日曜の朝

次の事務所は横浜の本社への通勤となる。それで早朝から通勤経路と時間のシミュレートをするために実際に電車の乗って本社へ行ってみる。
横浜には縁が無い。東京都在住の地方出身者にとって、神奈川県横浜市は単なる一地方都市でしかなく、魅力も興味も感じたことが無い。本社出勤のシミュレートを終えた後、そんな横浜の町(と言っても関内なんだが)をぶらぶらとしてみる。
横浜中華街。観光客向けにしつらえた中華思想の薄っぺらなコピーで塗り固めた外装の街並み。朝陽門、朱雀門、延平門、玄武門、が風水の東南西北にきちんと位置していることを無意味に確認する。オレの愛用の腕時計はフィンランド製のハイテク・デジタル・ウォッチSUUNTO VECTORで、オレには無用なのだがコンパスが付いていて、こういう遊びが出来る。ちなみに高度計や気圧計まで付いているこの時計の製作会社はもともと軍用コンパスの製造メーカーで、この時計もアフガン戦争の時、米軍グリーンベレーの標準支給品だったという。
山下公園。クリーンでよく整頓され、そしてやはりどうにも薄っぺらな中産階級の夢のような公園。実体も無く膨張した幸福に肉体を追従させた良き家庭人達が愛玩動物を散歩させる。ガウディの粗悪な断片を無思想に捏ね上げたような無難にアーティスティックな造形物の数々。金の使い方の知らない地方都市の文句の付け方さえ思い浮かべられない投資先。そして公園の隅々には埃が吹き溜まるようにホームレス達が集い、終わりの無いまどろみの中に佇む。彼らはモンゴル高原の草食動物のように無害で従順だ。高度資本主義社会ではホームレスでさえ社会の中で飼い慣らされ、逃げ場が無い。
万遍なく行き渡った中庸と、間延びした中流感覚。無批評で傲慢。オレはやはりこの街が苦手だ。