映画『キング・オブ・エジプト』はSFだった!?(と勝手に思いこんで観てみた)

■キング・オブ・エジプト (監督:アレックス・プロヤス 2016年アメリカ映画)


古代エジプト時代、神々と人間は共生し、オシリス神によって平和に統治されていたが、オシリスの弟セトの謀反により暗黒時代へと突入した。恋人を失った盗賊ベックとオシリス神の息子ホルスはセトを倒すために冒険の旅に出る……というファンタジーアクション映画『キング・オブ・エジプト』でございます。
最初「神殿も神様も悪趣味な田舎富豪みたいにキンキラキンだしデカいだけで愚鈍そうなモンスターが暴れてるし主人公役のブレントン・スウェイツがディズニーアニメみたいな顔してるし拭っても拭っても拭いきれないB級臭がすかしっ屁のように漂っているしどうしたもんだろ」と思ってましたが、観てみると意外としっかり作ってあり、舞台もエジプトだけではなく〇〇や〇の世界なんかが登場して飽きさせない!CG大盤振る舞いの作品ではありますがドラマもきちんと成り立っていましたね。
おまけにホルス役は『ゲーム・オブ・スローンズ』シリーズのジェイミー・ラニスター役ニコライ・コスター=ワルドウだし、悪役演じるのが『300』のジェラルド・バトラーだし、ベックの恋人役が『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のコートニー・イートンだし、そんなこんなでなかなか楽しんで観ることができました。アイテムを求めて冒険し途中ちょっとづつ仲間が増えてゆくところなんかはロールプレイングゲームみたいでしたね。
最初この映画のビジュアルを見た時はフランスのSF映画ゴッド・ディーバ』を思い出しましたが、あれって未来世界が舞台ですがピラミッド状の構造物があったり「鷹の頭にヒトの体を持つ神ホルス」なんてぇのが登場してちょっとエジプトしてたんですね。この『キング・オブ・エジプト』は世界観が相当荒唐無稽ではありますが一応古代エジプトということになっていて「まあファンタジーだからこんなもんだろ」と思って観ていたんですが、とあるシーンから「ちょまてこれSFなんじゃないのか?」と思えてしまい、そこからずっとこの物語はSFだ!と勝手に思いこんで観ていました。
とあるシーンというのは最上神ラーの登場シーンなんですが、ラーの見下ろすエジプトは実は……というあのシーンですよ。いやあれはびっくらこいた。こういう宇宙観をそのまま視覚化しちゃって、しかも物語の本筋にはあんまり関係ないっていうのも凄いですが、じゃあここはどういう世界なんだ?ということなんですよ。ファンタジーではなくこれをSFと考えると、この世界に住むのは遠未来に宇宙のどこかに植民した地球人たちの末裔ということが考えらえれる。神というのはハイテクノロジーにより超人化・長命化した植民第1世代で、彼らがテクノロジーを独占化し後代の植民者たちを支配している、というのがこの世界なんじゃないのかな、と思ったんですよ。神々が流す金色の血、ってアレ実はナノマシンだったんじゃないのかとかね。
で、こういうストーリーのSF小説が実際にあるんですね。ロジャー・ゼラズニイの『光の王』という小説がそうなんですが、この物語、なんとインド神話を題材に借りて世界を形作ってるんです。『キング・オブ・エジプト』がエジプト神話を題材にしているのとよく似ていますね。『光の王』は主人公がなんとお釈迦さまで、それにヴィシュヌやシヴァやカーリーといったヒンドゥー神がかからんでくるのですよ。そしてそこで神々同士の戦いが繰り広げられるんですね。とはいえ彼らはもちろん本物の神様ではなくて、神の名を借りた超人類なんですけどね。
神々と人間の登場するSFというとダン・シモンズの『イリアム』『オリュンポス』という長編小説もあります。こちらはギリシャ神話を題材に採ってるんですね。テラフォーミングされた火星に超常的な力を操るギリシャ神話の神々が住み、さらにナノテクノロジーによって甦らされたトロイア戦争の勇者達が登場する、というやはりとんでもなく荒唐無稽なお話なんですよ。その他調べたところ、日本神話を題材にした荻原規子ファンタジー「勾玉三部作」や北欧神話を題材にした高千穂遥のファンタジー「美獣-神々の戦士」なんていうのもあるようですね。『キング・オブ・エジプト』を観て楽しめた方はこれらの小説を読んでみるのもいかがでしょう。
http://www.youtube.com/watch?v=tuu3zrZk2zM:movie:W620

光の王 (ハヤカワ文庫SF)

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