華麗なる映像美にひたすら圧倒されるインド映画版『ロミオとジュリエット』〜映画『Goliyon Ki Raasleela Ram-Leela』

■Goliyon Ki Raasleela Ram-Leela (監督:サンジャイ・リーラー・バンサーリー 2013年インド映画)


「うああ、今のインド映画って、こんな凄いことになってるんだ…」冒頭から、圧倒的な映像美に度肝を抜かれてしまいました。映画のタイトルは『Goliyon Ki Raasleela Ram-Leela』、2013年に公開されインドでも大ヒットを記録した作品です。

映画はどことも知れぬ砂漠の中にある町から始まります。数百年を経たような城壁の中にみっちりと並ぶ古びた家々、壁に描かれたインドの神、色とりどりの商品が並ぶ市、その中で闊歩する目も鮮やかな民族衣装を着た人々。ああ、インドの古い時代なのだな、と思っていると今度は銃砲店に並ぶ山のような軽機関銃が写され、さらに女たちはスマートフォンで写真を撮っている。観ている者は困惑するでしょう、ここはどこで、いつなのか?と。いや、実はこの映画は、いつでも、どこでもない、時代も場所も超越した架空の土地を描いた作品なのです。そしてそれにより、インドであるという以外、時代と土地柄を限定しない絢爛豪華な美術を可能にしていて、次から次へと現われ目を奪うその異国情緒が、この作品の見所の一つとなるんですよ。

そしてこの映画の主人公たちが登場します。一人は髭面のイケメン色男、ラーム(ランヴィール・シン)。こいつがもう、笑っちゃうくらいセクシー全開で、破れたジーンズ姿にシャツをはだけた胸を見せ、群衆たちと陽気に歌い踊るオープニング・シーンでは、思わず「どうもすいません」と謝りたくなってしまったオレでありました(なぜ謝ってしまうんだオレ)。ラームは祭りの最中、美しい娘リーラーと出会います。そして、ラームとリーラーは恋に落ちるのです。このリーラーを演じるのが、オレが今、世界の映画女優の中でも最も熱い視線を送るインド一の美女、ディーピカー・パードゥコーン。この作品でもディーピカーちゃん、悩ましいほどに美しく、オヂサン終始うっとりしておりました!

しかし。ラームとリーラーはこの町を二分し激しく憎み合う二つの豪族の跡取り同志であり、この恋は決して許されるものではなかったのです。そう、なんとこの作品、誰もが知るあのシェークスピア戯曲『ロミオとジュリエット』を、インドを舞台に展開した物語だったのですよ。そして原典に『ロミオとジュリエット』を持つと分かった瞬間に、この物語には抗うことの出来ぬ悲劇が待ち構えていることに気付かれさます。しかし『ロミオとジュリエット』を下敷きにしつつも、映画はそれを奔放に改編し、この物語ならではの自由な展開を見せます。

まず敵対する家同士は大量の銃を持ち、映画ではこの銃による威嚇や殺人が頻繁に行われるのです。しかもラームとリーラーは後にそれぞれの家の宗主となり、愛し合いつつも家同士の憎しみも抱えねばならなくなるのです。それは『風と共に去りぬ』の大恋愛ロマンに『ゴッドファーザー』の冷徹な殺戮を持ち込んだようなドラマだということができるかもしれません。映画タイトルの意味は『銃弾の円舞:ラームとリーラー』、このタイトル通り、物語は愛と死が手を取りながら、目まぐるしく円舞を踊るのです。

二人の出会い、高まる気持、人目を忍ぶ密会、結婚を誓う二人、そして駆け落ち。映画は二人の切ない恋の行方を、インド映画らしい躍動感溢れる踊りと美しい歌で盛り上げてゆくんです。そこに目の痛くなるほどの原色に彩られたインドの神々が踊る艶やかな祝祭シーンが盛り込まれ、その高揚はいやが上にも高められていきます。しかしそれと並行して、対立する二つの家の抗争が、町全てを巻き込みながら次第に血生臭いものへと化し、暴力と死がじわじわと画面を覆うのです。そして物語は、鮮烈で幻惑的な色彩美、匂い立つようなエキゾチシズム、熱狂と陶酔、そして死と生のコントラストに彩られながら、運命のクライマックスへとひた走ってゆくんです。

本当に堪能させられました。最近ちょくちょくインド映画を観ているんですが、実はインド映画にハマるきっかけとなったのが、たまたま観たこの映画だったんですよ。インド映画のくくりにとらわれず、これまで観た様々の映画の中でも、最高に心奪われた作品の一つになったのが、この『Goliyon Ki Raasleela Ram-Leela』なんです。お勧めです。

美しい旋律と躍動感あふれるリズムに彩られながら、宿命的な暗さをがじわじわと迫ってくるこの曲なども鳥肌立つほどいい。
https://www.youtube.com/watch?v=cLIQzxgFeNE:MOVIE:W620