映画『ジャックと天空の巨人』は醜い巨人族がとっても怖いアクション・ファンタジーだった

ジャックと天空の巨人 (監督:ブライアン・シンガー 2013年アメリカ映画)


「『ジャックと天空の巨人』?「ジャックと豆の木」なんだろ?今さら誰でも知ってるような子供向けのおとぎ話を、たいそうな金掛けて映画化してどうしたいっていうの?それにブライアン・シンガー監督映画って、今まであんまり面白いと思ったことないんだよなあ」と、最初は相当ナメてたオレなのである。まあしかしお話が子供向けでも、たっぷり使われたCGIの映像を眺めるだけなら、暇つぶしにはいいかもしれない、そう思ってレンタルしてみたのだが…これがなんと、おもいのほか面白かった。いやあ、ブライアン・シンガーさんには深く深く平伏しなければならない。
物語はなにしろ「ジャックと豆の木」である。しかしそれに野心に溢れた伯爵の陰謀、王女との恋、巨人族と王国軍の大規模戦闘、というアレンジを加え、決して子供向けの物語にとどまらない非常にスペクタクルに満ちたエンターティメント作品へと昇華しているのだ。
まず冒頭の、主人公と王女のそれぞれの来歴を交互に描いてゆく描写がいい。全く身分の違う二人ではあるけれども、それぞれが胸の内に感じる喜びの在りかや、自らの境遇に感じる遣る瀬無さが、実は共通のものであり、二人が全く同じキーワードのもとに生きていることを、巧みな演出で見せているのだ。まずこの部分でこの映画が非凡なものであることを感じさせてくれる。
そしてその二人の背後で進行する伯爵の陰謀だ。ここで「天空に存在する巨人国の伝説」が絵空事ではなく実は隠蔽された事実であり、伯爵がこの巨人族を使って国家転覆を図っていることが描かれる。これにより物語は「幼稚なおとぎ話」から、現実と異世界を行き来するダーク・ファンタジーの系譜へと格上げされるのだ。
そしていよいよ天空に浮かぶ大地で巨人族とのご対面、と相成るわけだが、巨人なんてでっかいだけでドン臭い連中だろ、と思ってたら大間違い、現われた巨人族は十分に醜くおぞましい姿で、人間達を次々と貪り食い、その巨躯と怪力と凶暴さで、たっぷりと恐怖を煽ってくれるのがまたいい!そしてこの巨人族、遂には地上に大軍を成して降り立ち、主人公の住む王国の軍団と、熾烈かつ息を呑むような戦闘を開始するのである。
すなわちこの『ジャックと天空の巨人』、巨人族による恐怖!食人!が描かれ、彼らとの戦闘による破壊!殺戮!死!がふんだんに盛り込まれているのだ。レーティングの関係からかどぎつい描写はないにしろ、まさかここまでやってくれるとは思わなかった。映画『ロード・オブ・ザ・リング』ほどではないが、ここでは巨人軍と王国軍との激しい攻防が繰り広げられる攻城戦が描かれ、一進一退のその戦いはまさに息を呑むものであった。
そしてその戦いを、貧しい農民である主人公と王女との共闘と、巨人族族長との追跡・逃走劇に収束させながら、物語はファンタジーらしい華々しいクライマックスを迎えるのである。ラストのあのオチまでにやりとさせられ、充実したエンターティメント作として完成した作品であった。