22世紀、第三次世界大戦後のアメリカでは、植民星への移住が進む一方、大多数の国民は福祉都市に押しこめられ、配給に頼って生活していた。21歳になったアンドリューはそんな荒廃した地球から抜け出すため、北アメリカ連邦軍に志願する。5年間の兵役を終えれば高額の退職金と市民権が与えられ、宇宙に旅立つことも可能になるからだ。だが脱落者続出の苛酷な訓練を耐え抜き勝ち取った配属先は、思いもよらぬ場所だった!
書店に行くと名前の知らぬ新人作家のミリタリーなタイトルを付けられたSF本が。帯の惹句や解説によると傑作SFシリーズ『老人と宇宙』の作者ジョン・スコルジーからの推薦やら、傑作サバイバルSF『火星の人』との比較やらが書かれているではないか。両作とも大ファンのオレは「ううむこれは読まねばなるまい」とこの『宇宙兵志願』を手にしたわけである。するとこれが思った以上に面白くて大満足だったのである。
お話の流れは非常にオーソドックス。スラム化した巨大集合住宅で底辺生活に甘んじていた青年が軍隊に志願し、血を吐くような厳しい訓練を乗り越え晴れて新兵になった後に最初のミッション、次のミッションと次第にハードな戦闘を繰り返し、その中で仲間との友情、恋、そして生死を分ける負傷と仲間の死を経ながら、クライマックスに恐るべき大戦闘が用意され…といった展開。作者はミリタリーSFの傑作中の傑作、R.A.ハインラインの『宇宙の戦士』やジョー・ホールドマンの『終わりなき戦い』のファンだというが、こういった名作のセオリーを殆ど外していない物語展開ではある。
「なんだかオーソドックス過ぎてつまらないんじゃ?」と思われるかもしれないがそうではない。確かに常套展開ではあるにせよ、そこに2000年代ならではの未来的な武器の描き込み、若々しい感受性と軽快な筆致が加わり、プロットこそオーソドックスではあっても非常に新鮮な感覚で物語を読み進めることが出来るのだ。
また、ミリタリー作品ということから連想されがちなタカ派的なマッチョさは希薄で、むしろごく普通の青年が困窮から逃れるために軍隊に入隊しそこで様々な体験をする、といった青春物語的な側面が大きい。主人公は軍隊で恋に落ちるが、この恋が物語の流れに大きく影響してゆくといった展開もまた微笑ましい。こういった展開とその軽快さからヤングアダルト向け作品として読むこともできるが、戦闘シーンはしっかりとハードでシリアスなのだ。
もうひとつ、この作品でニヤリとさせられるのは、非常に戦争映画・SF映画の影響が強く、それとよく似たシチュエーションが飛び出すといった部分だろう。中盤の市街戦などはそのままSF版『ブラックホーク・ダウン』だし、宇宙を舞台にした後半では、某有名SFアクション作品と某SFパニック作品を混ぜこぜにしたような展開が待ち構える。これはオマージュとか剽窃というよりも、ついつい滲み出てしまうSF愛なのだろうと好意的に受け止めた。伏線が忘れ去られたりなどの瑕疵はあるにせよ、そんな部分に作者の粗削りな若々しさを感じてしまう。傑作SF『火星の人』とはタイプもテーマも違うけれども、作者の活きの良さと言った部分では共通してるし、今後も大いに期待できる作家だと思う。続編もあるようなのでとても楽しみだ。
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