最近聴いたプリンスとかエレクトロニック・ミュージックとか

Prince and The Revolution

Prince and The Revolution: Live / Prince and The Revolution

1985年3月、プリンスによる伝説のパープル・レイン・ツアーの約2時間にわたるパフォーマンスを収録したCD2枚と同内容のBlu-rayを同梱したアルバム。なにしろ1984年にリリースされた大ヒットアルバム『パープル・レイン』はプリンスのキャリアのターニングポイントともなった作品であり、神の如き全能感に満ちたプリンスの凄まじい勢いと熱気がそのまま真空パックされたとんでもなくハイテンションなライヴ・アルバムとなっている。ひとつだけ苦言を呈するならば、『パープル・レイン』が全世界を席巻していたその時に聴きたかった、と言う気がしないでもない。いや、この歳だと、このテンションについてゆくのが少々キツいのだよ……。

Arthur Baker Presents Dance Masters: Shep Pettibone

ダンス・ミュージック界のレジェンド、Arther Baker監修による新コンピレーション・シリーズ「DANCE MASTERS」。その第1弾は80年代ダンスミュージックシーンを牽引した名プロデューサーShep Pettiboneのリミックスコレクション。CD4枚組全47曲ブックレット仕様のジャケットという大ボリューム、収録アーチストも80年代を席巻した有名アーチストばかり、さらにその全てがリミックス曲という、当時のダンス/ポップ・ミュージックを知る者には涙チョチョギレる内容。以下にそのアーチストの一部をコピペ。いやあ、こりゃ懐かしい!

ホイットニー・ヒューストンジョージ・マイケルデュラン・デュランシンディ・ローパーニュー・オーダーペット・ショップ・ボーイズエルトン・ジョンポインター・シスターズ、ラン・DMC、キム・ワイルド、ライオネル・リッチーサルソウル・オーケストラレヴェル42ジョージ・ベンソン、ヒューイ・ルイス & ザ・ニュース、THE B-52's ……etc

Catharsis / Sven Väth

Catharsis

Catharsis

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ジャーマン・テクノの第一人者Sven Väthの20年振りになるというフル・アルバム。自らの主催するレーベルCocoonの設立25周年も兼ねてのリリースだとか。相変わらずのヤンチャなジャーマン・イケオジ振りが楽しい。

Balance Presents Hannes Bieger / Hannes Bieger

メルボルンを拠点とするハウス・レーベルBalance Recordingからリリースされた新作DJ Mixアルバムはドイツのディープ・テック・ハウス・プロデューサーHannes Biegerによるもの。暑い夏にクールなテック・ハウスをドウゾ。

古風 Ⅱ / 冥丁

古風 Ⅱ

古風 Ⅱ

  • Kitchen. Label
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古い日本の音源をサンプリングし唯一無二のサウンドを構築する広島在住のビート・メイカー冥丁のニューアルバム。今作でもノスタルジアと奇妙に切り刻まれた和風音源とがパッチワークされたユニークな作品となっている。

Detroit Heat / Big Strick

DETROIT HEAT

DETROIT HEAT

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デトロイト・ハウスの鬼才、OMAR Sの従兄弟であるBIG STRICKによる1stアルバム。もともとは92年に製作されお蔵入りになっていたカセットテープを11年にリイシューしたものなのらしい。80年~90年代のアンダーグラウンドなクラブ・ミュージックの空気感をそのまま真空パックしたようなプリミティブな1作。

Silent Night / Hania Rani

Hania Rani - Silent Night. Bleep.

ポーランド出身のネオクラシカル・ピアニスト、Hania Raniの作品がオレは大好きなのだが、殆どのアルバムは購入してしまい、少々「Hania Raniロス」状態だったのである。それでネットを漁って見つけたのが2020年12月にリリースされたシングル『Silent Night』。クリスマス・ソングのアレなのだが、聴いてみると実にHania Raniらしいアレンジの加えられた作品として完成しており、オレは満足であった。

ゴッサムシティの真の守護者は誰だ?/『バットマン:ゴースト・ストーリーズ』

バットマン:ゴースト・ストーリーズ/ジェームズ・タイノンIV (著)、ギレム・マーク (イラスト)

バットマン:ゴースト・ストーリーズ (ShoPro Books)

ゴッサムシティ全体を巻き込んだ大戦争“ジョーカー・ウォー"を経て、バットマンは多大な犠牲を払い、街は大きく様変わりした。 急速な変化を続けるゴッサムに若きヴィジランテ“クラウンハンター"が現れ、ごろつきを次々と血祭りにあげていく。 その一方で謎の男“ゴーストメイカー"が出現し、バットマンに戦いを挑んできた。 混迷を極める街は、真の守護者を求めている!

ジョーカーがゴッサムシティを乗っ取り、バットマンを「本気」で叩き潰しにかかった物語『バットマン:ジョーカー・ウォー』。絶対の危機に陥りながらからくもジョーカーを倒したバットマンだったが、その戦いは様々なものに変化を余儀なくさせていた。本作『バットマン:ゴースト・ストーリーズ』は、そんな『バットマン:ジョーカー・ウォー』の続編となる物語だ。

本作でまずメインとなるのは謎のヴィジランテ、ゴーストメーカーの登場だろう。白装束にフルフェイスのマスクを被るゴーストメーカーはゴッサムシティに突然現れ、「バットマンが手を下そうとしない正義」を成そうとしていた。だがその矛先となったのは、『ジョーカー・ウォー』においてジョーカークラウンたちを血祭りにあげていた少年クラウンハンターと、ジョーカーの恋人として犯罪を繰り返していたがバットマンの側に付いたハーレイ・クインの命を奪う事だったのだ。

……とまあこの辺りで「???」となる方もいらっしゃるだろう。クラウンハンターは前作で初登場のキャラだし、ハーレイ・クインの転向についても前作の出来事である。そんな部分でやはり『ジョーカー・ウォー』を読んでいないとピンと来ないだろうから、やはりそちらを先に読まれたほうがいいかもしれない。

バットマン自身も変化を余儀なくされている。ブルース・ウェインは既にウェイン産業を退き、善き助力者だったアルフレッドもゴードンももういない。さらに肉体の老いを意識し始めている。そして、バットマンのポリシーであった「不殺」は結局ヴィランを街に野放しにしているのではないか?という疑問からクラウンハンターが登場し、さらにゴーストメーカーに付け入らせる結果となってしまっている。こういった、従来的なバットマンの在り方に変化を突き付けてきたのが本作なのだ。マッチョな「大人の男」であるバットマンの物語に、向こう見ずな少年クラウンハンターを登場させるのも、読者の年齢層の変化を鑑みたからなのだろう。

ただ作品として見ると、壮絶な展開を見せた『ジョーカー・ウォー』の後では薄味に思えてしまう。テコ入れとして登場したゴーストメーカーも、どうも今一つ印象が薄く、クラウンハンターはオレの如き老年のバットマン・ファンから見ると、お子様が粋がっているだけにしか見えない。そういった部分で少々不完全燃焼感があったが、それでも一つ見所があるとすれば、ハーレイ・クインの気まぐれな魅力だろうか。善だ悪だと喧しい物語の中で、いつも自分なりの生き方をする彼女が最も人間臭く見えるのだ。

最後にゴーストメーカーとクラウンハンターのビジュアルを紹介しておく。

ゴーストメーカー

クラウンハンター

最近読んだコミック/【真の完結編】が描かれる『アイアムアヒーロー 完全版』とか

アイアムアヒーロー 完全版(22) / 花沢健吾

なんと、あの『アイアムアヒーロー』の、【真の完結編】が存在したとは知らなかった。この『アイアムアヒーロー 完全版』は電子書籍版としてカラーページ復刻を施し刊行されたものだが、その最終巻である第22巻に、書籍版のラストからさらに80ページの書下ろしが追加され、【真の完結編】を読むことができるのである。書籍版を読んだ方はご存じだろうが、『アイアムアヒーロー』のラストは「え?最終回がコレ?」と呆れかえる程に投げっぱなしの終わり方だった。オレ自身は全体的な部分で楽しめたのであのラストも作者なりの考えがあったのかな、と好意的に受け取とったが、それでも一般の評価は相当低かったと思う(書籍版『アイアムアヒーロー』22巻の感想はこちらに書きました)。

そして、この【完全版】である。これがもう、まごうことなき【真の完結編】として、きっちりと万感のラストを見せてくれているのである。これだ、これが読みたかったんだ!ZQNの謎をきちんと説明したとかそういう部分は無いにせよ、『アイアムアヒーロー』という大部の物語の、その中で主人公・英雄が至った精神的遍歴の最終章としての結末が、鮮やかに描き出されているのだ。今のところ電子書籍だけでしか読めないようだが、とりあえずファンだった方には是非とも読んでその【真の結末】を目撃してもらいたい。いやあ、いいですよ。これでいいんですよ。

アンダーニンジャ(8) / 花沢健吾

その花沢健吾の最新連載作『アンダーニンジャ』だ。オレはこれまでこの作品を「なんだかダルイ雰囲気でユルく忍者活劇を描こうとしたのかな」程度に思っていたのだが、この8巻で考えを改めさせられた。前巻から続くニンジャたちの戦いは想像を超える熾烈さを迎え、その無慈悲で残忍な描写は「これこそが『アイアムアヒーロー』の作者だ」と思わせるほどに濃厚極まりない。よく見てみるとこれまでばらまかれていた「最新テクノロジーによるニンジャ兵器」も、オチャラケなんかではなく実はしっかりとSFな雰囲気を持ち、世界観として申し分ない。そしてこの8巻におけるその展開は、大友克洋の『AKIRA』すら彷彿させ、さらに定石外しの選手交代劇まで飛び出しているではないか。まさかここまで化けるとは思わなかったが、これもそれも作者の卓越した構成があったからこそなのだろう。正直今までナメていた。作者の方どうもすいません!

ダンジョン飯 12巻 / 九井諒子

迷宮の魔王を倒してメデタシメデタシと思っていたらどうやらそうではなかったらしい。『ダンジョン飯』第12巻では、その「魔王を継ぐ者は誰か」を描くことにより、これまで描かれてきた深淵なファンタジー世界をなお一層重厚なものへと花開かせている。ファンタジーコミックを描かせたらピカイチの九井諒子がその卓越した世界造形をさらに深化させ、「ダンジョン」だけでは終わらない世界全体を轟かす物語へと変貌を遂げているのだ。いやホントに才能あるねこの方。

あたしゃ川尻こだまだよ(2) / 川尻こだま

Twitterコミックで人気を博する川尻こだま大先生の書籍版コミックである。書籍版は美麗な装丁とカラーページ、そして細かな「遊び」により、web公開作とはきっちり差別化しているところがなにより良心的だ。これまで「ただれた生活」の「ただれた食生活事情」を描いてきたこだま大先生だが、この2巻では「ただれた在宅ワーク」の様が描かれることになる。この辺りの、「ただれたテーマ」のシフトチェンジの在り方にも、こだま大先生の「細かな目端の利かせ方」を伺うことができるというものではないか。この人は本当に才能がある。そして今回の書下ろしは、こだま大先生が「就職対策用の一般常識問題集」を解いてゆくという「一般常識クイズ大会」だ!まあ結果は読んでのお楽しみとして、なんと困ったのは、これを読んでいたオレも出された問題が解けなかったという事だ!?オレ一般常識ないじゃん!?

アオイホノオ (27) / 島本和彦

遂に雑誌連載開始、一見順風満帆とも思えるホノオ君ではあるが、新人としてのプレッシャーにまたもやのたうちまわり、結局相も変わらず気の休まらない日々なのである。そう、セーシュンはのたうち回ってナンボ!併せてホノオ君の女性事情が中心的に描かれ出し、ここでもまた苦悩と煩悩にのたうちまわるホノオ君なのである。そう、セーシュンは、のたうちまわってナンボ!そしてこんな、常に全力投球のホノ君のセーシュンの道程が、眩しくてたまらないのだ。

鋼鐵の薔薇(1) / 久慈光久

おおっと、あの血塗れの歴史大作『狼の口〈ヴォルフスムント〉』の久慈光久の新作なのか~~ッ!?と超盛り上がった新作『鋼鐵の薔薇』の開幕だ。今回も歴史作品で、舞台は中世イングランド、テーマとなるのは「薔薇戦争」である。それはイングランド王朝の覇権争いから勃発した内乱だ(以上今ネットで調べて初めて知りました)。主人公となるのは甲冑に身を包んだ無敵の騎士たちであり、そして残虐を極めたイングランド貴族ヨーク公リチャードが今回の敵となるのらしい。冒頭から久慈漫画らしい人体損壊しまくりの戦闘シーンが描かれ、期待を大きく膨らませてくれるんだ。まだ1巻なのでどういう転がり方をするのかは分からないが、じっくり読んでいこう。

夢とはなにか、現実とはなにか。ニール・ゲイマン原作によるNetflixドラマ『サンドマン』がとても素晴らしかった。

サンドマンNetflixドラマ:全10話)

ニール・ゲイマン原作の傑作ダークファンタジーコミック『サンドマン』ドラマ化作品

映画『コララインとボタンの魔女』、『パーティで女の子に話しかけるには』、TVドラマ『アメリカン・ゴッズ』、『グッド・オーメンズ』。これらのタイトルにピンと来た方はいるだろうか。そう、世界幻想文学大賞受賞作家、ニール・ゲイマン原作だという事だ。そのゲイマン原作によるコミック、『サンドマン』がTVドラマ化され8月5日からNetflixで配信されている。これが面白くないわけないじゃないか!

主人公サンドマンは「夢を司る王」であり、ドリーム、モルフェウスなど様々な呼び名を持つ。彼は「エンドレス」という7体の兄弟姉妹の一人でもあり、それぞれにデスティニー(運命)、デス(死)、ディストラクション(破滅)、ディザイア(欲望)、ディスペア(絶望)、ディリリウム(錯乱)という名を持っている。即ちかれらは人間の概念が人格化した存在であり、人類の誕生と共に常にその傍に付き添っていた者たちなのだ。

TVドラマ『サンドマン』のその前半

物語は19世紀、サンドマンがとあるカルト教団の姦計により召喚され、監禁されてしまうところから始まる。百年後、からくもそこから脱出したサンドマンだったが、強力な力を失い、さらにその王国も荒廃し破滅の危機に瀕していた。力を取り戻し王国を再建させるためには奪われた3種の魔導具を見つけ出すしかない。その魔道具とは砂袋、ヘルム、赤い宝石。こうしてサンドマンの魔道具探索の旅が始まる。これが全10話の前半5話。

「3種の魔導具」を得た人間はその力によってそれぞれに己の欲望を満たしたが、それは同時に、「猿の手」の如き諸刃の運命を人間たちに突き付ける。こういった、欲望と運命が彩る人間たちの暗く悲しいドラマがこの前半となるのだ。また「地獄へ降りたサンドマンと冥王ルシファーとの対決」なんて回もあり、いったいどんな戦いが繰り広げられるのかが大いに注目となる。

この前半5話で『サンドマン』の世界観が露わにされ、サンドマンがどのような力を持つ者なのかが明らかにされる。ここでのサンドマンはどこまでも寡黙で人間たちに冷たく、彼らの人生の傍観者でしかない。彼に興味があるのは「夢の王国」を再建しそのルールを厳守すること。サンドマンのこういった立ち位置はあまりにもニヒリスティックであり、同時にクールな魅力に溢れている。演じるトム・スターリッジのゴスないで立ちが実にハマっており、ファンになる方が増えるかもしれない。

TVドラマ『サンドマン』のその後半

後半5話では、サンドマンの「夢の王国」から逃亡した【悪夢】、通称「コリント人」が、人間世界で暗躍する様が描かれる。「コリント人」は人間の悪夢を増幅させ、シリアルキラーたちを野に放とうとしていた。一方、失踪した弟を探す少女ローズが登場するが、彼女は実は他人の夢を行き来できる【渦】と呼ばれる存在であり、「夢の王国」とサンドマンとを究極の危機に陥れることとなるのだ。

ここで描かれるのは弟を探す少女ローズが出会う様々な人間関係であり、それによって起こるドラマである。そしてそのドラマはどれもそれぞれの「夢」に関わることになるのだ。この後半においてはサンドマンの立ち位置にも変化が見られる。これまで「人間の生」に興味の無かった彼が、少しづつ「人間の生」に関わらざるを得なくなり、そこで葛藤する様が描かれるのだ。それは【渦】でもあるローズと関わらねばならないからだ。クールでダークな主人公が時折笑顔を見せるようになるのもこの後半だ。この「サンドマン自身の変化」を描く部分に於いてもドラマとして重要なパートなのだ。

そして「コリント人」だ。悪辣にして残虐、狂人にして策謀家、彼はまるでバットマン・ストーリーのジョーカーのような存在だ。彼は次々に血腥い殺戮を繰り返し、ローズの持つ【渦】の能力を使って現実世界を「悪夢」化しようと企む。彼は【悪夢】を擬人化した存在だが、傑作小説&ドラマ『アメリカン・ゴッズ』がそうだったように、ゲイマンはこういった「概念の人格化」が本当に上手い。

夢とはなにか、現実とはなにか。

「夢の王」が登場し「夢の王国」が立ち現れるこの物語において、「夢とはなにか、現実とはなにか」を描くことこそが真のテーマとなる。夢は単なる現実の影絵ではない。夢には寂寞たる現実を生きる者の希望と救済があり、同時に後悔と断罪がある。それは日々生きる者の無意識の世界であり、その無意識は日々生きる者の予言となり警告となる。それら人類共通の「現実←→夢」の総括となるもの、即ちユング的な【集合的無意識】が生み出したもの、それを物語では【サンドマンの王国】として描き出すのだ。

そして夢と現実の相克にある運命、その運命と抗おうとする人間たちの生き方、人間たちの思い、それを描き出そうとするのが『サンドマン』のドラマだ。ある意味では非常に抽象的であり、時としてその寓意が微妙に掴み難い部分もある作品ではあるが、数あるゲイマン原作作品の中でも最も重要であり、さらに深淵かつ素晴らしい含意を持った作品であろうことは、ゲイマン作品ファンのオレがここで断言してもいい。

自然で当たり前なLGBTQ描写

それと併せ、この作品は昨今の「お気持ち」的なものではなく、作者ゲイマンの作品共通の要素として、LGBTQが「普通に当たり前のものとして」描かれる。その描かれ方は豊穣として愉悦に満ち、時として危険で暗鬱としたものとして登場する。それは言うならば、そもそも【性】とは愉悦と危険のシーソーの両端にあるということであり、それがLGBTQであっても「普通に当たり前のものとして」そういった「愉悦と危険のシーソーの両端」にあるものとして描いているに過ぎない。そしてその「当たり前」な描写が素晴らしいのだ。

ちなみにドラマ後半、どこかで見た事のある人が端役にいるなあ?と思って調べたら『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』監督のジョン・キャメロン・ミッチェルじゃないか!ゲイマン原作映画『パーティで女の子に話しかけるには』の監督もしてたからその繋がりなんだろうね!『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の大ファンのオレは滅茶苦茶嬉しかったな!

【参考】拙ブログでのコミック『サンドマン』の感想

サンドマン(1)(2)/プレリュード&ノクターン (上)(下)

サンドマン(3)(4)/ドールズハウス(上)(下)

サンドマン (5)/ドリームカントリー 

デスーハイ・コスト・オブ・リビング

サンドマン』予告編

 

 

 

『イコライザー』のアントワーン・フークア監督によるSFアクション映画『インフィニット 無限の記憶』

インフィニット 無限の記憶 (監督:アントワーン・フークア 2021年アメリカ映画)

アントワーン・フークア監督と言えば『エンド・オブ・ホワイトハウス』(13)であり『ザ・シューター/極大射程』(06)であり、人によっては『トレーニング・デイ』(01)であったり『マグニフィセント・セブン』(16)であったりもするだろうが、しかし誰もが共通認識として挙げるとすればそれは『イコライザー』(14)であり続編『イコライザー2』(18)ということになるだろうか。要するに「手堅いアクションを撮るイケてる監督」ということでよろしいだろうか。

そんなアントワーン・フークアがSFアクション映画を撮ったのだという。ほう。似つかわしくないような、それはそれでありなのかも、と思えてしまうような。タイトルは『インフィニット 無限の記憶』、フークア監督作品なら劇場公開があったらチェックしていたはずだけどなあ?と思って調べたら、2020年公開予定だったものがコロナ禍により伸び伸びになり、結局サブスク配信に変更されたということなのらしい。最近よくある事ではあるが実に勿体ない。

主演は『トランスフォーマー』シリーズ、『アンチャーテッド』(22)のマーク・”軍曹顔”・ウォールバーグ、『ドクター・ストレンジ』シリーズのキウェテル・イジョフォー、『キングスマン』シリーズのソフィー・クックソン。原作はD・エリック・マイクランズの 『The Reincarnationist Papers』。

《物語》身に覚えのない記憶と不安定な精神状態に10代の頃から悩まされてきたエヴァンは、定職に就くこともできず薬物に頼る日々を送っていた。そんな彼の前に謎の組織の人間が現れ、衝撃的な事実を告げる。世界には記憶を保持したまま輪廻転生を繰り返す人間「インフィニット」が存在し、エヴァンもその1人だというのだ。戸惑いながらも事実を受け入れたエヴァンは、輪廻転生を断ち切るために人類滅亡を企む「ニヒリスト」たちを阻止するべく立ち上がる。

インフィニット 無限の記憶 : 作品情報 - 映画.com

物語はザックリ言うなら「輪廻転生を繰り返し過去の記憶を持つ「インフィニット」が二つの勢力の分かれて歴史を超えた抗争を繰り広げる」お話である。なぜ抗争を繰り広げるのかと言うと片方は「もう輪廻転生イヤ!だから人類ごと滅亡させてお終いにする!」という勢力「ニヒリスト」であり、もう片方がそれを阻止しようとする勢力「ビリーバー」だということだ。二つの勢力はそれぞれに秘密結社を結成し、なにやら怪しげな科学装置を駆使しながら歴史の影で争い合っているのである。

主人公エヴァン(マーク・ウォールバーグ)もその「インフィニット」の一人なのだが、前世の記憶を蘇らすことができず、それにより自分が何でどんな能力を持っているのかも最初は分かっていない。いわゆる「記憶喪失の主人公」の別パターンとも言える。その彼に「ビリーバー」が接触し、「過去の記憶を蘇らせて「ニヒリスト」との戦いに参戦してくれ」と言ってくるのである。

これなんかに似ているなあ、と思ったらまず一つはアンジェリーナ・ジョリー主演の『ウォンテッド』(08)なんだよね。これは「歴史の影で暗躍する超絶的な能力を持った殺し屋集団の抗争」を描いたものだ。もう一つはみんな大好き『マトリックス』(99)。これは「自分の真実の姿を忘れていた主人公が目覚めて機械生命との抗争に終止符を打つ」といったものだ。共通するのは「今まで自分がフツーの人間だと思ってたけど実はスゲエ能力を持つスゲエ組織の一員だということに気付き、世界を救う立役者として活躍しちゃうんだもんね」ということであり、この『インフィニット 無限の記憶』も同行異曲の作品だという事ができる。

解題はこれくらいにしてさて映画の内容はどうだったかと言うと、上記『ウォンテッド』や『マトリックス』の如く、超絶的な身体能力を持った者同士が重力無視の異次元戦法で撃ち合いドツキ合い、奇想天外でド派手なCGIが画面に躍るという実に楽しい出来になっている。ただしシナリオが練り込み不足で、観ていて安易な展開が目立ったり、壮大なテーマの割には重厚感に欠けていたりと、残念な部分が散見するのも確かだ。

そういった部分で、アントワーン・フークアにはSFテーマは少々向いていなかったかな、という気がしないでもない作品だった。なにより、オレはマーク・ウォールバーグは好きな俳優なんだが、この作品に関してはミスキャストだったんじゃないかと思うのだ。とはいえ、なにしろアクションに関してはフークア印のタフでスピーディーなものが観られるので(クライマックスの軍用機とのチェイスのとんでもないアクションには笑った)、気軽な感じで鑑賞すれば悪くない作品だと思えるじゃないかな。