今年は中東料理

先日は相方さんのお誕生日ということで、ささやかながら食事会を開きました。本当は相方さんの誕生日は数週間前だったのですが、例によって彼女の仕事が忙しすぎてなかなか時間がとれず、遅れに遅れて今回やっと開催することが出来たんです。というか実は去年も多忙すぎて都合が付かず、お誕生日会をちゃんとやってなかったんですよ。

毎年いろんなお店でいろんな料理を食べていましたが、今年は「中東料理」ということにしてみました。特に相方さんからリクエストがあったわけではないんですが、オレが食べてみたかったという理由からなんですが(スマン)。いや実はオレと相方さん、「フムス」というひよこまめペーストの料理が好きでしてね、これを出すお店に行ってみたかったんですよ。

そんな訳で選んだお店は銀座にある「ミシュミシュ」という中東料理のお店。コースで予約しました。

まずはチュニジアやトルコの珍しいビールで乾杯。お誕生日おめでとうございます!f:id:globalhead:20200719165350j:plain f:id:globalhead:20200719165402j:plain
そして前菜からフムス含めいろんなペースト、サラダってのが嬉しいですね。他にファラフェル、チーズサモサ、ピタパンなどなど。f:id:globalhead:20200719165542j:plain
海老とムール貝のタジン。この辺りからワイン頼んで飲んでました。中東料理、ワインと合いますね。f:id:globalhead:20200719165621j:plain
メインはケバブ料理、お肉の下にあるのは長粒種のお米を炊いたものかな?f:id:globalhead:20200719165635j:plain
髑髏のラベルが気になってズックムというトルコのビールを注文したらグラスまで髑髏でした!

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中東な置物が可愛らしかった。

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というわけで料理とお酒を楽しみながら2時間半ぐらいお店で過ごしていたオレと相方さんでした。出てきた料理もお酒もどれもとても美味しくて、相方さんも喜んでくれたようです。二人で銀座に出かけるのも久しぶりだった。たまに行く銀座はいいですね。相方さん、また一年よろしくお願いします。 

縦横に広がる異様な脳内世界の光景/映画『アンチグラビティ』

■アンチグラビティ (監督:ニキータ・アルグノフ 2019年ロシア映画

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ちょっと前に「ロシアのSF映画には意外と拾い物がある!」とこのブログで書いたばかりだが*1、またまたロシア製SF映画の登場である。こうして立て続けにロシア製SFをロードショー劇場で観られるというのも結構珍しい事かもしれない。タイトルは『アンチグラビティ』、本国では2019年に公開されたばかりの作品である。

物語は謎めいたシーンの連続で始まる。壮麗な超未来的建造物群が画面に現れたと思ったらそれは次第に腐食してゆき、次にその建造物が何者かの部屋に作られたミニチュアであることが分かる。その部屋である男が目覚めるが、その男の目の前で様々なものが腐食し形を失ってゆく。恐怖に囚われ表に飛び出した男が見たのは、やはり腐食した街並みと重力を無視し縦横に浮遊する建造物の群れだった。呆然とする男を黒く忌まわしい形をした怪物が襲うが、そんな彼を武装した男女の一団が救い出すのだ。

こうして異様なビジュアルとミステリアスな展開が畳みかけられた後に明らかになるのは、この世界が「現実世界で昏睡した人々の記憶の情景が混じり合った脳内世界」であり、「黒い怪物」は「脳死した人間の残存思念が他人の昏睡記憶に襲い掛かり現実の死をもたらすリーパー(死神)」であるということだった。主人公はこの世界に囚われた人々と協力し合い、リーパーが襲い掛かってこない安全な土地を探し出すため危険なミッションに挑むのだ。

なんと言ってもこの作品の最大の見所は「様々な街並みが重力を無視して上下左右に浮遊し細い通路で繋げられた世界のビジュアル」だろう。それはエッシャーの騙し絵のようにも見えるが、むしろ脳内神経細胞の構造に似ているように思う。「脳内世界」を描くこの物語の情景は、脳内神経細胞を模したものだったのだ。

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『アンチグラビティ』の脳内世界

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脳内神経細胞

描かれる世界は複数の人間の脳内記憶が繋がったものであり、それを「ヴァーチャル世界」ととらえるなら映画『マトリックス』であるし「夢」であるととらえるなら映画『インセプション』だということができる。いずれにせよ現実世界の決まり事が無視された世界であるということだ。しかしその世界はなにもかも登場人物の思いのままのことが出来るわけではなく、あくまでこの脳内世界の法則の中で生きるしかない。しかもこの世界は記憶の欠落の如くそれぞれの情景が腐食し痘痕だらけになっている。これら「退行してゆく記憶の情景」からは『ブレードランナー』原作でも知られるSF作家、P・K・ディックの問題作『ユービック』を彷彿させるものがある。

物語の登場人物たちは皆サイバーパンクテイストのコスチュームをまとい朽ちかけ赤錆びた建造物に立て籠もり、リーパー粉砕のための特殊武器を身に着けている。この辺の小道具の扱いもまたカッコいいのだ。さらにそれぞれが超能力めいた特殊能力を持っており、探索や戦闘のおいて発動させる。脳内世界だからなんでもアリ、ということなのだろうが、「異様な異世界を探索しながら敵と戦う超能力者たち」という物語からはどこかコンピューターゲームっぽい世界観を感じたりする。天地や前後左右で重力が異なりそれを利用しながらの行動、なんて部分はゲーム『GRAVITY DAZE』そのままじゃないか。

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GRAVITY DAZE

そう、この作品、脳内神経細胞構造の如き世界を舞台に『マトリックス』『インセプション』『ユービック』『GRAVITY DAZE』を悪魔合体させたさせたような実にユニークな作品として完成しているのだ。

ただしビジュアルイメージ先行型の作品によくあることなのだが、この『アンチグラビティ』はストーリーの膨らませ方に難があり、中盤若干退屈になる部分があるのは否めない。異様なビジュアルも最初こそ驚かされるが、物語が進行してゆくにつれ慣れてしまい、その後は最初の驚き以上のものが存在しなくなってしまう。言ってみれば10分程度のイメージムービーやゲームのムービーシーンを無理矢理2時間余りの物語に水増ししたように見えてしまうのだ。

しかしそういったマイナス面は後半、「この世界が存在する真相」が明らかにされることで新たなサスペンスを生み出し、ようやく物語らしい輪郭を獲得することになる。こういった点で、全体的には物足りない面もある、必ずしも完成度の高い作品とは言えないのだが、様々な既存作品をミックスしながら特殊な映像表現で一点突破した、気概のある作品だという事は出来るだろう。少なくともオレは嫌いじゃないし、これからも記憶に残るであろうSF作品だった。


インセプションのような世界観!ロシア発のSFアクション『アンチグラビティ』予告編

ユービック

ユービック

 

*1:

山尾悠子の幻想小説『飛ぶ孔雀』はオレには向いていなかったらしい

■飛ぶ孔雀 / 山尾悠子

飛ぶ孔雀

庭園で火を運ぶ娘たちに孔雀は襲いかかり、大蛇うごめく地下世界を男は遍歴する。伝説の幻想作家、待望の連作長編小説。

 最近「自分の好きな小説ジャンルはSFでも文学でもなく幻想小説なのではないか」と思ったのである。それはニール・ゲイマンエリック・マコーマックジェフリー・フォードらの幻想小説諸作を読んで感じた事だったのだが、これら作家の作品を読んでいるとある日本人作家の名前が言及されることに気付いた。それが山尾悠子である。なにやら日本幻想文学界におけるボスキャラ級の方なのらしく、これは読んでみなくてはと思って手にしたのがこの『飛ぶ孔雀』である。

この本では「飛ぶ孔雀」と「不燃性について」という二つの中編が収められているのだが、この二つは世界観が微妙に被ったものになっている。「飛ぶ孔雀」はどことも知れぬ日本の古都を舞台に超現実的な日常が進行する。「不燃性について」はやはりどことも知れぬ山頂のラボを舞台にした不可解な毎日を描くが、こちらは割とコミカルなテイストを感じる。全体的に泉鏡花を思わす古風な美文と万華鏡を覗くが如き無機的で幻惑的なイメージが展開してゆく。

ただ個人的には相当苦手な作風だったことは否めない。物語らしい物語は殆ど無く、主人公と目される人物も存在せず、作者の提示するイメージを細心の注意を払って丁寧にトレースすることで作品世界の情景を味わう、といった形態の作品であるため、物語さえ分りゃあいいと雑に小説を読み飛ばすようなオレには読み進めるのが面倒でたまらなかった。要するに向いていないらしいのだ。ううむ、どうやらまだまだ修行が足りないようである。

飛ぶ孔雀

飛ぶ孔雀

  • 作者:山尾悠子
  • 発売日: 2018/05/10
  • メディア: 単行本
 

幻想小説短編集『言葉人形 (ジェフリー・フォード短篇傑作選)』を読んだ

■言葉人形 (ジェフリー・フォード短篇傑作選) / ジェフリー・フォード

言葉人形 (ジェフリー・フォード短篇傑作選) (海外文学セレクション)

かつて、野良仕事に駆り出される子どもたちのために用意された架空の友人、言葉人形。それはある恐ろしい出来事から廃れ、今ではこの小さな博物館にのみ名残を留めている―表題作ほか、大学都市の展望台で孤独に光の研究に励む科学者の実験台として連れてこられた少女の運命を綴る「理性の夢」、世界から見捨てられた者たちが身を寄せる幻影の王国が、王妃の死から儚く崩壊してゆく「レバラータ宮殿にて」など、世界幻想文学大賞、シャーリイ・ジャクスン賞、ネビュラ賞アメリカ探偵作家クラブ賞など数々の賞の受賞歴を誇る、現代幻想小説の巨匠の真骨頂ともいうべき十三篇を収録。

ひょっとしてオレは幻想小説好きだったんじゃないか、とふと思ったのである。この間読んだニール・ゲイマンエリック・マコーマックは実に楽しかった。耽溺した。最近SFやミステリを読んでもあんまりノレないんだが、幻想小説だとうっとりしながら読める。現実から遠く遠く離れてくれる。そういえば10代の頃、SF小説とは別に『幻想と怪奇』みたいなアンソロジー集をよく読んでいたことも思い出した。そうだ、幻想小説しよう。そう思い選んだのが今回紹介するジェフリー・フォードの短編集『言葉人形』である。

ジェフリー・フォードは1955年生まれのアメリカ人作家で、SF、ホラー、ファンタジーとその作風は多彩であり、さらに世界文学大賞、シャーリ・ジャクソン賞、ネヴュラ賞、MWA賞など数々の受賞歴を持つ才人である。とはいえオレはその名前をこれまで全く知らなかったし、今回読んだ短編集も初ジェフリー・フォードということになる。そして読んだ感想はというと、……おおお、これはこってり濃厚な幻想文学ですね……。

この『言葉人形』に収められた作品はこれまで発表されていた作者の短編集5冊の中からさらに選りすぐりの13編を日本独自編集として書籍化したものだ。それらの作品は編者の弁によると「現実的なものから幻想なものへとグラデーションをなす配列」で並べられているという。それを意識しながら読んでいると、確かに読めば読むほどにどんどんと現実感覚が遠くなり、幻想世界にどっぷり首を突っ込んでいる自分に気付かされる。

ざっくり作品を紹介しよう。冒頭「創造」は人形の友達を作った少年がその人形に命が吹き込まれたと妄想する話。これは楳図かずおの漫画に似通った作品があったがこちらはより幻想味が強い。「ファンタジー作家の助手」はタイトル通りの作品だが、この作品、独りぼっちが好きだったり本好きだったり創作好きだったりする人なら感涙にむせんでしまうような傑作短編。ここでガツンと来た。「〈熱帯〉の一夜」はかつての悪友と再会した男が聞かされる怪奇譚だが、S・キング的な展開なのにも関わらずもやもや……っと現実から遊離する感覚がいい。

「光の巨匠」からよりハードに幻想小説化してゆく。この作品では光を自在に扱う芸術家による奇妙な精神世界体験が語られる。「湖底の下で」は10代のカップルの日常的な描写が突如幽玄な幻想世界へと変転するというカタルシス。「私の分身の分身は私の分身ではありません」はドッペルゲンガーにまつわる奇妙な物語。そして表題作「言葉人形」。ここで語られる「言葉人形」というある種の呪術行為がこれまた異様で、そして起こる事件も得体の知れない悪夢のよう。

「理性の夢」は光を捕獲するという実験を繰り返す科学者によるボルヘス的な短編。「夢見る風」は「風により町の住民が夢見られる=夢になってしまう」というアクロバット的な発想のファンタジー。「珊瑚の心臓」はいよいよ欧州中世を思わす世界が舞台となり重々しいゴシック的幻想譚が展開。「マンティコアの魔法」はこれも中世を思わす世界で空想生物マンティコアと人間との確執を描く作品。そして「巨人国」。おおおおう、これって作者の妄想を自動書記的に書きまくったような、なんだか夢の中にいるかのような不条理と不思議に満ちた作品じゃないか。いいねえ。ラスト「レバターラ宮殿にて」は御伽噺的な王国を襲う魔術的な崩壊感覚たっぷりに描いてゆく。

 ジェフリー・フォードの作品を見渡してみると、ありふれた現実に突然亀裂が生じそこから雪崩れ込んできた異界の情景になにもかもが変容させられてしまう、という作風と、時間も空間も曖昧になり夢幻の如き世界で不可思議な物語の住人になってしまう、という作風が相半ばするだろうか。だから読む側も物語の行く先がまるで予想付かないまま物語世界で彷徨ってしまう。というわけで歯応えたっぷり、実に堪能させてもらった短編集だった。

 

祝:DVD・Blu-ray発売!インドのスーパーヒーロー『フライング・ジャット』の活躍をみんなも観よう!

■フライング・ジャット (監督:レモ・デスーザ 2016年インド映画)

フライング・ジャット [Blu-ray]

(この記事は2016年9月2日更新の『弾よりも速く、力は機関車よりも強く!インドのスーパーヒーロー、フライング・ジャット登場!?〜映画 『A Flying Jatt』』を作品のソフト化に合わせ一部内容を変更してお送りしています)

■インドのスーパーヒーローなんだ!?

バットマン、スーパーマンを擁するDCコミック。アイアンマン、キャプテン・アメリカを擁するマーベルコミック。その他その他、アメリカン・コミックのスーパーヒーローは枚挙にいとまがないが、わが愛するインド映画の世界にもスーパーヒーローは存在する。それは……

シャー・ルク・カーンの『ラ・ワン』!

リティク・ローシャンの『クリッシュ』!

ムケーシュ・カンナの『シャクティマーン』!

アニル・カプールの『ミスター・インディア』!

そんなボリウッド・スーパーヒーロー界に新たな名前が追加された。
その名は『フライング・ジャット』だッ!?(やんややんや!)

■鳥だ!?ヒコーキだ!?いやフライング・ジャットだ!?

というわけでインドのスーパーヒーロー映画『フライング・ジャット』です。物語はなにしろスーパーなヒーローが悪を倒す!というもの。分かり易いですね。もうちょっと書くと、シク教徒たちの神木として崇められている木を切り倒そうとする悪徳企業に、神木のパワーを授かった青年が立ち向かうという訳です。インドだからでしょうか、ちょっと神懸かりなんですね。そしてこの物語の特徴的なところは、スーパーヒーローものなんですが、相当笑える要素が持ち込まれている、という部分です。

では出演者を紹介。主人公の青年アマン、そしてフライング・ジャットに『Baaghi』(2016)、『Heropanti』(2014)のタイガーシュルロフ。ヒロイン・キルティに『Housefull 3』(2016)、『Brothers』(2015)のジャクリーン・フェルナンデス。アマンの母にアムリター・シン。悪徳化学企業社長マルホトラにケイ・ケイ・メノン。そしてフライング・ジャットの刺客として送られた凶悪なヴィラン・ラカを、なんと『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)のネイサン・ジョーンズが演じております!こりゃあ『MMFR』のファンも観なきゃだね!監督はコレオグラファーとして知られ『ABCD: Any Body Can Dance』(2013)、『ABCD 2』(2015)も監督しているレモ・デスーザ。

さてその配役たちのビジュアルを申しますと、マコーレ・カルキンをさらにヒネさせたようなスーパーヒーロー平野レミ似のカノジョを守るため、
 
ちょっと色黒の近藤正臣率いる悪の軍団の最終兵器、ストロング金剛さんと一騎打ちをする、ということになっているんですね。
 
……すいませんちょっと違います。(でもなんかみんな似てたんだよなあ)

■痛快無比かつインドテイスト溢れるヒーロー映画

脱線ばかりでお許しを。いや、あんまり面白かったもんですから、ついつい悪乗りしてしまいました。こんな愉快適悦!痛快無比!爽快至極!なインド映画もなかなか無いんじゃないでしょうか。それは、大人も子供も楽しめるシンプルなスーパーヒーローものだという部分にあります。それも、ハリウッドのスーパーヒーロー映画とはまた違う、インド映画ならではの要素と楽しさを兼ね備えているんですよ。

この作品の大きな魅力はまずそのコメディ・センスにあります。それも言葉のギャグや泥臭いドタバタやお下劣さによるものではなく、「スーパーヒーローとかいうみょうちきりんなもの」それ自体の可笑しさです。そもそもスーパーヒーローなんてよく考えたら妙な存在です。人智を超えたパワーを持ってるけれど神でも悪魔でも無く人間なんです。だからフライング・ジャットは正義を行ったりもしますがとっても人間臭くで、ドジ踏んだり、忙しくでゲンナリしたり、「なんかオレ、けったいやわぁ」と神妙な顔をしたりもします。最初なんて空を飛べても地上1.5mぐらいを時速3、40キロでしか進まなかったりするスーパーヒーローですよ?家族が不死身なのを面白がってナイフでブスブス刺してくるんですよ?おまけにその家族がコスチュームにああでもないこうでもないとうるさく注文つけまくるんですよ?

そうそう、このフライング・ジャット、家族にスーパーヒーローだって顔バレしてるのもユニークなところですね。アメコミのヒーローは孤高だったり孤独だったりしますが、フライング・ジャットは母親から「あんた頑張んなさい!」とドヤされたり、弟から「コスチュームかっこいいから貸してよ!」とねだられたりとか、和気あいあいです。この辺インドの家族主義とかいうヤツなんでしょうが、逆に欧米の個人主義が介入していないからということもできます。アメリカのスーパーヒーローというのは西部開拓時代の根底に存在した自警団思想の変形であり、新訳聖書的な神の鉄槌の代弁者であるとも言えますが、インドはそんなの関係ありませんからスーパーヒーローの解釈も自ずと違ってくるわけです。そしてこの映画ではそれが、シク教徒の歴史性とそこに存在するアイデンティティであることが後に明らかにされ、ここで物語は一挙にただのお子様向け映画ではない凄みを増してくるのです。

■主演タイガー・シュロフの魅力

そしてなんといってもこの作品を素晴らしいものにしているのは主演であるタイガー・シュロフの魅力でしょう。いや、ルックスはなにしろマコーレ・カルキンに筋肉増強剤を20リットルぐらい投与したらこんなになりましたあ、ってな風情なんですけどね、身体能力がハンパないんですよ。タイガー君の前作『Baaghi』(2016)でもまるで香港アクションやタイ・アクションを見せられているような凄まじくキレのいいアクションを見せてくれて惚れ惚れしましたが、今作ではなんとブルース・リーのマーシャル・アーツで勝負するんですよ!まあ実際どこまでモノホンのマーシャル・アーツなのかオレは分からんのですが、主人公アマンは学校で武術教えてるし部屋にはデカデカとブルース・リーのペインティングしているし、すっかり成り切っているのは確かですね。ものその動きの素早さ体のしなやかさ、今インドでこれだけのアクションを繰り出せるのはひょっとしたらタイガー君が一番かもしれません。

そしてその身体能力の高さに裏打ちされたキレッキレ踊りですね。踊りの上手さ、というよりも格闘家ならではの筋肉の俊敏さが踊りを際立たせているんですね。しかも今回はコレオグラファーでもあるレモ・デスーザが監督しているわけですから、画面に登場する踊りが楽しくない訳がないではありませんか。踊ってよしアクションよし、さらに今作ではコメディまでキッチリこなし、これはもうインド映画界の新たなスターの誕生と言わざるを得ません。ウィークポイントだったマコーレ・カルキン似のルックスも、出演作を重ねるごとにどんどん男臭くなり、そんな男臭さの中から時折見せる笑顔がまた可愛いんですよ!ただまあ甘いマスクってわけではありませんのでロマンスものには向かないとは思いますが、そんなのは他のインド男優に任せて、ここは徹底的にアクション・スター(とたまにコメディ)としてインド映画界で頑張って欲しいですね!

■(余談)ところでムケーシュ・カンナの『シャクティマーン』ってナニ?

ところで冒頭にインド映画界のスーパーヒーローを並べましたが、その中の"ムケーシュ・カンナの『シャクティマーン』"に「これナニ?」と思われた方もいらっしゃったんじゃないでしょうか。この『シャクティマーン』、実は1997年から2005年にかけてインドの全国ネットTVで放送された、インドでは知らない者がいないという超人気スーパーヒーロー番組なんですね。どうですか?興味が湧きませんか?この『シャクティマーン』、そしてインドのスター・ウォーズと呼ばれる『アーリャマーン』についてオレが解説しまくった同人誌が発売されています!いや実は暗黒皇帝は同人誌でインド(TV)映画の文章を発表していた!?
掲載されているのは「映画評同人誌 Bootleg」の「あなたの知らない映画カタログ」号、その中で「インドTVのスーパーヒーロー」というタイトルでオレが書いています。その他2本のインド映画コラムも書いてるよ!興味の湧いた方、読んでみたいと思われた方は新宿ビデオマーケットで絶賛発売中ですので是非ご購入の程を!


 〇『A Flying Jatt』トレイラー

〇このプロモビデオも可愛いです。

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