- アーティスト: サントラ,ダイナソー・L,シルヴェスター,ニュー・ヨーク・シティ・ピーチ・ボーイズ,タッチ,アリーム,マーティン・サーカス,ジミー“ボー”ホーン,ゲイリーズ・ギャング,Mr.フィンガーズ,ブッカー・T.&ザ・MGs
- 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
- 発売日: 2005/07/20
- メディア: CD
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これは名盤だ。貧相な音楽機材、稚拙な演奏技術、粗悪な録音、しかし、それらを補って余るほどの芳醇なグルーヴ、溢れんばかりのソウル。この高みはなんなのか。商業主義とは一線を画し、「ただ現実を逃れ、朝まで快楽の中で踊る為だけの音楽」が、ここまで瑞々しく真摯なメッセージに満ちているのは、これを作った人々が、まさに「音楽しか無かった」からなのである。音楽が無ければ、死ぬか気が狂うかしか道が無かった人たちなのである。彼等の多くは黒人でありゲイでありヤク中だった。マイノリティの中のマイノリティ。そして誰よりも、生きる事に必死だったのだと思う。なぜなら生きる事が即ち「サバイバル」だったから。彼等にとって、受け入れてくれる最後の場所は、ダンスミュージックを奏でるアンダーグラウンドのクラブだけだったのだ。
曲名も素晴らしい。CD1はノンストップミックスになっているが1曲目のタイトルが「Life Is Something Special」。3曲目は「Can You Feel It」、5曲目は「Release Yourself」。「人生とは何か特別なもの」であり、「君はそれを感じ」そして「自分を開放しなさい」。この圧倒的な自己肯定と、その裏にあるギリギリまで追い詰められた生。そうだ、生きる事は、「何か特別な事」だと信じなければ、ここから一歩も足を踏み出せないではないか、そして、信じる事など簡単なのだ、リズムに合わせて、最初の1ステップを踏めばいい事なんだから。あとはどうすればいいのか、体が知っているはずだ、自分が脈打つ一個の鼓動であり、生き物だという事を、そして、それを感じる事こそが、生そのものの喜びなのだということを。
どの曲にも孤独と希望と性的興奮と虚無がない混ぜになったグルーヴが満ち溢れている。そしてどの曲も一見賑やかなダンスミュージックであるにも拘らず、奇妙な切なさに満ちている。どこにもいかない。どこにもいけない。ただ、自分はここにいる。ここにある。未来はいつも暗澹として、そしてこのクラブの外には糞みたいな現実が自分を叩きのめす為に待ち構えているんだろう。自分は多分今日も負けるんだろう、昨日と、今までと同じ様に。でも彼等は知っている、音楽のたったひとフレーズが、ダンスのステップの一歩が、そんなことなんて全て忘れてしまわせてくれる事を。だから今日も音楽を聞き、そして彼等は踊るのだ。勝つのではない、勝ち負けではない、ただ音楽が「自分」というものを肯定するパワーを感じるんだ。自分が誰でも、何でも、音楽は分け隔てなく強力にグルーヴしてくれる、それは、音楽を聴くという行為だけが、たった一つだけの自分自身に残された現実的な行為だからだ。だから今日も音楽を聴くのだ、ステップを踏むのだ。生き残る為に、サバイヴする為に。アンダーグラウンド・シーンの音楽はそんな事をオレに教えてくれる。
ちなみにCD2の1曲目、映画本編のタイトル曲にもなった「Oasis」という曲、恐るべき高揚感と寂寥感に満ちたこの音について調べると、UR系のハウスレーベルからのものだという。ここにもデトロイトが。デトロイト・ミュージック、恐るべし。