愛はまたしても二人を引き裂く〜映画『Rockstar』

■Rockstar (監督:イムティヤーズ・アリー 2011年インド映画)


2012年インドで公開されて大ヒットを飛ばした映画『Rockstar』である。タイトルが「ロックスター」である以上ロックスターの物語で間違いない。

しかし、インドでロックスターというのがピンと来ないのである。もちろんこれはオレが無知なだけな話で、検索するとあれこれ出てくる。ただ、インド映画のサウンドトラックを聴いても、それは〇〇調、みたいなものではあっても、細かくジャンル分け出来るものではなく、むしろ様々なジャンルが融合した「インドの音楽」としか言いようのないものとして出来上がっているのだ。そして、それがまた素晴らしいのだ。だから逆にあえて「ロック」みたいな形でジャンルに押し込めると、「インドの音楽」としての素晴らしさが殺されちゃわないかな、なんて危惧もあった。それと以前、アル中ポップ・スターの悲劇を描いたインド映画『Aashiqui 2』(レヴューはこちら)が音楽も含めかな〜りつまらなかった(音楽が日本のニューミュージックみたいだった)というのもあり、この『Rockstar』も少々敬遠していたのだ。

主人公はデリーの大学に通う青年ジャナルダン(ランビール・カプール)。ロック好きで自らもロックスターになりたいと憧れる彼だったが、大学で歌ってみてもパッとした反応はなく「たいした人生経験の無いヤツにいい音楽なんか作れない」とまでたしなめられる。じゃあめくるめくような体験をしてやるぜ、とばかりに大学のマドンナ、ヒール・カウル(ナルギス・ファクリー)に恋の特攻作戦を挑むも「そもそも私もうすぐ結婚するんだけど?」とあえなく撃沈。しかしそんな彼を気に入ったヒールは、結婚前にちょっぴり羽目を外したいと頼み込む。そんなうちにいつしか恋に落ちる二人だったが、ヒールは結局結婚してしまう。ジャナルダンはその後様々な地を転々としながら歌を歌い続け、いつしか才覚を現し、ロック歌手「ジョーダン」としてデビュー、喝采を持って受け入れられる。そしてツアー中のプラハでヒールと再会するが、この時彼女は重い病に罹っていた。

映画『Rockstar』はこんな具合に、ロック・ビジネスの中で頭角を現してゆく青年と、彼が道ならぬ恋をしてしまった女性とのラブ・ストーリーに比重を置いて描かれる。そういった点で、主人公が「ロックスター」である必然性はあまり感じないのだが、ロックを題材にしているだけあって音楽に関してはひとつ突出した出来となっている。これは音楽担当がA・R・ラフマーンであるところに負う部分が大きいだろう。ロックだけに限定した音楽を使っているわけではないのだが、それでも山奥の寺院でギターをつま弾く主人公のシーンなどはなかなかに雰囲気が出ており、ここから徐々に音楽的に大成する主人公の姿には説得力がある。勿論ロックスターとなり轟音でギターを掻き鳴らし、音楽ホールの観客を大いに沸かすシーンも実に”らしい”ものだった。要するに主人公が「ロックスター」であることが嘘くさくないのだ。この辺は監督の演出と、主演のランビール・カプールの力量によるところが大きいだろう。

一方ラブ・ストーリーのパートは実に情感豊かに描かれている。二人がバイクで訪れる雪のカシミール地方や、古城の見えるチェコの草原など、二人が愛を育むロケーションもしっとりした美しさで撮影されていた。主人公が愛した女性は既婚女性であり、これは不倫ということになるのだが、インド映画ではこの不倫を描くというのが非常に珍しいことで、ある意味挑戦的な物語だと言えるかもしれない。そしてこういった瀬戸際のシチュエーションだからこそ切なくもまた鮮やかに燃え上がる愛の形を描くことに成功していた。特にクライマックスでの、もはや逃れる場所も無い程に追い詰められた二人が「二人だけの場所」について語り合うシーンの美しさはかなさは白眉と言っていいかもしれない。物語自体は後半いわゆる「難病悲恋もの」の様相を呈するが、これは意外と嫌味なく語られていた。そしてこのヒロインを演じるナルギス・ファクリー、透き通った美しさと寂しげな表情が心惹く女優だった。