ボクは早撃ちモルガンだよ!〜映画『Quick Gun Murugun』

■Quick Gun Murugan (監督:シャシャンカ・ゴーシュ 2009年インド映画)


インド映画も良作・ヒット作と呼ばれる作品を順繰りに観てきたのだが、この辺で何か変わったもの、珍味的なものが見たくなってきたのである。映画鑑賞も数こなしてくると段々とカルトとかニッチなジャンルのものに手を出して知ったかぶりをしたくなる。それである。困ったものである。

さてそんなオレが今回目を付けたインド映画が『Quick Gun Murugun』。「早撃ちモルガン」といった意味である。早撃ち…そう、この映画、インド映画のくせに西部劇なのである。なんでだかはよく分からない。それよりも主人公のルックス見てくれルックス。脂っぽいヘアスタイルになにやら薄化粧した小太りのおっさん、彼が早撃ちモルガンさんである。おっさん、というかどことなくおばさんっぽい。そしてモルガンさんのカウボーイルックが凄い。テカテカの緑のシャツに豹柄プリントの黄色いベスト、ショッキングピンクのマフラーにオレンジ色のズボンである。なんだかこういうカラーリングのウミウシいなかったか?

さて映画が始まるとそこは1980年代のインドのどこぞの町。ここでモルガンさんが暮らしていたのである。だいたい80年代でカウボーイというのもよく分からないがそれは置いておこう。モルガンさん、映画が始まってすぐ撃ち殺されてしまう。それからどうなるかというと、なんと霊界に行っちゃうのである。のっけから物凄い展開である。そして霊界で「自分には遣り残したことがあるので生き返らせてください!」と頼み込み、もう一度現世に戻してもらうのだ。するとそこはなぜか現代のムンバイ。現れ方が『ターミネーター2』しているのが可笑しい。即ち裸である。ただしパンツは履いている。さてモルガンさんはなぜ撃たれたのか?そしてこの現代のインドの街でなにをやらかすのか?ということでお話が始まる。

実はモルガンさん、ノン・ベジタリアンを世にはびこらせようとするマフィアと戦うベジタリアンの戦士だったのである。確かにインドは宗教上の理由でベジとかノンベジとかにうるさい。うるさいが、それがなぜ戦いになるのか、そしてそれを日本人のオレがどう楽しめばいいのか、対処に困る。そして生まれ変わる前のモルガンさんを殺したのがインドをノンベジだらけにしてしまえ!と企む悪のノンべジ・マフィアのドン、ライスプレート・レッディ(ナッサル)だったのである。このライスプレート(変な名前だ…)、現代のムンバイではノンベジ・ドーサのチェーン店「マック・ドーサ」をインド中にフランチャイズしようと計画していた。「マック・ドーサ」…もろに「マクドナルド」への当てこすりである。ちなみにドーサとは南インドのクレープ的な食い物のことらしい。

といわけで正義のベジ、モルガンさんと悪のノンベジ、ライスプレートの戦いが繰り広げられるというわけである。ここまで書いたように十分何かがおかしい物語なのだが、これからの展開ももっとおかしい。全部拾い上げていくわけにはいかないが、例えばモルガンさんは胸から下げたロケットの写真の恋人といつも語り合う。銃撃戦は『マトリックス』的であり、インドならではの物理法則を無視した戦いとなっていて楽しい。また、ヤシの実を武器として戦うヤシの木忍者との熾烈な戦いが描かれる。モルガンと絡む踊り子のマンゴー・ドリー(ランバ)は金髪の鬘を被ってバブルガムポップみたいな歌を歌う。ライスプレートは最高のマック・ドーサ・レシピを完成させるため町のおばちゃんたちを次々に誘拐しドーサを作らせる。なぜだか分からんがライスプレートは爆弾テロを始める。等々。

こんな具合に素っ頓狂な人たちが現れいろんなものが素っ頓狂にできている素っ頓狂な物語である。こんな物語も含め、映画に現れる全てのものが作り物めいている。モルガンさんをはじめ登場人物たちは皆、感情移入を拒否したような現実味の薄いキャラばかりだ。昔観たハリウッド映画の『ディック・トレーシー』みたいなペナペナのプラスチック感がする。映画自体はテンポが微妙にもったりしている部分が残念だ。だから、映画全体を覆うこの奇妙な味わいをどれだけ楽しめるかで評価が分かれるだろう。少なくともオレは楽しめた。だって、なんだか変なんだもん!それにしてもインド映画、掘れば掘るほどいろんな映画が出てくるなあ。

http://www.youtube.com/watch?v=zkdaEezgnWs:movie:W620