【ネタバレあり】映画『イノセンツ』は『童夢』だったッ!?

イノセンツ (監督:エスキル・フォクト 2021年ノルウェーデンマークフィンランドスウェーデン映画)

【今回の記事は結末に触れていますのでご注意ください】

「子供たちが超能力に目覚め、次第に恐ろしい力を行使してゆく」という北欧産サイキックスリラー映画『イノセンツ』を観たんですけどね、最初に大友克洋の『AKIRA』や『童夢』に影響されているという事は訊いてたんですが、あまりにも『童夢』そのまんまだったので呆れかえってしまったんですよ。実の所こういった大友作品に影響された映画やコミックなんて大量にありますから、「まあそういうのもアリかな」とは思ってたんですが、いやこれオマージュや引用というよりは単なるパクリやないかーい!?

【物語】ノルウェー郊外の住宅団地。夏休みに友人同士になった4人の子どもたちが、親たちの目の届かないところで隠れた力に目覚める。子どもたちは近所の庭や遊び場で新しい力を試すが、やがてその無邪気な遊びが影を落とし、奇妙なことが起こりはじめる。

イノセンツ : 作品情報 - 映画.com

大友克洋のサイキック・コミックの影響を受けた映画」でまず思い出したのが『クロニクル』ですね。これ、「3人の高校生が超能力に目覚め、次第に恐ろしい力を行使してゆく」という物語で、ファウンドフッテージ形式の撮影が非常に効果を上げていた秀作なんですね。最初は無邪気に超能力で遊んでいた高校生たちが、そのうちに常軌を逸した行動を起こすようになり、その超能力を巡って対立し争い合うという物語は、『イノセンツ』とプロット的に一緒です。しかし『クロニクル』が「大友克洋のサイキック・コミック」と一線を画していたのは、これが青春ホラーとしての瑞々しさと痛々しさを描いていたからなんですね。即ち独自のテーマを持っていたんですよ。ちなみにこの作品の監督も『AKIRA』『童夢』の影響を認めています。とても素晴らしい作品なのでまだ観られていない方は是非ご覧になってください。

翻って『イノセンツ』では、まず子供たちが主人公である事、団地が舞台である事、一人が無軌道な殺戮を始めてしまう事など、設定が『童夢』とあまりにも似ています。まあそれだけなら「似ているね」で済ませてしまうんですが、この作品、なんとクライマックスの描写が『童夢』のクライマックスとまるで同じなんです。団地の公園で敵対する子供たちが沈黙の中超能力戦を始め、それを周囲の子供たちがいぶかし気に眺めており、最後にブランコに座り込んだ悪者側の少年が脂汗を流しながら死んでしまう、途中ブランコのポールが超能力でガンッと捻じ曲がってしまう部分まで一緒です。これじゃオマージュや引用というよりもパクリじゃないですか。そういった部分で非常にがっかりした作品でしたね。

ただし全否定しないためにこの作品の独自で見所のある部分も書いておきましょう。まず登場する子供たちの一人が自閉症を患っているのですが、超能力に目覚めて自分を表現する術を覚え、さらに仲の悪かった姉妹とも次第に良い関係になってゆく、という展開はとてもよかったです。子供たちの「イノセンツ=無垢」が自由で無邪気であるのと同時に時として残酷さを発露させる、それを超能力という形で描写する、というのも優れていると感じました。

併せてこの物語は北欧の移民問題にも触れています。主人公姉妹は白人ですが、もう二人の子供たちは非白人でさらに貧困母子家庭であり、多分この二人は移民の子供たちなのでしょう。そういった子供たちが孤独や困窮の中で「力」を得てしまい、それを間違った方向に使ってしまうという事の遣り切れなさ、この作品はそういった部分も描いているんです。そして北欧ならではの寒々とした空気感、団地の空虚さ、そこから感じさせる不安感も映画を盛り上げていました。