小説『アンドロイドの羊の夢』はSF版『ダイ・ハード』だ!

■アンドロイドの羊の夢 / ジョン・スコルジー

アンドロイドの夢の羊 (ハヤカワ文庫SF)

元兵士、凄腕ハッカー、現在は悪い知らせの運び屋。そして、つぎの任務は「羊」探し!?地球‐ニドゥ族の貿易交渉の席上で事件がおきた。戦争につながりかねないこの問題の解決のため、ニドゥ族は代償として特別なある「羊」の調達を要求してくる。期限は一週間。凄腕ハッカーの元兵士クリークがこの羊探しを命じられるが、謎の宗教団体に追われ、反ニドゥ勢力の暗殺者に狙われるはめに。そして、ようやく見つけ出した羊の正体とは……。〈老人と宇宙〉シリーズ著者がP・K・ディックに捧げた冒険活劇SF。

最初に書くと、メッチャ面白かった!!「屁」による異星人要人殺し、というトンデモな発端から始まるこの物語、「なんじゃこりゃ!?」と思う暇が有らばこそ、お話はあれよあれよという間に大風呂敷を広げ始め、剣呑な異星人相手に地球政府の人類存亡をかけた権謀術策が渦を巻き、その只中に放り込まれたタフな主人公とヒロインのアクションに次ぐアクション、追いつ追われつの絶体絶命の逃亡劇が連打して、そんな物語の要所要所に思わずくすりと笑っちゃうユーモアが散りばめられ、さらに10ページに1個は短編1作に匹敵するようなSFアイディアをこれでもかと盛り込み、500ページあまりのページ数をあっという間に読ませてしまう、昨今読んだSF小説の中でも傑作中の傑作と呼んでいい作品がこの『アンドロイドの羊の夢』だ。
「え?タイトルってあの?」とお気づきになる方も多いとは思われるが、P・K・ディックの名作タイトルのパロディであると同時に、確かに「ブレードランナー」的な狩る者と狩られる者の追跡逃亡劇としても共通している部分があるかもしれない。しかしなによりも、こういうタイトルが許せちゃうような、全編を覆うユーモア感覚がなにしろ素晴らしい。しかし締める所はきっちり締めていて、敵は冷酷非道の凶悪極まりない連中ばかり、陰惨な殺しもそこここに登場し、彼らに狙われる主人公とそのヒロインは常に死と危険にさらされ、満身創痍になりつつからくも危機を乗り越え、そしてまた次の危機へと遭遇してゆくのだ。う〜むこれはSF版『ダイ・ハード』だね!
彼らを取り巻く異星人種族と地球政府の虚々実々の駆け引きも常に二転三転しつつ物語を意外な方向へと向かわせてゆく。これにさらに超A.I.の存在が裏から主人公一行をサポートし、さらにさらに〈進化した羊の教会〉なる謎の宗教組織まで暗躍するものだから、先の読めない物語展開に常にはらはらし通しになってしまうのだ。作者であるジョン・スコルジー、実はこれまで1冊も翻訳を読んだことが無かったのだが、この作品にすっかり惚れ込んだオレは、作者の出世作である『老人と宇宙(そら)』シリーズ既訳版4冊をまとめ買い、現在順調にじっくりたっぷりスコルジーSFに浸っておる最中であります。

アンドロイドの夢の羊 (ハヤカワ文庫SF)

アンドロイドの夢の羊 (ハヤカワ文庫SF)