Uncommon Places: The Complete Works / Stephen Shore (著)

Uncommon Places: The Complete Works

Uncommon Places: The Complete Works

1960〜70年代のアメリカの地方都市の風景。片田舎の道。人通りのないショッピングモール。モーテルのテーブル。駐車場。写真はアメリカ中西部から始まり、北部、東部、南部と全ての州の町々を写してゆく。全ての写真は優しくノスタルジーに満ち、忘れていた記憶を呼び覚ますかのようだ。一度も日本を出たことのないオレでさえ、実際には足を踏み入れたことのないアメリカの古い景色に懐かしさを覚えるのは何故なのだろうか。それは、経済成長に約束されていた豊かさの一つの完成形の、古びたプロトタイプを見せられているからなのかもしれない。この30年以上前の写真にさえ、ありありと豊かさの刻印は見ることができるが、この頃の日本にとって、日本人にとって、この世界とこの生活は、夢と憧れであったはずのものだからだ。うら寂れていてさえ、町々のそこかしこには、充足した生活、という希望の片鱗がまだ形を残しているのが見て取れるぐらいだ。
それと同時に、アメリカの広さを感じることも出来る写真集でもある。オレはアメリカの州の名前は、聞いた事があってもアメリカのどの場所にあるかなんてさっぱり判らないんですよ。で、今回この写真集を見ながら、アメリカ地図を広げ(ってネットで検索したんだけどね)、写真に付けられたキャプションを元に州の場所を確認しながら写真を見ていったんです。なんだか地図の上で旅をしているような感じ。アメリカ中西部、アイダホ州のモーテルで始まった写真の旅は、アメリカの南東部、フロリダ州のプールで終わるんですね。GO WESTの掛け声で開拓されていったアメリカ大陸の歴史を遡っていく、といった趣向なのでしょうか。こんな風に考えると、結構粋な構成だと思いました。
それにしても、オレの様にメインストリームな表現はわざと避けて、ちょっと外れてたりする表現ばかり漁っている人間にさえ、この写真集の美しさはストレートに胸に来るものがあります。値段もアマゾンでこの手の写真集にすると破格の¥5000前後だし、素直に人に薦められる写真集ですよ。
ただ、ノスタルジーや懐古趣味には、オレはあまり係わらないようにしてるんですよ。それよりも、新しいものに触れていたい、新しいものを見たい、という感情のほうが強いんです。
感傷は、ある種の精神的な保留状態なんでしょう。人は多分、感傷的になる意外にどうしようもない状況の下で、感傷的になるんです。思い出にしか残っていない物や場所、人、それらに心情的に仮託したとしても、それらがもはや存在しないという現実には抗うことは出来ません。だから感情は保留の状態になる。それが感傷なのだと思う。あと、思いっきり人のことを振ってくれた女のことを思(略)。しかし、オレ自身多分に感傷的な人間ではありますが、ここからは、新しいものは生まれないのも、判っているつもりです。だから、前に進みたい時に、感傷は、無意味な感情なんじゃないかと思う。
なんか、アメリカの片田舎の写真ばかり見てたら、S・キングの小説読みたくなってきたな。え、ホラー読みたくなるなんてオレだけ?
Stephen Shoreのアーティスト・プロフィール : http://artphoto-site.com/story60.html