■ABCD2 (監督:レモ・デスーザ 2015年インド映画)
ダンス・トーナメントに青春を賭ける若者たちを描いた作品、2015年インド公開作『ABCD2』です。この作品は2013年に公開された『ABCD - Any Body Can Dance』(レヴュー)の続編となりますが、物語的には直接の繋がりはありません。主演は『スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え!No.1!!』、『Badlapur』の若手インド男優ヴァルン・ダワン、そしてインド屈指の名コレオグラファーであり監督業でも定評のあるプラブーデーヴァ。ヒロインに最近日本でも『愛するがゆえに(Aashiqui 2)』が公開されたシュラッダー・カプール。監督は前作に引き続きレモ・デスーザ。映画館では3Dで公開されたようですね。後この作品、ディズニー映画の配給になっていています。
《物語》ヒップホップ・ダンス・チームを率いるスレーシュ(ヴァルン・ダワン)はTVのダンス大会で振り付けが盗作であることを見透かされ、街中から侮蔑の声を浴びていた。己の浅はかさを恥じたスレーシュは初心に帰ってダンスに再挑戦することを誓い、ラスベガスで開催される世界ダンス大会での優勝を目指すことにした。スレーシュは彼の働く酒場で抜群のダンスを踊る男ヴィシュヌ(プラブーデーヴァ)に振付師を依頼し、最初は拒みつつもヴィシュヌはそれを受け入れた。新しいメンバーが揃い、練習も順調に進み、そして見事予選を勝ち抜きラスベガス行の決定したダンス・チームだったが、ヴィシュヌは周囲に隠れて不可解な行動を取り始めた。
ダンス・トーナメントを描く作品ですから、当然その中心となるのはそこで演じられるダンス・シーンの魅力です。オープニング・タイトルで演じられる暗闇で発光する衣装でのダンス・シーンから既にわくわくさせられて、ダンス・シーンへの期待が大いに膨らみます。併せて、ダンス・トーナメントという物語の枠組みは、主人公らのチームがどのような強豪と出会いながら試合を勝ち進んでゆくのか固唾を飲んで注目させることとなるんですね。いわゆる「負け犬の再起を賭けた戦い」というのは定石ともいえる物語運びですが、十分熱気をもってお話を盛り上げてゆくんですね。
ただしドラマ展開は少々薄いです。これは前作で「仲間同士の対立」「恋の駆け引き」「親の反対」といったドラマをやり尽してしまったので、それを再度持ち込むことができなかったというのもあるでしょう。確かにそれ以外の新機軸としてのドラマの流れは幾つか用意されますが、それによりドラマ性が増しているということもありません。言ってしまえば「とりあえずストーリーがなければ映画にならないので盛り込んだ」程度のものでしかないんですよ。
しかし観ているこちらとしてもとことんダンス・シーンを堪能したいという期待があるものですから、余計なドラマで気をそらせられることがなくて、逆にそれはそれでよかったりするんですね。次々と繰り広げられるダンス・シーン、そのステージの煌びやかさ、若々しいチーム・メンバーの友情と笑顔、眩いばかりの電飾に彩られたラスベガスの光景、こういったものが映画の中にみっちり詰まることで、とても幸福感に溢れた作品になっているんですよ。そこに余計な翳りや悲哀など持ち込んでほしくないほどです。こういった「多幸感に特化した映画」というのはインド映画独特のものでしょう。
それにしても、なんといったってダンス・シーンです。こういった物語では、結局最後に最高のダンス・シーンが演じられるわけですから、冒頭から徐々にレベルを上げてゆくような見せ方になるものなのですが、この作品ではそんなみみっちいことなど全くせず、もう最初っからガンガン素晴らしいダンスを見せちゃってるところが凄いんです。もうオレ、あんまり凄すぎて、なんだかゲラゲラ笑ってしまったぐらいでした。要するに、緩急の違いこそあれ、全編高いレベルのダンス・シーンしかない、という作りなんですよ。これではもう「トーナメントを勝ち進んでゆく」どころか、最初っから最高のチームでしかないんですよ。だからドラマは希薄なのにも関わらず、とことんダンスが素晴らしいという点において優れた作品だということができるんですよ。
そしてこの物語を引き締めることとなったのは、なんといっても主演のヴァルン・ダワンでしょう。有名人気俳優を主演に配することで、作品が華のあるものになっているんですね。そしてドラマ性が希薄だとしても、ヴァルン・ダワンの存在感が映画を映画らしく見せ、説得力のあるものにしているのですよ。作品内で踊るダンサーたちは多分殆どが本職の方たちなのでしょうが、彼らにスキルの面で劣るとしても、映画の「顔」として映えているといった点で、ダンス・シーンを遥かに魅力のあるものにしているんですね。一方プラブーデーヴァは相変わらずの踊りの巧さを見せ、そしてヒロインを演じるシュラッダー・カプールも十分にキュートでしたね。