何度かに渡って80年代UKインディペンデンスレーベルのことを書いてきましたが、今回はファクトリー・レコードを取り上げます。
ファクトリーというとピーター・サヴィルによるレコードジャケットのアートワーク、そしてそれを含むトータルなグラフィック・コンセプトが目を引くレーベルだった。リリースされる音自体も実にアーティスティックなセンスを持ったものが多く、それは初期にプロデューサーを務めたマーティン・ハネットの力も大きかっただろう。そして、なにより、ファクトリーには、もはや伝説と化したあのバンド、ジョイ・ディビジョンが在籍していた。
■JOY DIVISION
ジョイ・ディビジョンの存在を知ったのは音楽雑誌からだったが、既にその時彼等の2ndが発売されており、そしてボーカルのイアン・カーティスの自殺が騒がれていたときだった。音さえ聴いていなかったものの、その冷たく荘厳なデザインのアルバムジャケットと、「80年代版オルガン抜きドアーズ」というような評価のされ方から何かピンとくるものを感じていた。当時住んでいた北海道の田舎町には輸入盤を扱うレコード店など存在せず、だから冬休みを利用して札幌の親戚の家に遊びに行った時に、このファクトリーのものも含むUKからの輸入盤を大量に購入した(バウハウスの1stもその時に買った)。輸入盤屋で初めて彼等のレコードを手にした時、その美しいジャケットのアートワークにしばし魅入ってしまったのを覚えている。勿論ジョイ・ディビジョンは2枚のアルバムと全シングルを買い集め、そして家に帰り聴いたその音は、じわじわと闇が身を包んでゆくような絶望感に満ちたものだった。それは暗く甘やかなる死の臭い、空虚で鬱々とした生を終わらせる為のタナトス。当時の自分はよく居るような熱病のように死に憧れる十代だったのだろう。そしてオレはそれから何年も呪縛に掛けられた様にこの鬱々とした音を聴き続けた。それはそれから何年も自分が鬱々とした生活をしていたことの表われでもあるが。
■JOY DIVISION - TRANSMISSION
■NEW ORDER
このジョイ・ディビジョンの解散後、残されたメンバーによって結成されたバンドがニュー・オーダーである。その前身の暗さに満ちた音から一転、デジタルビートを導入したきらめくようなダンスサウンドを作り出した。しかしその狂騒は、失った友という悲痛な記憶から少しでも歩み去りたいという反動だったのではないかと思う。だからニュー・オーダーのダンスビートは、どこか鬼気迫る狂気に似たものを孕んでいる。それと同時に、オーソドックスなロック・ミュージックも演奏するが、これはひどく青臭く、不器用で、そして切ない。
■NEW ORDER - EVERYTHING'S GONE GREEN (Live 1981)
■DURUTTI COLUMN
他のファクトリー・アーティストも紹介しよう。ドルッティ・コラムはギタリスト、ヴィニ・ライリーがギターとドラムボックスのみで演奏する非常に透明感溢れる美しい楽曲が特徴のソロ・プロジェクトである。殆どの曲にはヴォーカルさえ入っていない。こう書くとニューエイジっぽいのだが、その音は壊れそうなぐらい繊細でメランコリーに満ち、静謐な佇まいを見せている。当時のオレにはヒーリング・ミュージックとして機能していた。なお、ドルッティ・コラムの1stアルバムの初回プレスはレコード盤がサンドペーパーの袋に入れられてたという。
■DURUTTI COLUMN CLIP
■A CERTAIN RATIO
もう一つは浮遊感溢れる幻惑的なファンク・サウンドを生み出していたバンド、ア・サータン・レイシオ。このバンドの名前はブライアン・イーノの楽曲の歌詞から取られたものである。熱くも無く冷たくも無い白いファンクのノリは、肉体よりも精神を痺れさす様なビートに満ちていた。打ち寄せる波のように延々と繰り返される電子音とベースのフレーズが催眠術のように思考を酩酊させる。オレはこのア・サータン・レイシオの演奏を、今は無き芝浦インク・スティックで目撃したことがある。レコードではクールな楽曲をリリースしていたア・サータン・レイシオであったが、その時のライブ演奏はさすがに熱いものがあった。
■A CERTAIN RATIO - AND THEN AGAIN
(ビデオがリンクしないみたいなんで見たいかたはこちらで。)
さて今回、いつものようにレーベル・コンピレーションを探したのだが、見つけたのは『Too Young to Know, Too Wild』というタイトルのもの1枚だけなのである。そしてこのアルバムが、何故かどうにもつまらないのだ。勿論ジョイ・ディビジョンやニュー・オーダーなどは収録されているのだが、今聴くと実に時代を感じてしまう。そして多くが単なるニュー・オーダー・フォロワーでしかないのではないかと思わせるような平凡なエレ・ポップ・バンドなのである。ラストにはニュー・オーダーのバーナード・サムナー、ペット・ショップ・ボーイズのニール・テナント、ザ・スミスのジョニー・マーというそうそうたるメンツによるユニット、エレクトリックが収められています。
なお、このファクトリー・レコードの盛衰と当時のマンチェスターの音楽シーンの喧騒を、マイケル・ウィンターボトム監督が『24アワー・パーティー・ピープル』という映画で描いている。
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『To Young to Know, Too Wild to Care: The Factory Story, Pt. 1』の曲目を以下に。興味のある方はどうぞ。
■To Young to Know, Too Wild to Care: The Factory Story, Pt. 1 / Various Artists
1. New Dawn Fades - Joy Division
2. For Belgian Friends - The Durutti Column
3. And Then Again - A Certain Ratio
4. Age of Condent - New Order
5. Talk About the Past - The Wake
6. Brighter - Railway Children
7. Hymn from a Village - James
8. Smiling Monarchs - Abercedarians
9. Reach Out for Love - Marcel King
10. Looking from a Hilltop - Section 25
11. Genius - Quando Quango
12. WFL [Think About the Future Mix] - Happy Mondays
13. My Rising Star - Northside
14. Moves Like You - Cath Carroll
15. Getting Away With It - Electronic