ホラー・ショートショート書いた

「食堂かたつむり」。薄暗くじめついたその店に知らずに来た客はここに閉じ込められたまま粘液が糸をひく粘液料理を無理矢理口に流し込まれる。逃げることは出来ない。何故なら全身の骨が溶けてしまった店主が軟体生物のように客に絡みつききつく締め付けるからだ。そして最後は卵を植え付けられるのだ。

「写真を撮る女たち」。葬式が行われているあらゆる場所に彼女らは現れ号泣しながら見ず知らずの者の棺桶を何枚も何百枚も写真を撮ってはまたどこかへ消えてゆく。何故何の目的でそんなことするのか、彼女らが何者なのかは誰も知らない。しかも目撃談を集めてみると、彼女らは何十年も同じ姿のまま歳を取っていないらしいのだ。

飛蚊症。最近、実際には何も無いのに視界に沢山の虫が飛んでいるように見えてしまうのだ。調べるとそれは飛蚊症と呼ばれるものらしい。俺はどうにも気になったので眼科に行って診てもらう事にした。俺の目を診察してはじめると、医者は「うっ」とうめいて顔を蒼白にした。医者は言った。「あなたの眼の中に、沢山の小虫が湧いています!」

「殺人者」。ついに我慢できなくなって、俺は会社の事務所で上司を叩き殺した。殺したあと、死体をどうしよう、と思った。そして「木を隠すなら森の中」という言葉を思い出した。だから俺はフロアにいる同僚を全て叩き殺した。それから会社のビルの中の人間を皆叩き殺した。表に出ると、俺は町中の人間を叩き殺し始めた。いや、まだ足りないのだ。いずれはこの国の人間全てを、そして地球に生きている者全てをこの手で殺し、世界を死体だらけにするのだ。

「変身」。ある朝目覚めると俺は巨大な毒虫になっていた。次の日、俺は魚になっていた。次の日、俺は蛙になっていた。次の日、俺はトカゲになっていた。次の日、俺は鳥になっていた。次の日、俺はネズミになっていた。次の日、俺は猿になっていた。そして今朝、俺は人間になっていた。俺は考えた。待てよ、明日はいったい何になるんだ?

「拒食症」。食べては吐き、食べては吐いた。私は拒食症だった。ある日、もはや何も吐けないと思った私の口から、白くてもやもやしたものが吐き出された。どうやら魂のようだった。それから私は楽になった。体は軽く、気分は爽快だった。もはや何も食べなくとも、息さえする必要も無かった。やせ細った私は本当に骨と皮だけになり、内臓は干からびた塊だけとなり、いつしか皮のこびりついた骨だけになった。ああ、とても楽しい。今日は街に繰り出そう。

「果実」。怪しい夜店の爺は「想っている人の顔とそっくりの実が成る木だよ」と言って私にその鉢植えを売りつけた。暫くしてその木には学生時代とても好きだったけれど想いの実ることの無かった女性の顔とそっくりの実が成った。眠っているかのように瞳を閉じたその顔はどこまでも愛らしく、私の心をときめかせた。それから私は会社から帰ると毎日彼女の顔をした実をうっとりと眺め、時には語りかけ、そっと口づけをしたりさえした。それはとても幸福な毎日だった。しかし熟し切った果実は次第に腐りはじめた。白く透き通るように美しかった彼女の顔には段々と斑点が浮かび、いつしか薄汚い茶色に変色し、瑞々しく張りのあった果皮もしなびて皺がよりだした。眼窩であった部分は窪み、頬だった部分は垂れ、おまけに死臭のような臭いまで漂わせていた。ある日すっかりと腐り果て顔の形に似たなにかがぶらさがっているだけのその鉢植えを、私は裏庭に出して燃やすことにした。炎に嘗められ燃えてゆくかつては美しい人の顔をしていた果実は、燃え尽きる瞬間、中の空気がはぜて小さな音を洩らした。私にはそれが、彼女のお別れの言葉のように聞こえた。

(一部Twitterより転載)