酒映画ベストワンは『地球に落ちてきた男』

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《お酒映画ベストテン》……ではあるが

ブログ『男の魂に火をつけろ!』 の映画ベストテン企画、今回は《お酒映画ベストテン》とのこと。締め切りも間近なので急いで参加させていただきたいと思います。

とはいえ……オレにとって『酒映画』といえばもうこれしかありません。この一作の一点買いでお願いいたします。

1位:地球に落ちてきた男 監督:ニコラス・ローグ 1976年 イギリス映画 酒の種類:ジン

デヴィッド・ボウイ主演のこの作品はオレにとって相当思い入れの深い作品で、かつて『SF映画ベストテン』を選出した時にも第1位にしたほどでした。

ではこの作品がどのように『酒映画』なのかボチボチ紹介してみましょう。

『地球に落ちてきた男』の物語

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ウォルター・テヴィスの同名小説を『赤い影』(1973)のニコラス・ローグが映画化したものが本作となる。
ニューメキシコ。ある日そこに一機の宇宙船が落下する。降り立ったのは人間の姿をした痩せ細った一人の男。男はトーマス・ジェロームニュートンと名乗り、幾つもの高度に進んだ科学的特許を取ることで巨万の富を得る。

実は異星人ニュートンにはある目的があった。彼の故郷の惑星は大旱魃に襲われ水が枯渇していた。ニュートンは水の惑星・地球に訪れここで水を確保した後、莫大な資産で宇宙船を建造し故郷の星に持ち帰ろうとしていたのだ。

しかし彼の存在を怪しんだ政府は彼を監禁し、正体を知るために人体実験を開始する。監禁された部屋の中、孤独と故郷の星に帰れない悲しみから、次第に酒に溺れるようになってゆくニュートン。そんなある日、彼は故郷の星が滅亡した事を知る。 

映画としての『地球に落ちてきた男』 

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この作品はオレのブログで何度か取りあげているので、その時書いたレヴューをここに抜粋しておきます。 

"15歳の時に観て、観終わった後まだ夢を見ているような気分になっているような映画だった。映画館を出た後の現実の光景の白々した光が逆に非現実的だった。

この映画は、「自分の居場所はここではなく、どこか他の場所にあるのかもしれない」ということ、そして「でもだからといって、そこにはもう帰れないのかもしれない、自分は、場違いな場所で生き続けるしかないのかもしれない」というテーマを描いていた。

「愛してくれている人は本当は君の事なんて何も理解してなくて、そして、本当に愛していた人達は、もうとっくに死んでしまっているのかもしれない」、そして、「つまり、君は一人ぼっちで、孤独で、理解不能な有象無象の中で、一人で生きなくちゃならない」という《孤独》についての物語であり、「音楽を作ってみた。死んでしまったかもしれない家族が、ひょっとして聞いてくれるかもしれないから」という、《表現とは何か》という物語であり、ラスト、「ニュートンさん、飲みすぎですよ」のコメントで終わるこの映画は、《飲酒》についての映画でもあるのだった。

孤独についてこんなに鮮やかに描いた映画を他に知らない。そしてこの頃のボウイは性別を超越した恐るべき美しさを湛えている。とても静かな映画で、観る人を選ぶ映画でもあるが、ボウイの美しさを堪能したいなら一度は鑑賞すべき。また、当初ボウイの主演映画はSF作家ロバート・A・ハインラインの『異星の客』が原作になる筈であった。この小説の主人公もこの当時の異星人としか思えないようなボウイの雰囲気に奇妙にダブっており、ボウイを知る上でのサブテキストとして面白い。"

"酒映画"としての『地球に落ちてきた男』

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これも以前書いた記事からの抜粋です。

村上春樹の小説『風の歌を聴け』の中で、ポール・ニューマン主演で映画化もされたテネシー・ウィリアムズの『熱いトタン屋根の猫』という戯曲の一節が言及されていたのを覚えている。そこで言われていたことは、酒は、ある程度飲むと、頭の中で「カチッ」と音がする、のだという。スイッチの切り替わる音なのだろうと思う。その時、やっと人間らしい気分になるということなのだろう。

社会で生きていく以上、人は何がしかの役割を演じなくてはならない。それは常識的社会人であったり、有能な会社人であったり、よき家庭人であったり、あるいはどこにでもいる学生であったりするのだろう。あるいは決して突出しない中庸さや物分りのよさ、人当たりのいい柔和さなどを兼ね備えた人間であろうとしてしまう。

それはしかし漸うとして見えない社会の要求する「自分」ではあっても、本来持ち合わせている「自分」とはどこかに「ずれ」がある場合が多いのではないか。人はその「ずれ」から立ち戻る為に酒を飲むのではないか。要するに、そんなに真人間の振りばかりしてたら、疲れちまう、って事だよ。

はたまたあるいは、こちらのほうがこの作品のテーマに沿っているのだが、空虚さ、孤独さを埋める為に、あたかも鎮痛剤を服用するように酒を飲むこともあるだろう。生というそれ自体が「死に至る病」であるものから痛みを取り除く為に。

かつてアル中だったスティーヴン・キングは、自身の小説の中でも酒に溺れた人間たちをよく登場させていたが、特に凄い描写だったのは長編『トミーノッカーズ』の中のエピソードだ。主要人物の一人はかつてアル中だったのだが、この男が酒により破滅寸前まで追い詰められた過去の記憶が、本編と全く関係なく50ページあまりも執拗に描かれるのである。その長さと描写の克明さは、登場人物の性格の肉付けをするためというにはあまりにも異常だ。この一章には作者キングのアルコールというもの、そして酒を飲む、という行為への苦さと破滅的な憧憬が詰りまくっていた。アル中小説として読んでも白眉であると思う。

酒を飲む、という事は、ちょっとづつ死んで行く事なのだ。飲酒癖と自殺願望を結び付けて語られる事は多いけれど、逆に見れば、自分の現実をその都度リセットしたい、という人間的な願望なんじゃないのか。どっちにしろ、「自分であること」に強い希求心を持ってる人のほうが酒好きなような気がするな。ただオレは、「酒は物事を解決しない。酒は物事を先送りさせるだけだ」という一言が、酒のある面を説明しているのも確かだと思う。”


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