■イット・フォローズ (監督:デヴィッド・ロバート・ミッチェル 2014年アメリカ映画)
『イット・フォローズ』観てきました。少年の頃からギャングに憧れ、その仲間入りを果たした一人の男の半生を描いた物語なんですが、J・ペシがいい味出してましたね。
すいませんそれは『グッド・フェローズ』でした。
『イット・フォローズ』は恋人とエッチしたら訳の分かんないバケモノに追い掛け回されるという性病をうつされた女の子のお話です。ペニシリンじゃ治らないっぽいです。性病というかある種の呪いなんですね。このバケモノというのが人間の姿をしてるんですが、見た目なんとなく不気味で、いろんな人間の姿に変化します。その姿は感染した(呪われた)自分にしか見えません。向こうからこっち目指してゆっくり歩いてきます。逃げりゃあいいんですが、逃げても逃げてもしつこく追っかけてきます。そして捕まったら殺されます。命懸けの鬼ごっこといったところでしょうか。追っかけっ子してつかまると殺される、というのは、眠ると殺される、というエルム街の別バージョンのように思いました。治療方法は他人とエッチしてうつすことですが、うつした相手が殺されるとまた自分の所に戻ってきます。たち悪いですね。
しかしこの訳の分からないバケモノはいったいなんなんだろうなあ、と思って観てましたが、なんか石投げて窓ガラス割ったり、とりあえずドアや壁があると入ってこれない(ぶち壊しはする)という部分から、超自然的な存在ではあるけど幽霊みたいなもんじゃなくある種の実体は持っている、ということは分かってきます。呪われた本人以外の他人には見えませんが、しかしこいつが何か動かすと動かしたことは他人にも見えるし、こいつに体ふっ飛ばされたりもします。ということは、こいつ、ステルス迷彩したプレデターみたいなヤツなんじゃないの?で、なんでエッチが原因かは分かんないけど、「自分を見ることができるようになったヤツをぶっ殺しに来る」ってことじゃないの?とちょっと思いました。そしていろんな姿に変えられる、というのは『ダーク・スキャナー』に出てきたスクランブル迷彩の能力も兼ね備えている、ということでもあるんですね。あれ、ひょっとしたらこいつ、宇宙人!?(その割に頭悪そうだったが)
で、「それ」の宇宙人説はさておいて、なんで「エッチしたらうつる」なのかなあ、ということです。映画の主要登場人物たちはみんな10代の学生っぽいんですね。10代と言えばホルモンがナニのソレして思春期を迎え、十分エッチできる体になり、大人へのとば口に立ち、精神的にはちょっと不安定だったりします。そういった年代の、「セックスに対する不安感、罪悪感」が「それ=バケモノ」の形に象徴化されたもんなんじゃないのかなあ、とオジサンちょっと思いました。オルタナなアメコミに『ブラックホール』という作品があって、これは思春期を迎えた少年少女が体に異様な怪物化現象を起こす、といったものなんですが、これなんかは思春期による体の変化=自分じゃない不可解なバケモノという自己疎外の物語だったんですが、『イット・フォローズ』ではセックスへの不安と罪悪感が形となって追いかけてくる、というお話だったんじゃないかなあ。
映画としては登場人物たちのファッションやライフスタイル(いつもダルそうな感じも含め)、なんだか小奇麗な映像のセンスは独特だなあとは思いましたが、まあそれ目当てで観に来たわけでもないのでそれほど関心は湧かなかったなあ。それよりもこの作品、どうやらデトロイトで撮ってるみたいなんですね(プールのシーンで分かった)。調べると監督自身もデトロイト生まれらしいんですが、デトロイトというと往時は全米一の自動車工業都市だったものがフォーディズムの破綻によりデトロイト暴動を引き起こし多数の死傷者を出した挙句街の中心部はスラム化、白人富裕層は郊外に逃げ出しそこに移り住んだわけです。映画の舞台はこういったいわゆるサバービアで展開し、廃墟となったデトロイトの市街地も映画に出てきます。こうした荒廃した都市と都市の空洞化、そういったものに対する不安や空虚感がこの作品の背景として存在し、ひとつのカラーとなっているように思えました。
http://www.youtube.com/watch?v=r4wfajFlPJI:movie:W620