激動の80年代イギリスを彷徨する若者たちの魂/映画『THIS IS ENGLAND』

THIS IS ENGLAND (監督:シェーン・メドウス 2006年イギリス映画)

1983年、サッチャー政権下のイギリス。父親をフォークランド紛争で亡くした少年ショーンは、町にたむろする不良少年たちと交流するようになる。しかしその彼らに極右主義集団が接近し、仲間に加えようと狙っていた。映画は監督シェーン・メドウスの実体験をもとに製作されたという。

冒頭にルーツ・レゲエ・バンド、トゥーツ・アンド・メイタルズの名曲「54-46 Was My Number」が流れておおこりゃご機嫌だね、と思ったけど、訳された歌詞を読んだら最底辺のチンピラの麻薬売買についての内容で頭がクラクラした。英語を理解してないとたまにこんな目に遭う。そんな冒頭に流れるのは当時の英首相サッチャーと、生前のダイアナ妃と、フォークランド紛争の戦闘で片足が千切れた兵士の映像だ。

イギリスの若者を描く映画ってどれも鬱屈しているな。この映画の主人公は小中学生ぐらいの少年なのだけれども、ピンク・フロイドの『アナザー・ブリック・イン・ザ・ウォール』の歌詞そのままの学校への嫌悪と、『時計仕掛けのオレンジ』と『トレイン・スポッティング』の中間にあるような殺伐とした毎日を描いたお話で、モリッシーの曲『エブリデイ・イズ・ライク・サンデー』みたいな日常への呪いに満ち満ちている。

物語の背景にあるのはサッチャリズムの失敗による長期化した不況と高い失業率、それによる社会不安と貧困だ。その中でデリケートでセンシティヴな子供たちは逃げ場のない閉塞感の中に捨て置かれる。そりゃあ鬱屈もするだろう。ネオファシズム政党・イギリス国民党が1982年結党で、物語の時代ときれいに被っており、社会不安と右傾化が密接に関わっている様が手に取るように分かる。

とはいえ救いを感じたのは、物語で描かれる「スキンヘッズの不良少年」たちが、社会の爪弾き者集団では決してない、という部分だ。彼らは逆に、居場所を失った者同士のセーフティネットとして機能しているのだ。彼らは気の置けないコミュニティを作り、仲間を大事にし、彼らなりの真正さで生き難い社会を生きようとする。極右に走る暴力的な者ももちろんいるのだけれども、そういった者たちばかりではないのだ。こんな若者たちの気風の中に、当時のパンク/ニューウェーブといった音楽ムーブメントの一端を垣間見たような気がした。

余談だが、フォークランド紛争に揺れる1982年のイギリスで、UKロック史上最高のアルバムの1枚に数え上げられるであろう作品がリリースされている。それはロキシー・ミュージックの『アヴァロン』である。血腥い戦争と政治闘争の最中にある国で、それとは真逆の位置から「至高の愛」を歌ったアルバム『アヴァロン』。そこに政治的意味はないだろうけれども、むしろ、だからこそ、ロック・ミュージックというものの強靭さを改めて思い知ったアルバムだった。

この映画はこちらのブログの紹介で観てみました。映画ラストに流れるザ・スミスの「プリーズ・プリーズ・プリーズ」の対訳が泣かせるので是非こちらもお読みください。