人類の歴史を見守ってきた"神々たち"の物語/映画『エターナルズ』

エターナルズ (監督:クロエ・ジャロ 2021年アメリカ映画)

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マーベル・ヒーロー映画『エターナルズ』、IMAXで観てきました。物語は宇宙の彼方から地球に飛来し7000年もの間人類を見守ってきた10人の超人「エターナルズ」の活躍を描くもの。

悠久の過去から現代へ、歴史に残る様々な文明の中でエターナルズは戦いを繰り広げてきましたが、彼らの使命は「ディヴィアンツ」と呼ばれる宇宙からやってきたモンスターを殲滅することであり、技術革新には手を貸すけれども、人類の争いへの介入は許されていません。「7000年前からこんな凄いヒーローたちがいたのになぜ地球は平和にならないの?」「なぜサノスとの戦いには現れなかったの?」という事が全部説明されていてこれは上手いな、と思いました。

しかし既に殲滅したはずのディヴィアンツたちが再び現れ、それによりエターナルズに新たな危機が訪れます。また「セレスティアルズ」と呼ばれる宇宙の超存在から与えられた自らの使命にも波乱が起こってしまいます。そしてこの現代においてエターナルズは最も熾烈な戦いを強いられることになるのです。

文明の曙から人類を見守ってきた超能力を持つ英雄たち、さらに宇宙のシステムを司ってきた超存在、といった設定は非常に壮大で、様々な古代文明が現れては消えてゆく描写にもスケールの大きさを感じさせます。これらの設定はSF作品ではありふれたものではありますが、逆にMCU映画の中では最もしっかりしたSF設定を持った物語という事もでき、SF好きとしてはとても楽しく観ることができました。逆に、物語性が非常に完結しているため、MCU映画としての必然性をあまり感じない作品でもありました。

2時間35分という長い尺を使い、丹念に映像を見せ、じっくり物語を語る様は最近公開された傑作SF映画『DUNE/デューン砂の惑星』と同等の、【エピック】としての貫録を十分に感じさせていました。その分いかにもヒーロー映画的な派手派手しいスペクタクルには欠けるかもしれませんが、クライマックスの壮絶な戦いはそのフラストレーションを全て解消してくれるはずです。

10人という大所帯のヒーローの登場は、誰が誰やらと言った混乱を招きそうに思えますが、前述した通りじっくりと語られる物語は、それぞれに登場する彼らの印象を観る者にきっちりと印象付けています。多少危うい部分もあるにせよ、10人それぞれがいなければ成り立たたない物語として作り上げられており、この辺りのバランス配分も絶妙です。それぞれのキャラをここでいちいち取り上げませんが、アンジェリーナ・ジョリーの「大女優感」は格別でしたし、ドン・リーことマ・ドンソクの登場はファンとしてとても嬉しいものでした。

さて、「エターナルズ」とは何なのでしょうか。観た方なら誰でも気付くでしょうが、これは【神々】であり【神話】という事なのでしょう。神々にしては泥臭い関係や離反が目に付くかもしれませんが、ギリシャ神話の昔から、神々というのは泥臭い=人間臭い存在であり、数々の離反や権力闘争を繰り広げてきたのです。「SF作品ではありふれたもの」と思える『エターナルズ』の設定は、それが神話として普遍的な物語性を持つからだとも言えるのです。古色蒼然とした過去の神話を刷新し、この現代に物語ろうとするとき、小説や映画、コミックはその絶好の媒体となるということなのでしょう。

それにしても、「様々な能力を持つ様々な国籍のキャラが集まり地球を守る、その中にはカップルがおり、コミックリリーフがおり、永遠に子供のキャラが一人いる、神のような敵が出現し戦う羽目になる」って、要するに石ノ森章太郎の『サイボーグ009』なんですよね。多様性について取り沙汰される『エターナルズ』ですが、才能のある作劇者がこういった物語を成立させようとしたとき、このような設定になるのは必然のような気がしました。

エターナルズ

エターナルズ

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スタニスワフ・レムのSF長編『インヴィンシブル』を読んだ

インヴィンシブル / スタニスワフ・レム

インヴィンシブル (スタニスワフ・レム・コレクション)

ソラリス』で知られるSF小説界の巨匠、スタニスワフ・レム。哲学的思弁を持った彼の作品はオレも大好きであれこれの作品を愛読していた。そのレムの選りすぐりの作品を国書刊行会が「スタニスワフ・レム・コレクション」として刊行し、第Ⅰ期6冊の配本は完了していたが、このたび第Ⅱ期の配本が決定、そのめくるめくラインナップにウキウキしていた。そしてその第Ⅱ期・第1弾の配本となるのが『インヴィンシブル』というタイトルのSF作である。

『インヴィンシブル』、聞いたことのない作品であったが、実はこれ、早川書房から『砂漠の惑星』というタイトルで刊行されSFファンにはお馴染みの作品の新訳なのらしい。ただし単なる新訳ではなく、これまでがロシア語版からの重訳であったものを、オリジナルであるポーランド語原典からの翻訳となるのだ。『砂漠の惑星』は随分昔、10代の頃に読んでいたが、これは読み直したくなった。なにより『砂漠の惑星』自体、オレの中では『ソラリス』よりも好きなレム作品だからだ。ちなみに「インヴィンシブル」とは「無敵」「不死身」「不屈」といった意味になるらしい。

物語は消息を絶った僚機コンドル号を捜索するため、巡洋艦インヴィンシブル号が琴座の惑星レギスIIIに降り立つところから始まる。惑星レギスIIIは砂漠と岩場の広がる荒涼とした星で、地上には一切の生命反応がない(後に海にだけ生命が発見される)。捜索隊一行はこの星で荒れ果てた謎の都市、さらに乗員の全滅したコンドル号を発見する。そしてある日隊員の一人が痴呆状態となる事件が起きる。不可思議な謎に満ちたこの惑星で捜索隊が次に直面するのは、雲霞のように空一面を覆って飛び交う不気味な黒い雲の姿だった。

(以下ネタバレあり注意)

 

『インヴィンシブル(砂漠の惑星)』は『ソラリス』『エデン』と並んでレムの「ファーストコンタクト3部作」と呼ばれる作品である。『ソラリス』が惑星全体覆う海の如き生命体を、『エデン』では労働部分と思考部分が分かれた人工生命をそれぞれ描いていたが、『インヴィンシブル』で描かれるのは機械生命体である。『インヴィンシブル』における機械生命体は一個がコイン大の飛翔可能な機械であり、それが数千万数億の群体となって惑星レギスIIIの空を飛び交っているのだ。

レムの「ファーストコンタクト3部作」の醍醐味は「ファーストコンタクト」した人類・異星生命体間のコミュニケーションが殆ど不可能であるという「絶対的な断絶」を描いた部分にある。これは宇宙に他の知的生命がいたとしても、人類が想定できるような知性や理性、倫理、文化、生態などを当てはめようなどといった行為は全く通用しないということなのだ。その断絶の中で人類はあらゆることを試みようとするが、それが成功する事は決してない。このレムの態度は、後に執筆される『天の声』『大失敗』にも受け継がれることとなる。

その中で『インヴィンシブル』の際立った面白さはというと、まずこの作品が人間と機械生命体との大規模な戦闘が描かれるという部分にある。機械生命は超磁力を用いて生命体の脳機能、特に記憶を司る部分を破壊する能力を持ち、巨大な雲の如き群体として飛翔し、まるでとらえどころのないそれは、いくら撃退しても際限なく湧き出てくる。この機械生命と人間の持つ最終兵器「キュクロプス」との戦いの描写は黙示録的な大破壊の光景を見せて圧巻だ。

同時にこの作品は、ある種当為としてとらえていた事柄に揺さぶりをかけてくる作品でもある。そもそも「機械生命」というものが語意矛盾した存在だ。この「機械生命」が数万年をかけて「進化」した、と作中では推論されるが、「機械の進化」というのもよく考えると奇妙な話なのだ。それは機械であり生命ではないが、生命の如く進化し、思考は為されていないにもかかわらず意思を持つが如き動きをする。ではこれは一体何なのか?ここでレムは「では機械とは何か?生命とは何か?進化とは何か?」と問いかけてくるのだ。これは例えば「ウイルスは生命か否か」という議論にも通じ、そしてそれは「ではそもそも生命とは何なのか」という問い掛けにも繋がる。そういった部分で、レム作品は常に思弁的であろうとするのだ。

 

アラン・ムーアによるクトゥルー神話コミック『ネオノミコン』

ネオノミコン / アラン・ムーア(作)、ジェイセン・バロウズ(画)、柳下毅一郎(訳)

ネオノミコン (ネオノミコンシリーズ)

人間をチューリップ型に切り裂く異様な殺人事件、古い教会を改築したクラブに蔓延する謎の白粉……頻発する怪事件を解決すべくFBI捜査官メリルとゴードンはマサチューセッツ州セイラムのオカルトショップに向かうが……ラヴクラフトの内なる深淵に迫り、時空を覆す宇宙最凶の暗黒神話、ここに始まる!【2012年ブラム・ストーカー賞グラフィック・ノベル部門受賞作】

ウォッチメン』『フロム・ヘル』『Vフォー・バンデッタ』など、様々な問題作を生み出してきたアメコミ界の鬼才アラン・ムーアが、クトゥルー神話に挑戦したコミックである。クトゥルー神話の傍流作品は数あるが、アラン・ムーアがいったいどう料理するのか?が本作の見所だろう。タイトルは『ネオノミコン』、いわば「新たなるネクロノミコン」といったところだろうか。

物語は連続猟奇殺人事件を追うFBI職員が、不気味な男による情報に導かれ、怪しげなパーティーに参加するところから始まる。ここからもうずっぽりと「大クトゥルー大会」へと発展してゆくのは言うまでもない。実のところオレはラブクラフトクトゥルー神話の熱心な読者ではないのだが、クトゥルー神話のキーワードをあちこちに散りばめながら進行してゆく物語は昏い喜びに満ち、読んでいて実に楽しかった。

この作品におけるアラン・ムーアらしさは『フロム・ヘル』を思わす血腥さと淫蕩さだろうか。グラフィック・ノベル『フロム・ヘル』は切り裂きジャックの真相に迫る作品だが、陰惨な死と狂った淫蕩さを描き、それが黒魔術世界へと繋がってゆく恐るべき物語だった。おぞましい性的暴力を中心的にクローズアップしている部分は吐き気を催すほどの生理的嫌悪を感じさせ、ラブクラフト的なコズミック・ホラーであると同時にまた別種の恐怖をも描く作品となっている。

なおこの作品はアラン・ムーアクトゥルー神話4部作の第1巻目となるものらしい。続いて『プロビデンス』ACT1~3巻が順次刊行される予定だという。これは楽しみだ。

globalhead(フモ)に10の質問

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Taiyakiさんの記事【「はてなブログ10周年特別お題「はてなブロガーに10の質問」】というお題をやっている事を知り、さらにTaiyakiさんに拙ブログに言及していただいたので、ついでにオレもやってみようか、と思ったわけなんですが。

ブログ名もしくはハンドルネームの由来は?

『メモリの藻屑、記憶領域のゴミ』というブログ名は「このブログはネットの海に浮かぶゴミみたいなもんですよ」というつもりでつけました。

ハンドルネーム「globalhead」はSF作家ブルース・スターリングの短編集『グローバルヘッド』から拝借しました。ニックネームの「フモ」は本名にだいたい近い呼び名です。

はてなブログを始めたきっかけは?

オレ、ブログを始める前って相当人生に行き詰まってたんですよ。そんなある日、ダラダラとネットを眺めていたら、物凄く胸に響く文章の書かれたウェブページに行きあたって、オレそれ読みながらパソコンの前で号泣しちゃったんですよ。誰とも知らない個人の方の文章がこんな風にネットに上がっている、それがとても簡単にできて、人の心をこんなに動かすこともある、これがブログというヤツなのか、と興味を持ち、それでブログを始めようと思ったんです。残念ながらその時読んだブログ名は覚えていません。

自分で書いたお気に入りの1記事はある?あるならどんな記事?

18年間ブログ書いて7300記事とかあるんですよ。その中から「1記事」というと相当難しいんですが、やっぱりコレですかね。ブログを10年書いた記念として、オレなりに「全く役に立たない」ブログ作法を紹介したものです。

ブログを書きたくなるのはどんなとき?

ブログなんか書きたくありません。単に異常で奇ッ怪な義務感だけで書いています。

下書きに保存された記事は何記事? あるならどんなテーマの記事?

10個しかないなあ。自転車操業なんですよ。例によって本と映画の記事です。これが一番書きやすいから。

自分の記事を読み返すことはある?

もう読み返しまくりですよ。読み返しながら「コイツは世界最高のブロガーだな」と涙目になりながら自画自賛してます。たまに何年も前のブログ記事の文章読み直して「ここ違う!」とか言いながら直したりしているぐらいです。

好きなはてなブロガーは?

当然ですがフォローしているはてなブロガーさんはみんな好きですよ。特に、というのなら、最近YouTubeTikTokで恐るべきPVを稼いでいるという新進気鋭の映像系イケメンライター、『SUPERBAD-ASS』のTaiyakiさんですね。勢いのある若者っていいですね。将来超ビッグになること請け合いなので、その時はラーメンでもおごって欲しいです。あと『不発連合式バックドロップ』のdragon-bossさん。今日も残業だとか散歩したとかご飯食べたとか、毎日日常の事を淡々と書いているんです。「毎日日常の事を淡々と書く」、これこそがブログの神髄ですよ。

はてなブログに一言メッセージを伝えるなら?

メッセージというか要望なんですが、スマホはてなアプリから他のはてなブログにコメント書こうとすると、ログインしているはずなのに投稿者名からURLから、一から入れなきゃならないのはどうにかならないのかな。なんかやり方あるの?あとスマホだとスターの色を選べない・スターに文章コピペできないけどこれもオレがやり方知らないだけなのだろうか……。

10年前は何してた?

ブログ書いてました。そしてブログに書いてるので10年前のことはすぐ分かります。ブログって便利ですね!

この10年を一言でまとめると?

どんどん歳とってくなあ、体も頭も衰えてくなあ、と、なんかしょっぱい事しか思いつかないですね……。しょっぱい話で締めくくるのもアレなので、前向きな方向で話をまとめると、この10年いつもオレといてくれた相方さんに感謝、です。

 

『サイバーパンク2077』のジョニー・シルヴァーハンド・フィギュアだぜ

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ゲーム『サイバーパンク2077』に登場するキャラクター、ジョニー・シルヴァーハンドのフィギュアを手に入れたのである。ちなみに上の写真はゲーム内での姿ね。お気づきかもしれないがこのジョニー・シルヴァーハンド、実はキアヌ・リーヴスの3Dデータから作成されており、つまりゲーム『サイバーパンク2077』にはキアヌ・リーヴスが出演していると言っても過言ではないのだ(あくまでサブキャラクターだが)。


www.youtube.com

という事はこのジョニー・シルヴァーハンド・フィギュア、ゲーム・キャラのフィギュアであると同時にキアヌ・リーヴスのフィギュアでもあるということなんだね!ゲームのほうはあまりやれてないんだが、キアヌ好きのオレはこのフィギュアを発見してすぐさま惚れ込み、アマゾヌさんでえいやあ!とばかりに購入したというわけだ!

まずこちらが箱入りの状態。この箱のままでも十分飾れるよね。

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箱から出したジョニー・シルヴァーハンドのお立ち姿。カッコイイじゃないですか!

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横から見たところ。

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後ろ姿。ジョニー・シルヴァーハンドは「SAMURAI」というロックバンドのフロントマンを務めていて、そのイメージロゴがバックプリントされたコスチュームを着ているんだね。

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ちょい寄り。ジョニー・シルヴァーハンドの左手はマシーン化されているんだ!サイバーだね!

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そしてアップ。スマホ写真なんでアップのピントが甘いんだが勘弁してくれ!ちょい薄汚れたキアヌ風味のルックス、なかなかカッコイイじゃないか!

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ちなみにもう一つ持っているジョン・ウィック版キアヌのフィギュアと並べてみた。おお!キアヌが二人!?

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