■パーフェクト・スナイパー <未>(監督:プラッチャヤー・ピンゲーオ 2010年アメリカ映画)
オレの大好きなムエタイ格闘ムービー『マッハ!』を監督したプラッチャヤー・ピンゲーオが、なんとケヴィン・ベーコン主演でハリウッド映画を撮ったというじゃないか。まさかケヴィン・ベーコンが半裸になってムエタイを!?象に乗ったり仏像を守ったりするのか!?まさか途中で変なヘルメット被ってエネルギー吸収したりリブ・タイラーを誘拐したり変な薬打って透明になったりトレマーズに追いかけられたりする映画じゃないだろうな!?…とまあ『マッハ!』プラス・ケヴィン・ベーコンという既にして異種格闘戦みたいな組み合わせに胸ときめかせてDVDをレンタルしたわけですよ!
舞台はタイ。トニー・ジャーが象を愛で、アメリカから結婚式でやってきた馬鹿連中がハングオーバーを起こす国タイ。ここで凄腕の殺し屋スナイパー、チャーチ(ジャイモン・フンスー)はある男から殺しの依頼を受ける。男の娘は犯罪シンジケートにさらわれていた。このシンジケートの常套手段はさらった女をシャブ漬けにして売春を強要するというものだった。娘は現在生死すらも分からない。男はチャーチに、この犯罪シンジケートを襲撃し娘を探してくれと頼むのだ。そこでチャーチはタイ在住の武器商人ジミー(ケヴィン・ベーコン)と接触し、強力な狙撃銃を入手してシンジケート襲撃に出る。しかしそれにより犯罪組織同士の抗争に巻き込まれたチャーチは、依頼主が手を引くように説得するのも省みず、犯罪者どもを叩き潰すことを胸に誓い再び死地へと赴くのだ。
…というお話なんですが、読んでもらうと分かるように実は主人公はケヴィン・ベーコンじゃなくて殺し屋役の黒人俳優ジャイモン・フンスー。この人は知らなかったんだけど『ブラッド・ダイヤモンド』『グラディエーター』『アイランド』なんていう作品に出演しているらしい。そう言われてみると見た事があるような無いような。でもケヴィン・ベーコン、『スーパー!』の時もそうだったけど、食えない小悪党を演じて実に存在感を醸し出している。この映画、ケヴィン・ベーコンが出ていなければもっと地味な映画になっていたかも知れないけど、彼の出演で実にピリッと締まったものになっているんですね。仏頂面で巨体で質実剛健、必要最低限のことしか喋らないジャイモン・フンスーと、細身で神経症的でヘラヘラとチャラ臭くて何考えてんのか分からない信用の置けない雰囲気をむんむんさせているケヴィン・ベーコン、この二人の対比があったから映画にいいアクセントを生んでいたんだろう。
映画はスナイパーものなのでガン・アクション・メイン。ジャイモン・フンスーがバゴンバゴンと百発百中のスナイパーの腕前を見せてくれる。それとは別に横一列に弾が吹き飛ぶ改造ショットガンで敵を次々と粉砕してゆく姿がまた鬼神を見ているよう。ただし格闘はあるけどムエタイなんかじゃなくて、主演役者の技量に合わせた地味目の格闘技だったのはちと残念か。そしてよくある犯罪アクションと見せかけておいてこの映画、プラッチャヤー・ピンゲーオらしいタイ風味が忍ばせてある。いや別にパクチーが入ってるんじゃないです!実はこのお話、冒頭からなんだか実に怪しい娘が絡んできて主人公と行動を共にする。ちょっぴりネタバレすると、この映画、少々超自然的な要素が加味されているんですね。その辺が精霊や鬼が草葉の陰で跳梁跋扈する幻想の国タイらしい所。この怪しい娘をチランタニン・ピタックポントラクンという女優さんがやってるんですが、いやなんだかスゲエ名前だな!麻薬と売春の渦巻く魔の都タイも上手く描写され、そこそこに面白い映画でしたよ。
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