秘密結社『オヤジ会』

オレの周りでは酒を呑む事を”やっつける”と表現する。職場の中高年オヤジによって結成されている秘密結社・『オヤジ会』では、事あるごとにこの符牒があたかも戦時下のレジスタンスの秘密作戦の如く職場の隅で小声で囁かれているのである。「今日『萬作』*1で焼き鳥とビールやっつけに行かない?」「いいねえ。一発やっつけに行きましょう。」といった按配である。そしてその号令により猿や雉や犬や石臼や昆虫みたいな顔をした『オヤジ会』の面々が結集するのである。
それはあたかも鬼ヶ島に鬼退治に行く桃太郎とその御一行様の如き光景である。しかし問題は桃太郎にあたる人物は存在しないと言う事である。要するに何の華もない、単なるしょぼくれたジジイの集団だと言う事ができよう。しかし見た目はしょぼくれたジジイたちであっても、呑み屋における作戦活動の展開は手馴れたもの、まさに百戦錬磨の老兵の如しである。特に焼酎ボトルと烏龍茶の注文から焼酎烏龍割りの作成までの流れるような一連の作業は、北朝鮮国営放送で放送している律動体操を見せられているかのような素早く無駄が無く華麗で鮮やかなものである。
そうして今日も安酒を”やっつけに”、一杯呑み屋という名の戦場へアルコール掃討作戦、その名も『プロジェクトA(アルコール)』を遂行せんと夜襲を掛ける『オヤジ会』の猛者どもなのであった。

*1:JR大森駅前にある『オヤジ会』の秘密基地。『オヤジ会』の面々は日々この秘密基地に集い安酒をあおりながら諜報活動と秘密工作の計画を練っているのである。