日記1000回特別企画・”スタンド・バイ・ミー”(後編)

しかし時間が経ち。
「ねえ、まだかなあ。」
「まだ先だと思ったよ。」
「どの辺にあるのかなあ。」
「きっとまだ先だよ。」
最初はふざけあって馬鹿な話に高じていた”旅の仲間”たちは疲れと退屈から次第に口数が少なくなっていった。
いったい何時間歩いたのだろうか、変わらぬ風景に既に時間感覚も無くなり、疲れが堪ってきた”仲間”の一人が言い出した。
「ねえ、本当にあるの?全然見つからないじゃないか。」
「うん…まだ先なんだと思うけど…。」
第一発見者は次第に自信を無くしつつあった。
全員最初の意気など何処へやら、ただひび割れたアスファルトの上を首をうな垂れトボトボと歩く疲れ果てた小学生の群れがいるだけだった。

「なんだよ、何処まで歩けばいいんだよ。全然無いじゃないかよ。」
「うーん…あったはずなんだけどなあ…。」
「疲れたよー。」
「お腹空いた…。」
「…ねえ、もう帰ろうよ…。」
「帰ろうか…。」
遂に敗北宣言がなされた。
オレ達は諦める事にしたのだ。
長々と歩いてきた同じ道をもう一度引き返すのは苦痛と徒労に満ちていた。しかしこれ以上前に進む気力は消えうせていた。オレ達は帰ることにした。

”旅の仲間”の一人が呟いた。
「…エッチな本、無かったね。」
第一発見者の友人が小声で応える。
「絶対あったんだよ。嘘じゃないよ。きっと誰かが持っていてしまったんだ。」
しかしその声に言葉を返す者は誰もおらず、落胆と疲労から仲間達は押し黙ったまま帰りの道を歩き続けた。
日は暮れかかり、お腹はペコペコで、足はギシギシと痛んだ。惨めな気持ちだけが仲間達を覆った。
”旅の仲間”たちのココロに去来した言葉はただ一つだったろう。
『エッチな本なんか、エッチな本なんか、探さなければ良かった…。』
日は傾き始め、空にはカラスが鳴いていた。
あほー。あほー。

そう。そうして世界への幻滅を体験しながら、少年達はオトナになってゆくのだ。(えー、まとめに入っています。)エッチな本は無かった。簡単に手に入れられるエッチな本など無い。ただで拾ったものに幸福など宿ってはいない。子供達はそれを学んだのだ。(ホントかよ。)
そうして今でも思い出す、ベン・E・キングのあの歌を聞くたび、そして暮れなずむ夕日を見るたび。『エッチな本』を請い求め、そして成し得る事が出来なかったあの日を。少年の日の苦い思い出を。これが、オレの、「スタンド・バイ・ミー」である。

”I won't cry, I won't cry
No, I won't shed a tear
Just as long as you stand
Stand by me, and
Darling darling stand by me
Oh, stand by me
Oh stand, stand
by me, stand by me…”