《
山上たつひこ撰集》の第4巻。
山上たつひこの漫画は『
がきデカ』でファンになったオレだが、その真価を認めたのは山上の漫画家生活後期に描かれた旅行モノ漫画だったのではないかと思う。それまでギラギラとした狂気と爆発的な
スラップスティックを描き続けてきた山上だが、ここではすっかり脂も力も抜けた作品が描かれている。そこが何故かいいのだ。登場人物たちは作者本人とその友人達をモデルにしているようだが、そんな彼らがなんだか茫洋としながらひなびた温泉街をさまよう様は、くすぐられるような面白みがあるのと同時に、なんだか奇妙に心落ち着くものがあるのだ。しかしそこは山上、かつて狂気とナンセンスのどす黒い世界を描き続けたものだけにしか描けないような深みと情趣がそこには存在する。いってみれば若かりし頃切った張ったの任侠の世界に生きた者が足を洗い、市井の人となって柔らかに老年を迎えながらも、その佇まいにはどこか一点の緊張感を孕んでいる、といった風情か。枯れてこそなおその輝きを感じさせる
山上たつひこという漫画家は、真に優れた作家であったのだとしみじみ感じさせる。