無慈悲な全体主義国家を打倒せよ!『ストーカー』のストロガツキー兄弟原作によるロシア製SF映画『プリズナー・オブ・パワー囚われの惑星』

■プリズナー・オブ・パワー囚われの惑星 (監督:フョードル・ボンダルチュク 2008年ロシア映画)


宇宙を旅していた金髪碧眼ロンゲチリチリパーマのイケメン青年が不時着した惑星は、軍事独裁政権とかやっちゃってる汚い顔のおっさんたちが人々を支配する、ダサくてイケてないチョーサイテーな惑星だった!?…というロシアSF映画、『プリズナー・オブ・パワー囚われの惑星』であります。
ロシアのSF映画!といいますとまず真っ先に思い浮かべるのはタルコフスキー監督による『惑星ソラリス』なのではないでしょうか。同じタルコフスキー監督による『ストーカー』も特筆すべきロシアSFという事が出来るかと思いますな。あと『不思議惑星キンザ・ザ』なんかも実に味わい深いロシアSF映画と言う事が出来るでしょう。で、この「プリパワ」、原作となっているのはロシアのSF作家兄弟、アルカジイ&ボリス・ストロガツキーによる『収容所惑星』という作品なんですな。SF作家兄弟ってなんか「宇宙兄弟」みたいですな。
このストロガツキー兄弟というのは、先程も挙げたタルコフスキー監督の『ストーカー』の原作者なのですよ。さらに渋いところでは、ソクーロフ監督作品『日陽はしづかに発酵し』の原作者(原作タイトル『世界終末十億年前』)でもあるのですな。自分はストロガツキー兄弟小説はというと『ストーカー』しか読んだことが無いのですが、例えば『惑星ソラリス』の原作者、ポーランドのSF作家スタニスワフ・レムにも通じる「全体主義国家の下で言いたいこともなかなか言えず、うっすらと揶揄を張り巡らせて書かれたSF物語」という雰囲気はあるかと思いますな。
この映画「プリパワ」、ざっくりした粗筋はと言いますと、見知らぬ惑星に不時着した青年が、その惑星を治める軍事独裁政権の横暴に激怒し、かの惑星の反対勢力と協力し合って独裁政権を倒すために戦っちゃう、というものなんです。しかし物語の悪モンである独裁政権は惑星の各所に「防衛塔」と呼ばれる塔を設置しておりまして、この塔から発せられる怪光線により、人民をマインド・コントロールしておったんですな。
全体主義国家の打倒!という粗筋からも分かるように、この物語は原作が書かれたソビエト時代の政情とそこで暮らす人民の心情を、SF世界というオブラートで包んで描かれたものだという事が出来るでしょう。先ほども書いた「全体主義国家の下で言いたいこともなかなか言えず、うっすらと揶揄を張り巡らせて書かれたSF物語」ということなんですな。そして異世界へと移し替えられ戯画化されたその光景は、恐ろしく不気味でグロテスクなビジョンへと変容させられているのですよ。
この映画でまず楽しめるのはそんな不気味でグロテスクなSF世界のビジュアル、デザインなんですね。ハリウッド製SF映画とはまた違う、汚らしく、重々しく、暗色のトーンで塗り込められたそのSF世界は、未来的であると同時に古めかしく、けばけばしいロシア構成主義と打ち捨てられたような廃物がひしめき、さらにかつてのソビエト連邦が取り込んでいた東欧・中欧の文化が反映されたエキゾチズムに溢れかえっているのですよ。さらに主役脇役エキストラを含め、この映画に配役されたスラブ圏に住む人々独特の顔つきがやはりハリウッド映画とは別個の雰囲気を醸し出しているんですね。この辺のビジュアル・センスは『不思議惑星キンザ・サ』やロシアのホラー映画『ナイト・ウォッチ』あたりに通じるものがありますな。決してお金は掛かってないし、安っぽい部分もあるのですが、こういった部分が実に新奇で面白かったですね。
ただし、物語としては相当難があります。というのはこの映画、インターナショナル・バージョンと銘打たれていますが、実は本国では2部構成だった2作品を無理やり90分程度の1本の映画にまとめちゃってるんですね。ですからポンポンとスピーディーに物語が展開してゆくのですが、編集によってその経緯や説明が欠落しているばかりに、登場人物の行動や動機がメチャクチャにしか見えないんですよ。主人公一人をとっても、体制側に付いたと思ったら反体制側へ、そしてまた体制側へまたまた反体制側へと、もう訳が分かりません。きちんと物語を追って行こうとするとポカ〜ンとさせられちゃうこと必至です。ですからこの映画は、ロシア独特のSF世界ビジュアルを楽しむもの、と割り切って観るのが一番正しいかと思います。

収容所惑星 (ハヤカワ文庫SF)

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