愛と友情と下ネタと(あと暗黒皇帝)〜映画『テッド』

■テッド (監督:セス・マクファーレン 2012年アメリカ映画)


「いつも一緒にいてくれるお友達が欲しい!」一人ぼっちの少年ジョンの願いが神に届いたのか、なんとクリスマスの日、熊のぬいぐるみテッドに命が宿り、二人は永遠の友情を誓ったのでありました、メデタシメデタシ。…しかしここで終わったら心温まるファンタジーなんですが、映画『テッド』は、ジョンとテッドがそのまま歳をとり続けた27年後を描きます。冴えない中年になったジョンと、単に下品なオヤジ熊になったテッド。ジョンには素敵な恋人ロリーが出来たものの、27年来の腐れ縁ともいえるテッドとの下らない付き合いも楽しくてやめられない。業を煮やしたロリーは遂に「テッドと私とどっちを取るの!?」とブチ切れます。さあテッドとジョンの友情の行方は!?…というコメディ映画です。
これ、アメリカン・コメディの基本パターンである「ダメ男が大人になる物語」をうまくひねって作られたドラマなんですね。主人公ジョンはうだつの上がらない仕事ぶりをしているとはいえ、一応社会人ではありますし、おまけにきちんと素敵な恋人までいます。だから決して「ダメ男」というわけではない。ただ、ジョンはテッドという「子供時代」を引き摺ったまま大人になってしまっている。だからこれは、「いつまでも子供ではいられない、大人になったら大人として生きなきゃならない、でも自分の子供時代ってそんなに簡単に捨てられるものなのか?そもそも子供時代って捨てなきゃならないものなのか?」というお話なんですよ。
この映画において「テッド」とはジョンの子供時代の名残りを象徴したものなんですね。テッドはクスリはやるは酒は飲むは女に弱いわ下品だわ、どれもこれも「しょうもない大人」を具現化したような存在で、「子供時代の名残り」というには純朴さの欠片もないキャラクターではありますが、こういった節度の無い習癖というのは世間一般的には"一人前の大人"のやる行為ではない、ととられるようなことだったりするんですね。そしてテッドのそんなメンタリティは実はジョンの一部だということができると思うんです。さらにジョンはテッドに引き摺られて仕事は疎かにしちゃうし、大事なガールフレンドまでほっぽってしまう有様。要するにいろんなことに責任を持って対処できない。その「一人前じゃなさ」「責任の持てなさ」がジョンの「大人になりきれない」部分なんですね。ジョンもそういう自分が嫌で、自分を変えようとする。自分自身の子供っぽさを捨てて大人になろうとする。そしてテッドと決別しようしますが、それはすなわち「自らの子供時代の名残り」と決別するといった意味なんですね。
しかし人というのは、子供からある日突然、または徐々にでもいいんですが、【大人】という存在へと、昆虫が変態するみたいに生まれ変わって全然別の存在になれるのでしょうか。子供と大人、というのは、水と油のように相容れない、相反するメンタリティなのでしょうか。実のところ人というのは、大人になりながらも自らの中に子供を内包しているのだろうし、それがどう表層に出るか個人差があるに過ぎないものではないでしょうか。子供は放っておいても肉体的に大人になりますが、それだけでは大人じゃない、というのは、いってみれば「社会人としての大人」を要求されるからで、つまり成人の中には「子供」と「大人」とそして「社会人」がいる、ということになるんです。すなわちジョンの苦悩の元となるのは「子供」っぽいということなのではなく、「社会人」として対処するべきところを対処できない、ということなんですね。テッドを捨ててそれで全て丸く収まる、とならないのはそういうことなんですね。そして、テッドという「自らの子供時代の名残り」を、映画の中では「友情」という形で大切にする、守ろうとする、という行為は、それはジョンの、自分自身を大切にする、ということでもあるんですね。
それとあわせ、この物語は、ジョンとロリーとのラブ・ストーリーとして観ても素敵なんですね。ロリーは自分なりにキャリアを持ち、ジョンが多少収入が低そうでも気にしていません。金持ちの社長の息子に言い寄られても少しも心が動かないのはジョンを信頼し愛しきっているからです。ロリーはありのままのジョンを愛していますが、そんなロリーがテッドに我慢ならないのは、テッドが下品なオヤジ熊だからなのではなく、ジョンの心がテッドという形でフラフラして、自分のことをしっかり見てくれないからということからなのでしょう。子供っぽさとかそういうのは関係ないんです。しっかり愛して欲しい、それだけなんです。そういったロリーの愛情深さもきちんと描かれていて、意外とこの映画、コメディの皮をかぶりながらもラブ・ストーリーなんだなあと、そう思いましたね。
あ、あと暗黒皇帝がこの映画に出演していますから暗黒皇帝ファンの方(そんなのいんのかよ)はお楽しみに!

1/23 追記
書き忘れちゃったんですが、『テッド』って実は『トイ・ストーリー3』のその後のお話、つまりは『トイ・ストーリー4』ってことなんじゃないのかな。『トイ・ストーリー3』というのは成長したけどやっぱり子供時代に一緒に遊んだ玩具が捨てられない、そんな玩具との友情の話なんだけど、『テッド』というはそれからさらに友情が腐れ縁と化してしまった話だと思うんですよね。これって地続きのお話なんではないのかな。