パソコン手術

随分と前からパソコンの調子がおかしかったのである。電源を入れてもすぐ落ちる。しかもOSではなくDOS画面から落ちる。パソコン前面にあるPOWERランプは点いているままなので通電はしているようなのだが、システムそのものが立ち上がらない。POWERスイッチを再度押してもうんともすんともいわない。しょうがないからいちいち背面の電源ジャックを抜き差しして電源そのものを落とす。それを何回も繰り返すと段々とOS画面まで行き着くようになる。OSさえ立ち上がってしまえば後は何も不具合が出ない。なんなんだこれは、と思いながら何の解決策も練る事無くずうっと放っておいたのだ。その間どうしていたか。実は使っていないときはスリープ状態にし、寝る時も会社に行っている時もずっとパソコンに電源が入っている状態にしていたのであった。
パソコンというのはずっと稼動状態にしていても壊れるものではない。しかしだ。電気代食ってるんですよ。電源ユニットは350Wで、これはいつもそれだけの電気を使っていると言う意味ではないのだろうが、そこはいじましい小市民としてやはり気になるのですよ。それと、調子の悪いものに何の手も打たずにおく、という現実対処能力の欠如も如何なものか、と、ものぐさな己の性格の駄目さ加減まで気になってくる始末なんであった。
という訳でこれは電源ユニットが問題なのであろう、夏に大層なグラフィックカード入れたものだから、電源があっぷあっぷなのだろう、と、何の根拠も無く決め付け、それではもっと大容量の電源ユニットに買い替えるべえ、と、有楽町のビックカメラへと一念発起してようやっと足を運んだオレなのであった。当初はパソコンの買い換えも考えていたのだが、電源以外は何の不満も無く動いていたパソコンを買い換えるというのも随分勿体無い事だぐらいのことが、算数の苦手なオレでさえ預金通帳のあまりにつましい額を見ながら判ったのである。
さて懸案の電源ユニットも購入し、いざパソコンの箱をブチ開けてにっくき修理に取り掛からん、と、ここ数ヶ月滅多に見せなかったやる気を見せ、どりゃッ!とばかりにHDだのDVDドライブだのMBだのに刺さったコネクタを外していったオレだが、とあるコードの先を見た時にそれまで考えてもいなかったことに気付いたのである。パソコンに二つ付いているファン。これが電源ユニットから直にハンダ付けしてあったのだ。つまりファンも取り替えないと電源ユニットは取り替えられない。ここで修理は頓挫した。ろくに調べもせずに思い付きだけで行動するからこういうことになるのである。だいたいオレはどのような事柄であろうといつもこのような対処ばかりしてしまうのだ。そうだあの時も、この時も、と悲しく忌まわしい記憶が石の下から涌いて出たザザムシの如くオレの脳裏を這い回った。ああ、いつだって、いつだってこうじゃないかオレ!いっつもダメじゃんオレ!などと情けなさと自己卑下で目の前が釣瓶落としの秋の日の午後のように暗くなったオレであったが、自分を責めた所でどうにもなりはしないのである。
そうしてすっかりやる気の失せたオレであったが、電源ユニットの説明書きを見ると次のようなことが書いている。「コネクタ接続の配分は消費電力の大きいものに片寄らないように接続しましょう」。通常パワーコネクタは1本のコネクタから2つ配電出来るようになっているのだが、これが例えば電力の食うグラフィックカードといっしょにHDやMBを繋いでいたから電源が落ちたのではないか?よく判らんが(というかまた勝手に解釈しているのだが)そういうことだったのではないか?と思い、配電に工夫してもう一度コネクタを接続しなおす。そうして再びパソコンを組み直し、POWERを入れてみると、これが調子がいい。ということはやはりそういうことだったのか。いやそうだ多分そうだ、とまたもや無根拠に現状肯定をし始め、実は今回の事で何一つ学習していないのを露呈させたオレであったが、直っちまえばこっちのもんだからオールOKなのである。電源ユニット購入代金はお勉強代となってしまったが…。
という訳で今の所は問題なく動いているオレのパソコンである。しかしただ一つ、気になっている事がある。パソコンを開けコードをあれこれ弄っていた時、どこにも繋がっていないコードを1本発見したのである。そしてそのコネクタの刺さるべき場所はパソコン内部のどこを探しても見つからないのである。どうしよう…しばし考えてオレは一つの結論に達した。「見なかったことにしよう。」…かくして、自らの適当極まる性格だけは最後までどうしようもなかった、という結末がついて、今回のお話は終わるのであった。