- 作者: ジェラルドカーシュ,Gerald Kersh,西崎憲
- 出版社/メーカー: 晶文社
- 発売日: 2002/07/01
- メディア: 単行本
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晶文社ミステリはミステリ好きの読者にはとっくにお馴染みのシリーズらしいんですが、オレは初めて手にしました。面白いセレクトですね。このジェラルド カーシュの短編集なんかも、「早川の異色作家短編集を目指した」というだけあって奇妙で黒い味わいに満ちた作品が収められてます。それにしても早川の異色作家短編集、手出そうと思ってとうとう20年手を出さずじまいだったなあ。
この短編集に収められた作品の特徴を一言で言うと、訳者あとがきにあるように「奇譚」という事になるでしょう。短編集というもので想像する軽妙洒脱な筆致とか、小技の効いた粋なオチとか、そういう軽やかなセンスで書かれた物語じゃないんです。
登場人物は食い詰め者や犯罪者、障害者など、社会の枠から外れてしまった人たちが多いです。そんな彼らのなけなしの怪しげな夢や欲望が語られ、しかしそれが悪意としか言いようのない運命により、容易く暗転し奈落へと落ちてゆくという無慈悲な物語。これら物語りはどれも暗い輝きに満ちており、読む者をほの暗い異境へと誘います。“エラリイ・クイーンやハーラン・エリスンに熱烈な賛辞を受けた”という不世出の作家の驚くべき物語がここにあります。
ざっと作品を紹介しましょう。
・とある無人島で発見された人のものとは思えない白骨の山。そして語られるおぞましくも悲しい愛の物語――「豚の島の女王」
・その無一文の男は、酒場で私に“ティクトク”という南米の奇妙なゲームの話をし始めた――「黄金の川」
・脱獄不可能な刑務所に終身刑で入れられた男は、インディオの男に必ず脱獄できるという品物を貰うが…――「ねじくれた骨」
・熱病に犯されたような男はこういった。「助けてくれ。僕は怖い。骨のない人間だ。」――「骨のない人間」
・南米の古代の壜から見つかったのは、近年行方不明になったアンブローズ・ビアスの手記だった――「壜の中の手記」
・船に引き上げられた人の形をした怪物には、想像を超えた秘密の出自があった――「ブライトンの怪物」
・弁舌巧みな古物商は「破滅の種子」という持てば必ず不幸になる指輪の話を始めた――「破滅の種子」
・彼は蔵書家の友人の借金のために一計を講じる事にした――「カームデンと『ハムレット』の台本」
・刑事は密室で老人の頭に深々と刺さり老人を死に至らしめた刺繍針の謎に気付いた――「刺繍針の謎」
・時計修理の男が案内されたのは600個に上るからくり時計に囲まれた瀕死の国王の玉座だった――「時計収集家の王」
・火事により消失した温室では狂った科学者が食虫植物を使った怪しげな実験をしていたことが判明する――「狂える花」
・死の商人として世界の武器市場を手中に収めた男の人生の皮肉な結末――「死こそわが同士」
オレ的には「豚の島の女王」「ねじくれた骨」「壜の中の手記」「ブライトンの怪物」「時計収集家の王」がお薦めです。(って殆ど全部じゃないか)
「豚の島の女王」はなにしろ異様な物語で、これはもう、読んでくれとしか言いようがない陰惨で悲哀に満ちたお話です。
「黄金の川」は黄金伝説の物語ですが、ここで語られる“ティクトク”というゲームに使う“あるもの”がなんとも不気味で…。
「壜の中の手記」は、異界を巡るダーク・ファンタジーですね。「骨のない人間」「ブライトンの怪物」「狂える花」はもろX−FILEですよ!
そして何より「時計収集家の王」。“からくり時計に囲まれた王の玉座”というビジュアルイメージが壮絶で、これ誰か映画化orアニメ化したらどうかなあ。ストーリーも短編らしからぬ奥深く怪奇な物語で、2時間のドラマとしてまとめる事は容易だと思うし、クライマックスなんかも歴史的動乱が絡むからドラマチックに演出することができるはずだし、これ、映像化絶対面白くなると思うんだけど。アニメで大友克洋とかやんないかな。