故殺か?正当防衛か?海軍将校による殺人事件裁判〜映画『Rustom』

■Rustom (監督:ティヌー・スレーシュ・デーサーイー 2016年インド映画)


1950年代のボンベイを舞台に、一人の海軍将校が起こした殺人事件を巡る裁判を描いたのがこの『Rustom』となる。公開時結構話題にもなったしボックスオフィスの成績も悪く無い。ただどうも最初観る気が起きなかったのは主演がアクシャイ・クマールだったからだ。いや、ボリウッド俳優アクシャイ・クマールは嫌いではない。むしろ割とお気に入りかもしれない。それに、実はアッキー、誕生日がオレと同じだったりする(オレより5歳下だがな!)。しかしアッキーは映画に出過ぎだ。一年に3作以上の作品に出演しているし、それに最近の主演作はなんだかキナ臭い役が多くて、顔付さえ段々軍曹顔に見えてきた。

そんなことをブツクサ言いつつ、話題作だったからとりあえず観てみたのだが、開けてびっくり、これが物凄くよく出来ているではないか。というかここ2、3年のアッキー主演作の中でもピカイチかもしれない(ちなみにオレの一番好きなアッキー主演作は『Rowdy Rathore』(2012)。あと『Special 26』(2013)もいい)。物語の舞台が50年代ボンベイということで、その作り込まれたレトロなボンベイの光景にはアヌラーグ・カシュヤプ監督の大傑作『ボンベイ・ベルベット』(2015)を彷彿させる部分もあるが、よくできているもののそれはあくまで背景に過ぎない。それよりも、当初「妻の浮気に嫉妬したことによる射殺事件」という実に単純な故殺事件から始まったと思わされた物語が、実はどんどんとややこしく覆されてゆく部分が面白いのだ。

そして答弁が開始されると、これがもう悔しいほどにどんどん引き込まれてゆく面白さなのだ。法廷が中心となる作品だが、抽象的な答弁ではなく主に状況証拠が並べられるので、英語字幕にそれほど苦労しなかったのも好印象だった。そもそも主人公ルスタムは「人を殺したので自首します」と警察に出頭する。その前に彼は妻の浮気現場も目撃している。確かに妻の浮気はあった。それに対し多分嫉妬もした。そして男の家に乗り込み、そこで銃による殺人が成された。こんな分かり易い状況のどこが覆されるというのだろう。しかしだ。にもかかわらず彼は「私は無罪です」と主張し、「あれは正当防衛だった」とまで言い始める。そしてその状況が説明されるのだ。

それはどこまで真実なのか?それとも最初から正当防衛による無罪を主張することを見越して仕立て上げられた殺人だったのか?あまつさえルスタムは裁判において自らの弁護士役までやってしまうのだ。そしてまたこの弁護における答弁では本職もかくやと思わせるような鋭い質疑応答を繰り出すのだ。こいつナニモノ?とは思うがなにしろ海軍将校だ。しかしこの海軍将校である、お国の為に身を捧げる軍人である、という部分を大いにアピールすることで印象操作しようとする抜け目の無さも見え隠れする。なにしろ海軍将校である彼は、身なりも立ち振る舞いも実に端正かつ堂々としていて、本当に天に恥じる様な事をした人間には見えない。しかしその清廉潔白な印象作りが、どうも引っ掛かりもするのだ。

しかしもし仮にこれが最終的に自らの弁護までも見越した計画的な犯罪だとしたら、ルスタムという男は相当の知力と狡猾さを持った男だと言わざるを得ない。だがそれは同時に恐ろしく冷酷な男だけができる所業であり、裁判期間中に浮気した妻を赦してしまうルスタムという男が、そんなサイコパス並みの冷徹さを持った男にはどうにも思えないのも確かなのだ。ルスタムは果たして冷徹な殺人者なのか?それとも愛の深さゆえに期せずして人を殺す結果となった哀れな寝取られ男なのか?いやしかし、と思う。実はこの物語は、そんな単純なものではないのかもしれないではないか?それではいったい?というわけで様々な疑惑を孕みながらクライマックスへとなだれ込んでゆく『Rustom』、非常に優れた法廷劇であった。

http://www.youtube.com/watch?v=L83qMnbJ198:movie:W620