■家族の四季 愛すれど遠く離れて (監督:カラン・ジョーハル 2001年インド映画)
2001年に公開されインドの富豪一族の愛と確執、そして和解を描き大ヒットした大河娯楽作品です。この作品、なにしろ配役がスゴイ。中心となるラーイチャンド家の家長をアミターブ・バッチャン、その妻を実際のアミターブ夫人であるジャヤー・バッチャン、ラーイチャンド家長男をシャー・ルク・カーン、その彼と絡む女性二人がカージョルとラーニー・ムケルジー、ラーイチャンド家次男がリティク・ローシャン、その彼と絡む女性がカリーナ・カプール、というなんかもうインド映画好きなら頭がクラクラしそうな超豪華メンバーなんです。しかもシャールクの子供時代をシャールクの実際の息子が演じているというではないですか。これと比することのできるハリウッドのオールスター映画と言えば『エクスペンダブルズ』ぐらいなものでしょう(いや違う)。監督はインド映画界ナンバーワンヒットメーカーとも言われるカラン・ジョーハル、さらに振り付けは『OSO』『HNY』監督のファラー・カーンが務めております。
《物語》大富豪ラーイチャンド家の次男ローハン(リティク・ローシャン)には心を悩ませていることがあった。それは10年前、強権的な父ラーイチャンド(アミターブ・バッチャン)により勘当された兄ラーフル(シャー・ルク・カーン)のことであった。ラーフルには父の決めた許嫁ナイナー(ラーニー・ムケルジー)がいたが、下町の娘アンジャリー(カージョル)と恋に落ちてしまったのだ。父ラーイチャンドに身分違いの結婚を反対され、兄ラーフルはアンジャリーと共にロンドンに移り住んだまま帰ってこなかった。絶対権力者の父の決めたこととはいえ、母(ジャヤー・バッチャン)はいつも悲しみに暮れていた。そんな兄に帰ってきてもらうためにローハンはロンドンへと向かい、アンジャリーの妹プージャー(カリーナー・カプール)の協力のもと、身元を隠して兄の家の居候となる。
いやーもうインド汁湧きまくりの大作でした。「家族の絆」というインド映画王道のテーマを中心に据え、父と子、母と子、夫と妻、兄弟姉妹、恋人同士の関係を、これでもかこれでもかと描き切ってゆき、涙と笑い、歌と踊りをとことん演出し尽くし、それをゴージャスな出演陣とゴージャスな美術で徹底的に魅せてゆく、という「これぞインド映画」という作品に仕上がっていました。物語それ自体も濃厚な情感でもって描かれますが、富豪一家が主役ということでそこここに豪華なセットを配し、衣裳の煌びやかさと合せてその贅沢さにはひたすら目を奪われます。なにより歌と踊りがハンパない。10分ドラマがあった後に5分は踊ってるんじゃないのか!?という分量で、要するに3時間半のドラマのうち3分の1は歌と踊りだったんじゃないのか…とすら思っちゃいました。しかしこれだけてんこ盛りで3時間30分も上映時間があるにもかかわらず、観終わった後は「もうちょっと長くてもよかったんじゃないのかな…」と思ってしまったオレは既にもうすっかりインド映画脳なのかもしれません。
そしてやはり配役でしょう。アミターブの息子がシャールクとリティクというだけで「いったいどんな家庭なんだ」と思わせる凄まじさがありますね。シャールクは安定のチャーミングさで、変形八の字に眉毛を歪ませ迷子の子犬のように瞳をウルウルさせる演技をさせたらこの地球で彼を超える者はいないでしょう。そしてアミターブ。家族に強大な権力を振るう父親を演じる彼ですがなにしろ怖いです。シャールクを叱るシーンでは一言一言発するたびに雷の鳴るSEが被るのには相当ヤヴァイものを感じました。インドでもやはりカミナリ親父という言葉があるのでしょうか。さらにリティク。若いです。顔がツルツルです。この頃から「パースが狂ってんじゃないのか?」と思ってしまうような超絶的逆3角形した肉体美を誇っています。あとカージョル。下町の娘役のせいなのかワワアギャアギャアと煩いです。早口過ぎて英語字幕だと読み切れなかったでしょう。そしてなにしろカリーナ・カプール!後ろ向きで尻振りながら現れた挙句ハンカチ程度の面積しかない洋服で学校に行くシーンで「これ、感動大作だったよね?」とDVDを取り出してタイトルを再確認したぐらいでした。
それにしてもインドは強権的な家父長制度が存在するといったことは聞いたことはありますが、ここでのアミターブはまさに権力者なんですね。そしてその子供たちもあくまでそれを尊敬し敬愛し尽くし、決して疑問を持ちません。今のインドの家族事情が実際どうなっているのかは分からないのですが、こういった家族像はもう古めかしいものになってはいないのかな、とちょっと思いました。ここでは父との離反と和解はあっても、父を乗り越えるといった物語はないんです。徹底的に保守的なんですね。ただ逆に、インドの絶対的な父親の権力の様、というのを見ることができるのは面白く感じました。それと、インドの歴史というのは循環史観である、というのを聞いたことがありますが、ある意味この物語は王族たちがインドで何千年も繰り広げられてきた物語の再話なのではないか、と思えました。彼らは富豪じゃなくて、王族なんですよ。最後にもうひとつ、この作品はシャールクが主人公であるように作られていますが、ストーリー全体を見渡すと、運命や現実を変えるべくアクティブに家族に働きかけていた弟リティクこそがこの物語の本当の主人公なのじゃないか、とちと思いました。