- 作者: ダンシモンズ,Dan Simmons,酒井昭伸
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/03
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 11回
- この商品を含むブログ (44件) を見る
- 作者: ダンシモンズ,Dan Simmons,酒井昭伸
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/03
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 4回
- この商品を含むブログ (37件) を見る
『ハイペリオン』シリーズでもそうだったがダン・シモンズの作話術というのはまず圧倒的にインパクトの強い設定なりビジュアルを持ってきて、後からそれに理由付けしてゆくという形を取っているようだ。今回の『イリアム』シリーズでは”トロイア戦争にギリシャの神々が介入したら?”というビジュアル・イメージがまず作者の頭にインスピレーションとしてあり、残りのお話はそれを説明する為にだけ存在したのだろう。しかしなにしろ文章がくどくて省略というものを知らないダン・シモンズ、説明の為に用意された物語さえもがどんどん膨らんで行きまたもやインスピレーションが閃き、さらにその物語の説明の為の物語がまた必要になり…と、どんどん収拾が付かなくなっていき、最後にとんでもない大著になったあげく「やっぱりまた続くから!」というのが彼のお定まりのパターンである。困った人である。
そして今回の『オリュンポス』では前作の解題の為に作者が四苦八苦するさまが目に見えるようで、量子論は持ち出してみたものの「魔法みたいな超科学ですよ!」ということでお茶を濁しているような苦しい理由付けや「これ今思いついただろ?」と突っ込みたくなるような説明が多々あったりする。しかしこれも良し悪しというもので、シモンズの物語はそういった整合感さえ気にしなければ溢れんばかりのSFらしいSFのイメージに満ち満ちていて、自由奔放に次々と湧き上がってゆくイメージを見せられるのは非常に豊かで楽しい読書体験となりうる。だからファンは「しょうがねえな」などと言いながら、腕の痛くなるような分厚い著作をまた手に取る羽目となるのだ。
さて『オリュンポス』である。超科学の産物としか思えないギリシャの神々の正体とか、何故”もうひとつの”地球でトロイア戦争が再現されているのか、とか、そもそも”もうひとつの地球”ってなんなのか、とか、地球人類はなぜこんなに衰退してしまったのか、とか、プロスペローだのキャリバンだの、こいつらいったい何者よ?とか…他にも前作から引き継いだ諸々の謎を抱えたまま物語は始まるのだが、それらはほっぽらかしのまま物語はどんどん二転三転してゆき、さらに新たな事件や新たな登場人物が現れるわで、上巻読んでいる間は「大丈夫かなあ…」と心配のあまり読んでいるこっちが涙目になってきた。
トロイア・アカイア勢と神々の戦い、そしてアキレウスとアマゾン戦士の一騎打ちの行方や、半生物機械”モラヴィック”の一群がテラフォーミングされた火星から地球へと出発する事になる章はそれなりに楽しめるとして、ヴォイニックスに襲撃され屍累々となった地球での登場人物たちの敗走劇はどうにも退屈だ。知識も技術も失った人々という設定だから、ただただ蹂躙されるばかりで戦いようが無いのだ。この辺がまだるっこしいまま延々描写されるので段々飽きてくる。異次元生命体セデポスとその配下キャリバンの不気味な地球侵略の様子も、ホラー風味ではあるがどうにも上滑りしている感が否めない。…とここまでが上巻だが若干ダレ気味か。
しかし下巻に入るとテンポは一気によくなり、新たな登場人物の出現に「まだ登場人物増やすつもりかよ!?」と思いつつ、やっと謎の説明をする気になったダン・シモンズ先生の解題にふむふむ、ほうほう、などと頷いているといい具合にページを繰る手も進んでゆく。例によって消化不良気味の説明と地球の生き残り達の章のまだるっこしさは相変わらずだが、終局に向けて盛り上げてくれたから、ま、いっか、という感じではあった。ただなにしろモラヴィック達が強すぎで、殆ど騎兵隊状態、解説でも触れられていたが文字通り「機械仕掛けの神」並みの奮戦を見せるもんだから、シモンズめ、モラヴィックに救われたよな、などとちょっと皮肉りたくなる面もあるかも。物語は取りあえず大団円を迎えるけれども、あれとあれとあれはどうなっちゃったのかさっぱり分かんないし…。シモンズ先生!ひょっとしてまた次回作に続く!ですかああ!?(続いちゃったらまた読むんだけどね…トホホ。)