■ザ・フォーリナー/復讐者 (監督:マーティン・キャンベル 2017年アメリカ・イギリス・中国映画)
ジャッキー・チェンが爆弾テロで娘を亡くした父親を演じ、テロリストとの壮絶な戦いに突入してゆくという映画『ザ・フォリナー/復讐者』です。
まずこの映画、ジャッキーの「死んだ目」のスチールがSNSでたまに出回っていて、それで興味を持ったんですね。↓こんなに死んだ目してるんですよジャッキー。うわーいったいどういうことなんだ……と思っちゃいますよね。
《物語》ロンドンでレストランを営むベトナム人移民クァン・ノク・ミン(ジャッキー・チェン)はある日、最愛の娘を爆弾テロで亡くしてしまう。怒りと悲しみに打ちひしがれ自らテロ犯人を捜し始めたクァンは、元IRA兵士で今は穏健派として知られる北アイルランド副首相リーアム・ヘネシー(ピアース・ブロスナン)に辿り着く。執拗に食い下がるクァンを排除するためヘネシーは仲間たちを送り込むが、彼らはあっという間に叩きのめされてしまう。実はクァンはベトナムの元特殊工作員だったのだ。その間にもテロリストによる第2の犯行が起こってしまう。監督は『007 カジノ・ロワイヤル』のマーティン・キャンベル、原作はスティーブン・レザーの『チャイナマン』。
とまあそんなお話なんですが、「一見しょぼい被害者のおっさんは実は無双系」という、『96時間』や『イコライザー』あたりでお馴染みの設定を持った映画ではあるんですね。まあそもそも主演がジャッキーという段階で無双かましてくれると期待しちゃいますし、そういった強力なアクションもきちんと盛り込まれています。トラップや隠密潜入など「ベトナム元特殊工作員」らしい技を使ってきたりもするんですね。しかし全体的に見るとジャッキーのアクションをとことん楽しませてくれるスカッとしたアクション作品というわけでは全然ないんですよ。
というのはこの物語には血塗られた歴史を持つ「北アイルランド問題」という背景があり、その紛争の中で武力的な独立運動を続けてきたIRAという組織があり、それが現在は政府と停戦協定を結び穏健な活動に落ち着いている、という現状があるんですね。物語の発端であるテロ事件は穏健派となった組織に不満を持つ一部のIRA過激派が関わっているのですが、元IRA兵士である北アイルランド副首相ヘネシーはその過激派の存在を炙り出そうとする、そういった内部抗争的な物語がこの作品にはもうひとつあるんですよ。
即ち、まず敵がはっきりしないということなんですね。ヘネシーは何か知っていそうなんですが、それもどこまで知っているのか分からない。だからクォンはとりあえず徹底的にヘネシーに食い下がって脅迫的な行為を繰り返すんですけど、「ひたすら脅迫的である」という部分でクォンは狂人じみた男に見えてしまう。だから「正義の鉄槌!」とばかりにボカスカ敵を打ちのめしてゆくといった単純明快気分爽快なアクションを期待しちゃうと、「何が真実で何が嘘か」という迷宮じみた物語展開に頭がモヤモヤしっぱなしになってしまうかもしれません。
さらに「クァンの復讐」と「ヘネシーの犯人捜し」に分断された物語はジャッキーとブロズナンにそれぞれ時間配分されてしまう為、これもジャッキーファンがジャッキー目当てに観に行くとキツイかもしれませんね。オレが観に行った劇場でも「ジャッキー・チェンの痛快最新アクション娯楽作!」を期待して観に来たらしい中学生ぐらいの男の子たちが何人かいましたが、「IRAと北アイルランド問題が背景で―」とか言われてもピンと来なかったんじゃないかなあ。だいたいオトナのオレですらそんなに詳しいわけじゃないのでモヤモヤしてたぐらいでしたから(←単なる勉強不足)!
とはいえ、そういった政治的背景を押し出した、単なる無双系の作品ではないという部分では前述の『96時間』や『イコライザー』の二番煎じであることを免れていたし、またこうしたヤヤコシサを持ち込んでいることを了解して観られるならその方向のサスペンス作品として納得して楽しむことは出来るんですよ。ジャッキー・チェンもコミカル要素を一切封印して終始死んだ目と陰鬱な表情で演技を押し通し、これはこれで彼の新機軸という事もできるんじゃないでしょうか。ジャッキーももう結構なお年なので体も昔のようにキレがいいわけではなく、「単純明快気分爽快なアクション!」ってばかりにもいかないのでしょう。とはいえ、そんな中で炸裂するアクションはやはり十分に見応えがあったのは確かでしたね。