映画『ミックマック』は相変わらずのジュネ節炸裂であった!

■ミックマック (監督:ジャン=ピエール・ジュネ 2009年フランス映画)


ジャン=ピエール・ジュネといえば一般的には大ヒットした『アメリ』で知られる監督だが、基本的には『デリカテッセン』『ロスト・チルドレン』など、煮詰め過ぎたデミグラスソースみたいに濃ゆい顔した登場人物たちがSFチックでカチャカチャとこまいデザインの廃物ガジェット満載の世界でダークかつコミカルな物語を展開する一種マニアックな監督であると言っていいだろう。『アメリ』はジュネ映画のライト・バージョンで、その後『アメリ』主演のオドレイ・トトゥを再び主演にして制作された『ロング・エンゲージメント』はあんまりジュネ映画っぽくないが、多分ジュネ監督が「オドレイたんキャワイイなあ…オドレイたんともう一本映画撮りたいから彼女が主演したがりそうな女性っぽい映画作っちゃうぞオレ(はあと)!」という経緯で制作されたものなのだろう(思いつきなので信用しないように)。

エイリアン4』はそんなジュネの才能を見込まれハリウッドに招聘されての作品で、ジュネ自身はどう思ってるかは知らないが、『アメリ』と並んでオレの一番好きなジュネ作品である。いや、『デリカテッセン』も『ロスト・チルドレン』も悪くはないんだけどさ、なんかこう濃ゆ過ぎるんですよ…DVD持ってるけど途中で疲れちゃって全編通して観れないんですよ…。まあこれは共同監督・脚本だったマルク・キャロの性質もあったのかもしれないが。だからジュネ映画ファンには笑われるかもしれんがオレのジュネ作品ベストは『アメリ』と『エイリアン4』なのだ。マニアックではなくライトなジュネが好きなのだ。許してよ。そんなわけでジュネ監督の最新作、『ミックマック』を観に行ったのだが、これがもう『デリカテッセン』と『ロスト・チルドレン』の時代に戻ったかのようなジュネ節炸裂!な濃いい映像の映画だった。

物語は親父を地雷で亡くし自らもとある事件で頭部に銃弾を残したまま生きている主人公がホームレスとなり、風変わりなホームレス・コミューンの人々と出会って彼らと一緒に地雷や銃弾を作っている武器会社に仕返ししちゃおう!というもの。冒頭から複数のモンタージュをナレーション無しで繋ぎながら物語のあらましと状況を映像だけで説明する手腕はさすがに優れている。途中で説明らしい説明といえば幾人もいるホームレスたちの自己紹介ぐらいか。その後も作中人物の視線にあるものやスーパーインポーズされる映像だけで何が起こり何があったかが分かるようになっており、それがまたリズミカルに編集されているものだから映画の雰囲気をいっそうユーモラスに盛り上げる。ナレーションだらけの映画を撮ってる監督はこれ一回見て勉強しなさいぐらいに思う(とか言いつつナレーションだらけの『ブレードランナー』初期バージョンは意外と嫌いではないが)。

登場人物たちのアクの強さクセの強さは相変わらずのジュネらしさで、やっぱり一人ぐらいニュートラルな人物が欲しいと思ってしまうな…。彼らがそれぞれの特技を活かして織り成す武器会社への"イタズラ(『MICMAC』にはイタズラの意もあるようだ)"も、どこか"へっぽこスパイ大作戦"といった趣で、知力よりは体力勝負、ハイテクなんか一切使わないひたすらのローテク、にもかかわらず手作り感満載のガジェットや体を張った特技にはどこまでも温もりを感じ、それらがドタバタジタバタと描かれる様からはジュネの人間観さえうかがわれる。彼らが対立する武器商人たちはハイテクと有り余る資本に支えられたいわゆるグローバリストでありモダニストであり、彼ら武器商人を懲らしめたぐらいで世界が平和になることなど有り得ないが、むしろこういったモダニズムへの反発と嫌悪が、セピア色の色調とノスタルジックなガジェットを好むジュネの中にはあり、それでこのような映画を完成させたんじゃないだろうか。でも悪くないんだけどやっぱり濃ゆ過ぎて途中飽きてしまった…。

■ミックマック 予告編