの黙示録』

■RAZOR/ペガサスの黙示録


米SFTVシリーズ『バトルスター・ギャラクティカ』のスピンオフ作品である。シリーズの中でも傑作の誉れ高いシーズン2ラスト《ペガサス三部作》を題材に、本編では会話の中で語られるだけだった「空母ペガサスの悲劇」を描く。
物語は空母ペガサスの女提督ケイン暗殺後のギャラクティカ/ペガサス・クルーの回想として語られる。ギャラクティカとは別に人類の滅亡を目の当たりにした空母ペガサスはサイロンの追撃を逃れる為無作為空間転移を行い宇宙の迷い子となる。サイロンへの復讐を誓うケイン提督は過酷な任務を部下に課すが、絶望的な戦いの中次第に戦艦の資材は尽きてゆく。そんな時遭遇した生き残りの民間船に、ケインはあまりにも無慈悲な選択を強いる…。
ギャラクティカ本編を観ていて感じるのは、殆どの人類が死滅し、さらに敵の熾烈な追撃が止まないという危機的状況の中にあるにも係わらず、政府機関と軍部があくまでも民主主義を貫き通そうとするその潔癖な姿勢の描き方である。政府と軍部はしばしば衝突し離反することもあるが、それは権力を目的としたものではなくあくまで状況を打破する為の方法論が違うといったことに対する衝突であり、睨みあったとしても物語が終わる頃にはきれいに和解が生まれていたりする。
即ち『ギャラクティカ』というSFドラマは戦争万歳撃ち合いサイコーの単純なSF冒険活劇では決して無いということなのだ。逆に言えばそういった分かりやすいエンターテインメント性を捨ててまで民主主義のあり方というものを描くことに拘り、その結果SFドラマとしてのカタルシスが希薄になってしまっている場面も多々あり、そういった奇妙に理想主義的なスタンスが物語への興味を殺いでいるのではないかという不満もあった。
しかしだ。この『RAZOR/ペガサスの黙示録』では、軍部が全てを統括し提督ケインの独裁による恐怖政治が行われていた様を描いているのだ。これは本編である『ギャラクティカ』とは危機的状況に対する真逆のアプローチをした物語であり、『ギャラクティカ』の陰画とも言えるドラマなのだ。本編『ギャラクティカ』によって民主主義の理想を描いた製作者達は、次に『RAZOR/ペガサスの黙示録』において民主主義が失われたもう一つの『ギャラクティカ』を描いたのである。そしてそれは、『ギャラクティカ』という物語の世界観をより深める結果となっていると思う。
かといってこの物語は決して堅苦しいものではない。粛清と弾圧の血に染まったペガサス号の悲劇はどこまでも感情を揺さぶる物語として完成しているし、1話完結という事で大盤振る舞いされたのであろう宇宙戦闘シーンのド派手さはシリーズでも最高の部類に入るであろう。さらに冒頭から登場する主役級の新女性キャラクターはその後の『ギャラクティカ』ストーリーとは何も絡んでいないことを考えると既にして死亡フラグ立ちまくりであり、魅力的に描かれれば描かれるほどラストに待つであろう最大級の悲劇を予感させて終始身震いしながら作品を観ることになるのだ。
作品としてはシーズン3完結後に製作されたものだという事だが、シーズン3の辛気臭さに辟易となって途中で放り出した人にも是非観てほしい。なぜならこれこそが『ギャラクティカ』というドラマの魅力を濃縮した作品だといえるからである。