テロ組織vs秘密諜報組織の熾烈なる戦い〜映画『Baby』

■Baby (監督:ニーラジ・パーンデー 2015年インド映画)


イスラム過激派グループとインド秘密諜報組織との息詰まる戦いを描いたサスペンス・アクション映画、それがこの『Baby』です。タイトルはこの秘密諜報組織の名称で、美女や可愛い赤ちゃんはとりあえず関係ありません。主演はアクシャイ・クマール、監督は『Special26』のニーラジ・パーンデー。そしてインド映画の名バイプレイヤーであるアヌパム・カーが諜報員役で出演し、緊張感の続くドラマを和らげています。また、『トランポーター』シリーズなどでアクションを手掛けたシリル・ラファエリがこの作品でもアクション監督・指導を担当しており、迫真のアクションを展開しているんですね。

《物語》トルコ、イスタンブール。テロリストに拉致された仲間のエージェントを救出するため出動したインド秘密諜報組織「Baby」のアジャイ(アクシャイ・クマール)は、そこでかつての仲間であった裏切り者のジャマールを捕らえる。アジャイはジャマールからテロ計画の情報を強引に吐かせるが、それはデリーのショッピングモールを標的にした爆弾テロだった。「Baby」はそれを阻止するものの、それは大規模な計画の最初のひとつに過ぎなかった。一方、イスラム過激派テロ組織の主導者マウラーナは、ビラルという男の刑務所釈放を推し進めていた。そしてそれは凶悪な計画の次の一手だった。

アクシャイ・クマール主演で秘密諜報部員VS爆弾テロ組織というと2014年公開のA.R.ムルガードース監督作品『Holiday - A Soldier Is Never Off Duty』とコンセプトがモロ被りなのですが、『Holiday』は熾烈極まる諜報戦が半分、アクシャイと共演のソーナークシー・シンハーとのラブコメ展開が半分、といった内容になっていました。しかしこの『Baby』は『Holiday』からラブコメ展開を無くし、徹頭徹尾シリアスな内容として仕上がっているんです。インド映画のスパイ・アクションはそれほど数は観ているわけではないのですが、そんな中でも段違いのサスペンスとアクションが描かれているのではないでしょうか。

ロケーションは実にスパイ・アクションらしい多彩さで、主人公アジャイはインドを拠点にしながら、テロ犯を追ってトルコ、ネパール、サウジアラビアと駆け巡ってゆきます。これらの国における諜報活動でアジャイは少しづつテロ計画の全貌を掴んでゆくのですが、その捜査方法の殆どが脅迫や拷問といった超法規的なもので、冒頭の派手な銃撃戦も含め、全編徹底的に血生臭い描写が続いていきます。これらは『007』や『ミッション・インポッシブル』のようなハリウッド・スパイ・アクションなど比べ物にならないほど陰惨で生々しい暴力に満ち溢れているんですね。

つまりそれだけ対テロ戦、スパイ戦をリアルに描こうとしており、その緊張感は後半に行くほどどんどんと熾烈なものになってゆくんですね。そういった部分でサスペンス・アクション作品としては一級のものとして完成しており、十分楽しめるものとなっています。ただ、観ていてちょっとしんどいなーきっついなーと思わないでもないんですよ。リアルさを追求するあまり爽快感に欠けるんです。アクシャイも終始むっつりとした軍人面で、あまり魅力的に思えなかった。そんな中、「俺はかつらじゃない!」と言い張っているかつら姿のアヌパム・カーが一服の清涼剤になっていましたね。

http://www.youtube.com/watch?v=-Yu_2nyOP5o:movie:W620