グラフィック・デザイナー集団【MONDO】による映画ポスター作品集『MONDO 映画ポスターアート集』

MONDO 映画ポスターアート集

スター・ウォーズからアベンジャーズタランティーノエドガー・ライト作品まで。“MONDO" オフィシャル映画ポスター集!世界中の映画ファン、映画製作者から愛され、絶大な人気を誇る"MONDO" で制作・販売されたレアなポスター約300 枚を一挙公開。

モンド映画ポスター集」と聞いて最初B級ホラーやカルト映画のポスターを集めたものなのかな?と思いつつ購入してみたら、実はこれ、「MONDO」という映画オタクによる映画オタクの為の映画オタクWebショップで製作された映画ポスター集のことだった。

MONDO(モンド)とは…
小さな切符売場サイズのT シャツショップからはじまり、映画オタクから熱狂的に支持され、ついには公式にスター・ウォーズ・シリーズのポスターを手掛けるようになるまで成長・発展したクレイジーな企業!テキサス州オースティンに本拠を置く、映画に関わるハイクオリティな商品を制作・販売するアートギャラリー/オンラインストア。様々なアーティスト達に依頼して、過去の映画のポスターを新たにオフィシャルに制作し、販売しており、今までには人気グラフィック・デザイナー/イラストレーターのDan McCarthy、Martin Ansin、PATENT PENDING INDUSTRIES も制作している。  

一般的に商用映画ポスターは、公開される映画作品がどんな作品なのか広く告知する為に作られるけれど、このMONDOのポスターは、映画フリークのアート集団が、「その映画がどんな映画なのか知っている人こそがより楽しめて」、さらに「アートとして優れていて美しいデザインを施された」映画ポスターを製作することを主眼としたものなのだ。どのポスターもひとひねりしてあったり直球で攻めてきたり徹底的な装飾性に走ったりと個性たっぷりで、ひとつの映画作品から生まれる様々な美術アプローチが実に豊かなんだね。

だからね、もう、映画ファンなら、どのページを眺めてもニンマリしまくること請け合いのアート集になっているのだよ!!モノによっては最初なんの映画かまるで分らないポスターでも、よっく見ると「あああああそういうことなのかあああ!!」とびっくりさせられたり、それとか「おおっとこのシーンに着目したのかあ!」とワクワクさせられたり、逆にその映画の情報量をありったけ詰め込んだポスターになっていたり、もうなにしろ見ていて嬉しくて嬉しくていつもまでも眺めていたくなるんだ。

実際のMONDOポスターは限定生産されていてなかなか手に入らないようだけれど、オフィシャルページを根気よく追っかけていればそのうち「これだあ!」ってなポスターが発売されてるかもしれないから要注目だね。まあオレはこのポスター集だけで満足しておくことにします……。どちらにしろ相当楽しいポスターアート集なので映画ファンは必携なんじゃないかな。

Mondo:オフィシャルHP

Mondo:ポスターアーカイブ

16 Best Mondo Movie Posters Of All Time | Screen Rant

50 Best Movie Posters From Mondo | IndieWire

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MONDO 映画ポスターアート集

MONDO 映画ポスターアート集

 

 

娘の復讐の為に立ち上がった母~映画『Mom』

■Mom (監督:ラヴィ・ウディヤワル 2017年インド映画)

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今年7月にインドで公開された映画『Mom』は愛する娘を集団レイプされた母親が犯人たちに復讐をなすというスリラー映画だ。主演は『マダム・イン・ニューヨーク』のシュリーデーヴィー(なんとこの作品が映画300作目の出演だとか!)、IFFJ2017公開作『ディシューム J&K』のアクシャイ・カンナー。また、 インド映画名バイプレイヤーのナワーズッディーン・シッディーキーが相当怪しげなメイクで登場する。音楽にARラフマーン、監督ラヴィ・ウディヤワルはこれが初監督作なのらしい。

《物語》学校教師デーヴァキー(シュリーデーヴィー)にはアーリア(サジャル・アリー)という10代の娘がいたが、再婚した夫マシュー(アクシャイ・カンナー)の連れ子であるせいか、デーヴァキーの注ぐ愛情にアーリアは冷淡だった。 ある日アーリアはバレンタインパーティーに出掛け、そのまま連絡がとれなくなってしまう。ようやく見つかった彼女は夥しい暴行を受け半死半生のまま道路側溝に投棄されていた。アーリアの治療と集団レイプ犯の逮捕が始まる。しかし裁判は証拠不十分により全員釈放。行き場の無い怒りと絶望に成すすべもないデーヴァキーにDK(ナワーズッディーン・シッディーキー)と名乗る奇妙な探偵が近づく。彼は、デーヴァキーに何か力になれないか、と持ち掛ける。こうして、デーヴァキーとDKによる復讐劇の幕が切って落とされるのだ。

集団レイプ事件とそれへの復讐、という非常に重くシリアスなテーマを持つ作品である。インドでは多発するレイプ事件が問題視されているが、その中でも最も悲惨であり注目を浴びたのは2012年にデリーで起こった集団強姦事件だろう。これは被害者がバスの車上で6人の男にレイプされ女性器に鉄パイプで性的暴行を加えられ、さらに鉄パイプで激しく殴打された後車外に投棄された事件だ。被害者はその後内臓損傷により死亡、逮捕された犯人たちには死刑などの判決が下されている。この事件は国内外で大きな関心を呼び、インドでは性犯罪の厳罰化などが図られるようになった。事件の背景にはインドにおける根深い女性蔑視、それによる性犯罪への軽視と無関心などが挙げられている。

映画『Mom』はそういった過去から連綿と続いていたであろう女性の性被害に女性側からの【復讐】というフィクショナルなストーリーを持ち込み、今日的なテーマの作品として完成している。そしてこの復讐譚のかなめは、被害者ではなくその母親が復讐へと駆り出されるという箇所にあり、復讐それ自体が孕む反社会性や非合法性を、「母親の愛情によるやむにやまれぬ行為」 という非常に共感を呼びやすい形に落とし込んでいる部分において秀逸だ。いかに相手が愚劣かつ非道の輩であろうと、復讐という行為には暗くアンモラルな影が付きまとい、たとえそれが成就されようとその後ろ暗さは払拭されないものだ。それを「愛」により昇華しようとしたのが注目すべき点だ。

そして今作、なによりも主演のシュリーデーヴィーが息を呑むような素晴らしい演技を見せる。かつて一世を風靡した美人女優であり、今作でも十二分にその美貌を見せつける彼女だが、そんな彼女が娘の危機に顔を歪ませ泣き叫び、復讐の冷たい炎に燃え上がる目つきを見せるシーンは迫力満点であり、いかに彼女が美貌だけではない演技派の女優であるのかを思い知らされる。ここにあるのは『マダム・イン・ニューヨーク』のおっとりした主婦ではなく、怒りと悲しみに身も心も苛まれ、娘の為に全てを投げ出して復讐を決意するギリギリの人間存在なのだ。ちなみに役名のデーヴァキーはヴィシュヌ神の化身、クリシュナの母親の名でもある。

一方、デーヴァキーを助ける怪しげな探偵、DKを演じるナワーズッディーン・シッディーキーの怪演ぶりがまた楽しい。禿げ頭に重そうな眼鏡をかけたメイクはそれだけでも十分怪しいが、方言かなにかなのか奥歯にものの挟まったような喋り方をするのがまた胡散臭さを倍加させる。しかし怪しげとは言いながらDKがデーヴァキーに近づいたのは自らにも愛娘がいたからという同情心からであり、怪しいのは単に見てくれだけ、というのがまたなんとも可笑しい。だがこんな彼がレイプ犯それぞれを尾行しデーヴァキーと秘密の接触を行いながらそれを告げるシーンは緊張感がありスパイ・ストーリーを見せられているかのような面白さがある。 

この物語のもうひとつの面白さは、娘に強烈な愛情を傾ける母とそれに冷淡な娘、という構図にある。デーヴァキーの復讐により一人また一人と命を落とすレイプ犯だが、その死が報道されることにより、娘アーリアはこれが自分の為の復讐だと気付き、密かに感謝する。しかしアーリアはこれが愛する父が行っているものと思い込み、 母デーヴァキーにはやはり冷淡なままなのだ。こうした報われなさを知りつつも、デーヴァキーは娘の肩の荷がひとつでも下りればそれでよいのだとまた復讐に赴く。こういった不対称な想いがいつどのような形で成就するのか、母と娘が和解することが果たしてできるのか、という部分に、この物語の奇妙な切なさがある。レイプ事件という重いテーマの作品ではあるが、その基本に母娘の愛の行方を描くことで、決して後味の悪いものになっていないことがこの作品の良さだろう。

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MOM Trailer | Hindi | Sridevi | Nawazuddin Siddiqui | Akshaye Khanna | 7 July 2017

オレ的映画オールタイムベストテン2017!!!

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◆オレ的映画オールタイムベストテン2017!!!

というわけでブログ『男の魂に火をつけろ!』で企画している『映画オールタイムベストテン:2017』に参加させていただきたいと思います。早速ですが1位はいきなりあの映画!?

《オレ的映画オールタイムベストテン2017》

1.ブレードランナー 2049 (2017年、監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ

2.マッドマックス 怒りのデス・ロード (2015年、監督:ジョージ・ミラー

3.銃弾の饗宴‐ラームとリーラ (2013年、監督:サンジャイ・リーラー・バンサーリー)

4.アンダーグラウンド (1995年、監督:エミール・クストリッツァ

5.ホーリー・マウンテン(1973年、監督:アレハンドロ・ホドロフスキー

6.エル・トポ (1969年、監督:アレハンドロ・ホドロフスキー

7.ダークナイト (2008年、監督:クリストファー・ノーラン

8.PK ピーケイ (2014年、監督:ラージクマール・ヒラーニー)

9.イングロリアス・バスターズ (2009年、監督:クエンティン・タランティーノ

10.ラガーン (2001年、監督:アシュトーシュ・ゴーワリケール)

◆今から振り返るオレの10年前のベストテン

ところで『映画オールタイムベストテン:2017』ってナニ?という方もいらっしゃるかと思いますのでざっくり紹介を。

上記リンクにも書かれていますが、ブログ主催のワッシュさんは「映画ベストテン」企画を様々なお題を元に2007年からやられているんですね。このオレもしょっちゅう参加させていただいておりました。

その最初である2007年が「映画オールタイムベストテン」だったんですが、10年前、オレがこの企画に参加したときの「映画オールタイムベストテン」がこんな感じでした。

《オレの2007年当時の映画オールタイムベストテン》

1位:地球に落ちてきた男(監督:ニコラス・ローグ 1976年イギリス映画)
2位:ブレードランナー(監督:リドリー・スコット 1982年アメリカ映画)
3位:タクシードライバー(監督:マーティン・スコセッシ 1976年アメリカ映画)
4位:ビデオドローム(監督:デヴィッド・クローネンバーグ 1983年カナダ映画
5位:マッドマックス2(監督:ジョージ・ミラー監督 1981年オーストラリア映画)
6位:ファイトクラブ(監督:デヴィッド・フィンチャー 1999年アメリカ映画)
7位:遊星からの物体X(監督:ジョン・カーペンター 1982年アメリカ映画)
8位:ファントム・オブ・パラダイス(監督:ブライアン・デ・パルマ 1974年アメリカ映画)
9位:パルプ・フィクション(監督:クエンティン・タランティーノ 1994年アメリカ映画)
10位:新世紀エヴァンゲリオン 劇場版 Air/まごころを、君に(監督:庵野秀明 1997年日本映画)

で、自分のこのときの記事を眺め渡しながら「オールタイムとは言いつつ、このベストテンは今の気分にはちょっとそぐわないな」と思ったんですよ。

10年といやあ結構な年月で、オレも46歳のオッサンから56歳のクソジジイに成り果てており、そしてその間それなりに考え方や感じ方が変わったり、単に老化してボケが進行したりしており、10年前にベストに思えたものが、今はあまり魅力を感じなくなってきているんです。そしてその10年の間には、それなりに沢山の映画を観ており、その中には、かつてのベストテンを超える作品も幾つもあるんですよ。

それと、2007年のベストテンは、オレの青年期のベストテンなんだな、と思うんです。まあ、いってみりゃあセーシュンです。そのセーシュンの時期に観た『タクシードライバー』には非常に生々しい衝撃を受けましたが、56歳になってみると、今のオレはもう『タクシードライバー』じゃないなあ、と強く感じるんですよ。

そんなことを考えながらオレの今の気分でベストテンを並べてみたら、21世紀になってから公開されたか、あるいはオレが21世紀になってから初めて観た旧作ばかりになりました。

◆「オレ的映画オールタイムベストテン2017」の一口コメント

1.ブレードランナー 2049 (2017年、監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ

BLADE RUNNER 2049 (SOUNDTRACK) [2CD]

BLADE RUNNER 2049 (SOUNDTRACK) [2CD]

 

「オレ的オールタイムベストテン2017」堂々の第一位はなんとついこの間公開された『ブレードランナー2049』!当然今年観た映画のナンバーワン!賛否両論あるようだがオレがこの作品を愛して止まないのは、自分にとって「世界が一個本当にそこにあった」と感じたこと、これに尽きる。没入感が物凄かった。2049年の架空の未来世界なのもかかわず、さっきまでこの世界に住んでいたようにすら感じた。その中でオレは主要人物でもなんでもないけど雑踏をうろついているどこかのおっさんの一人だった。オレは、この映画を観返せば、いつでもまたあそこに帰れるのだとすら思った。なにか、魂的なものにより、強烈な吸引性を感じるのだ。そしてこの作品は『ブレードランナー』1作目を包含しているという意味で1作目『ブレードランナー』もまたオールタイムベストテンである、ということができる作品だ。2.マッドマックス 怒りのデス・ロード (2015年、監督:ジョージ・ミラー

人の人生には節目というものがあり転換期というものがある。それまでの自分から脱却してもう一回り大きな、または新たな自分になるという時期のことだ。映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は数十年続いたいち映画ファンの"映画体験"を別物に変えてしまうような、”映画的事件”だったのだと思う。オレは未だにあの荒野が忘れられない。男たちの咆哮と女たちの叫びが忘れられない。この映画からは映像や音響だけではなく臭いや温度や湿度までが滲み出していた。映画を超えてひとつの"体験"にまで高められた畢竟の名作に間違いない。

3.銃弾の饗宴‐ラームとリーラ (2013年、監督:サンジャイ・リーラー・バンサーリー)

オレのこれまでの映画体験を根こそぎひっくり返し、全く別の地平へと向かわせたもの、それはインド映画との出会いである。そしてその決定的かつ衝撃的な映画作品がこの『銃弾の饗宴‐ラームとリーラ』だ。美術、音楽、風俗、文化、なにもかもが別次元だった。それは、それまで見知っていた欧米文化としての映画作品とは全く別個の、それまで全く知らなかった異質な文化との激突事故だった。この作品に衝撃を受けてから様々なインド映画を観て、この作品よりも完成度の高いであろう作品にも幾つか出会いはしたけれども、それでも、決して忘れられない出発点だったインド映画こそがまさにこの作品なのだ。

4.アンダーグラウンド (1995年、監督:エミール・クストリッツァ

アンダーグラウンド Blu-ray

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ここ10年で、作品それ自体のみならずそもそもの監督の作風に魅せられたのが誰あろうエミール・クストリッツァだ。クストリッツァの作品において登場人物たちは調子っぱずれな狂騒の中夢とも幻ともつかない非現実の世界へと滲み出す。それは悲惨でさもしい現実からの逃避なのか、それとも新たに獲得したもう一つの現実なのか。そのどちらであろうと、現実の皮一枚向こうにあるその世界に、クストリッツァは剥き出しの喜びと悲しみを映し出そうとする。そのクストリッツァの映画『アンダーグラウンド』は、祖国亡失という絶望の中で作り上げられた、あたかも怒りの神話とも言える壮絶な名作なのだ。

5.ホーリー・マウンテン(1973年、監督:アレハンドロ・ホドロフスキー 

ホーリー・マウンテン HDリマスター版 [Blu-ray]

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オレの敬愛する映画監督はここ10年で出会った二人の監督、一人がエミール・クストリッツァであり、もうひとりがこのアレハンドロ・ホドロフスキーである。この二人は、もはや唯一無二とも言える強烈な独自の 世界を持ち、観る者を簡単に異次元へと叩き出す。映画『ホーリーマウンテン』の異様さ、尋常の無さは只事ではない。ここで描かれるのは神秘主義であり占星術であり錬金術である。ここにはありとあらゆるオカルティズムが横溢するのだ。同時にこの映画は十分に滑稽であり残酷であり美しくもまた醜悪だ。神話のようでいて漫画のようですらある。これらが混沌と混ざり合いながら奔出する映像とその物語はどこまでもサイケデリックでありドラッギーだ。こうしてどこまでも異様な世界に遊びながら最後にポトン、と現実に戻ってくる。それがまた素晴らしい。

6.エル・トポ (1969年、監督:アレハンドロ・ホドロフスキー

エル・トポ HDリマスター版 [Blu-ray]

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かつて岡本太郎は言った、「芸術ってのは判断を超えて、『何だ、これは!』というものだけが本物なんだ」と。オレが初めてホドロフスキーの映画を観た時に感じたことは、まさにこの、『何だ、これは!』だった。そういった意味でホドロフスキーの映画は"芸術"ではあるが、しかしホドロフスキーのその"芸術"は、ただ美しいだけではなく、醜いもの、汚れたもの、異常なものさえもが所狭しと詰め込まれている。ただしそれは露悪的なのではなく、その衝撃こそが生そのものであり、生の生々しさなのだ、ということを伝えるのだ。この『エル・トポ』も、生々しさと醜悪さの中に崇高さが宿るという異様で美しく魂を切り刻むかのような過激さに溢れた物語だ。ホドロフスキーが好き過ぎて、今回のベストテンには2作も入れちゃったよ!

7.ダークナイト (2008年、監督:クリストファー・ノーラン

 正義狂人バットマンと悪の狂人ジョーカーという狂人同士の戦いは暴力の上に暴力が積み重なり最後に破壊と死しか残さないという虚無的な抗争へと発展する。善悪の彼岸とかいう名目上のテーマはその時破綻し狂人たちが行使し応酬しあう暴力の興奮のみにどこまでも酔い痴れることが出来るというのがこの映画の異様さだ。ただただ暗黒のみが広がる神無き世界の黙示録、それが『ダークナイト』だということができるかもしれない。

8.PK ピーケイ (2014年、監督:ラージクマール・ヒラーニー)

PK ピーケイ [Blu-ray]

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欧米の映画を観るときに気付かされることは、そこにある"神"が”隠されている”ということだ。製作者たちは"神"の事など少しも気にしていないし描くつもりも無くとも、注意深く観ると映画の画面の裏側から欧米人の深層心理の底にある”神”の姿がうっすら透けて見えて来る。しかも、実はこの"隠された神"の姿こそが、物語の主軸であったり真相であったりする。結局欧米人は合理性を気取りながら"神"の掌から逃れられていないことを認識していないのだが、その点、インド映画は真正面から臆面もなく【神!!】とやっているばかりか、欧米的な【原罪】と全くの無関係である、という点で、奇妙に明るく【神!!】の話を描くことができる。あとは凝り固まった因習からどれだけ逃れることが出来るかなんだが、映画『PK』をそれを軽やかに遣り遂げているという点で、現在地球上で観ることのできる【神と宗教】についての映画の最高峰なのではないかと思う。

9.イングロリアス・バスターズ (2009年、監督:クエンティン・タランティーノ

いや実はタランティーノの映画はどれも好きで、だからどれを入れてもよかった、そして入れるべきだった、前回のベストテンでは『パルプ・フィクション』を入れた、ああ、あれは最高の映画だった、そして今回は『キル・ビル Vol.1』にしようかと思った、そう、あれも最高の映画だった、けれど、今のタラ映画と比べると少し古臭く感じた、じゃあどの辺かな?と考えた時にこの『イングロリアス・バスターズ』が今の所いい具合に熟成されてきていると思った、なによりフランス女優メラニー・ロランがいい、もちろんクリストフ・ヴァルツもいい、いやイーライ・ロス だって大概なもんだった、そんなことをあれこれ考えるのが楽しかったのでこの作品にした。

10.ラガーン (2001年、監督:アシュトーシュ・ゴーワリケール)

ラガーン [DVD]

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 今回のベストテンにはこの作品を含めインド映画が3本入っている。結局「オールタイムと言っていいぐらい強烈に印象に残っている映画」というと、やはりインド映画が多くなってしまうのは致し方ない。ただし今回のベストテンでは、あくまで「一般劇場ないし日本語字幕・吹替のあるソフトの形で日本で公開されたことのある映画」という縛りにしてあるので、この3作がオレにとってインド映画最高の3作という訳ではない。とはいえこの『ラガーン』、搾取と差別と植民地支配というある種重いテーマを「じゃあスポーツで解決しよ!」と単純化し、そしてその試合内容の手に汗握りついでにオシッコも洩らしちゃいそうになるような凄まじい展開で血管もブチ切れよとばかりにとことん盛り上げまくる一級の娯楽作に仕上がっており、いやこれもインド映画というよりオレがこれまで観たスポーツ映画の最高峰なんではないのかとすら思っている。観なよ。凄いから。世界にはこんな驚くべきスポーツ映画があるんだから。

嫁いだ先にはトイレが無い!?~映画『Toilet: Ek Prem Katha』

■Toilet: Ek Prem Katha (監督:シュリー・ナーラーヤン・シン 2017年インド映画)

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嫁いだ家にはトイレが無かった!?

大恋愛の末結婚したけれど、嫁いだ先の旦那の家にはトイレが無かったッ!?というか村全体にトイレが無い!?という驚愕の事実が大騒動を生む実にインドらしいインドのコメディ映画『Toilet – Ek Prem Katha』です。主演はインド映画売れっ子大スターアクシャイ・クマール、そして"おデブ嫁のてんやわんや"を描いた快作『ヨイショ!君と走る日(原題:Dum Laga Ke Haisha)』に主演したブーミ・ペードネーカル。ちなみにタイトルの意味は『トイレ ある愛の物語』なんだそうで、ここから既に面白そうな作品です。

物語はなにしろ男女の大恋愛から始まります。田舎町で自転車屋を営む ケーシャヴ(アクシャイ・クマール)は都会の娘ジャヤー(ブーミ・ペードネーカル)を見て一目惚れ、すったもんだの挙句相思相愛に相成り結婚へと漕ぎ着けます。しかしジャヤーが旦那の家に嫁いでみると、なんとトイレが無い!?それだけではなく村全体にトイレが無い!?なんとその村は、草むらに入って用を足すのが当たり前になってる村だったのです!「ぜってーありえねーッ!!こんな旦那別れちゃるーーッ!!」ブチ切れたジャヤーを引き留めるためケーシャブは家にトイレを作ろうとしますが、なんとそこにはとんでもない難関が待ち構えていたのです!!

なんでトイレが作れないんだ!?

いやもうインドでなけりゃ考えられないようなとんでもなく可笑しなシチュエーションから始まる秀逸なコメディでした。とはいえ「インドでなけりゃ」とは書きましたけれど、世界ではいまだ3人に1人がトイレの無い生活をしているのだそうで、決してインドだけの問題ではないのは確か。

ユニセフ「世界トイレの日」プロジェクト | UNICEF World Toilet Project

 しかしこの物語は「トイレがあって然るべき都会」で暮らしていたインド人女性が「トイレが無いのが当たり前の田舎」に「結婚」という形で縛り付けられなければならない、という部分で悲喜劇を生み出してるんですね。

「じゃあトイレ作っちゃえばいいだけの話じゃん!」と普通思うでしょう。しかし「トイレが無いのが当たり前の田舎」にはそれなりの理由があったんです。それは、貧乏でトイレを作るお金も無いとかそういう理由ですらなかったんです。なんとその村では、「トイレは不浄をもたらすものだから家に作ってはいけない」という宗教上の理由があったのです!インドには貧困によってトイレが無い家もあるのでしょうが、「宗教上の理由」によるものもあると知ってびっくりしました。

そして、「宗教上の理由」であるからこそそれは当地のコミュニティにおいては絶対の決まりであり、いくら新妻のためとはいえ、ケーシャヴは簡単にトイレなんか作れないんです。おまけにケーシャヴの父親は僧侶であり、「宗教上の理由」を破ることは同時に自分の父親を否定し反抗することに他ならなかったんです。物語の中盤までは新妻ジャヤーも我慢に我慢を重ね、いろんな方法でしのいでいましたが(この辺も気の毒ではあるけどまたまたコミカル)、遂にブチ切れ実家に帰り、あまつさえ旦那に離婚請求までしてしまいます!絶体絶命のケーシャヴ!ケーシャヴの明日はどっちだ!?

非常に優れたコメディ作品

この作品の優れている部分は幾つもあります。まずインドの今日的な問題を扱っている点。実際インド政府もトイレ普及問題には頭を悩ませているそうで、ある意味この作品、「国策映画」でもあるんです。もうひとつは、ロマンス映画の終点である「幸せな結婚」の、その先にある現実的で困難な問題を描いている点。そう、結婚だけで人生はメデタシメデタシなんかじゃないんです。そういった目の付け所がいい。さらにもうひとつは、抑圧的で支配的なインドの父親像に、主人公が反旗を翻す場面を描いている点。インドの悪しき伝統に物申さなければならない時、インドの悪しき父親像にも物申さないとどうしたって収まらないんです。こう言った点が新しい、と感じました。

それとこの物語は女性の人権の物語でもあります。外で用を足す村の女性たちは男たちの心無い悪戯にも遭っていたんですよ。でもそれは仕方ないことだと諦められていた。けれど、ジャヤーが「トイレが無いのはおかしい!」と声をあげた時、村の女性たちもやっとこんな境遇が間違っていると言うことが出来るようになったんです。そしてジャヤーはある行動を起こすんですね。こんなジャヤーを演じるブーミ・ペードネーカルがとてもいい。インド映画にありがちなモデル顔の美人女優ではなく、物語のリアリズムを感じさせる庶民的で地に足の着いたルックスをしている。だってトイレ問題がテーマの映画のヒロインがカトリーナ・カイフやソーナクシーじゃリアリティが無くなっちゃうと思いません?

さらにベタ褒めしましょう。それは主人公ケーシャヴ。彼は、「トイレが無い」という妻の直面した難問を、真摯に聞き入れなんとかしようとするんです。「オラの村の決まりだから言うこと聞け!」なんてやらないんです。トイレ設置に対する父親の猛反対があった後にも、様々な苦肉の策をヒリ出して、なんとか妻の意に沿おうとするんです。にもかかわらずやっぱりうまく行かなくて妻は家を出てしまいます。しかし!ケーシャヴはそれでも諦めないんです!ここからのケーシャヴの大奔走の姿には目を見張ります。例え結果がどうあろうとも、己のできることを、できるだけやる。悩み打ちひしがれながら行動することを止めないケーシャヴに、ああ、これこそがインドの聖典バガヴァッド・ギーター的な姿なんだな、としみじみ思わされましたよ。


Toilet Ek Prem Katha Official Trailer | Akshay Kumar | Bhumi Pednekar | 11 Aug 2017 

バガヴァッド・ギーター (岩波文庫)

バガヴァッド・ギーター (岩波文庫)

 

 

最近聴いたエレクトロニック・ミュージック

■New Energy / Four Tet

New Energy

エレクトロニカ・ファンなら人気実力共に誰もが認めるFour Tetだが、オレも嫌いではないにもかかわらずどうも「Four Tetの音」というものをすぐイメージできないでいる。いやそりゃあ変幻自在だからといえばそれまでだが、というよりも所謂"エレクトロニカ"な音からこの人の音というのはスルッとすり抜けているからなのかなあ、という気がしないでもない。そのデビューがポスト・ロック・バンドであったり、ジャズや第3世界の音に接近したりフォークトロニカの第一人者と目されたり、こうして並べてみても確かにエレクトロニカの中心にいるわけではない人なのだが、中心にいないからこそ見えるエレクトロニカの音をこの人は作り続けているのかなあ、などとなんとなく思いつきで言ってみたりする。

Four Tetのニューアルバム『New Energy』ではアンビエントダウンテンポな曲とミディアムテンポの曲とが半々で、最初に聴いた時はやはりどうもトータルなアルバムイメージがすぐ湧かなかったのだが、聴き続けてみると、ああこれはそれぞれが違うスケッチやリリックのようなもので、DJMix聴いてるみたいに「トータルイメージがー」とか言って聴くべきじゃなかったんだな、と気づかされた。そして1曲1曲に注視しながら聴き、その差異と共通項を見出すことで、Four Tetの全体像がふわっと浮かんでくるのがこのアルバムなのかな、とも思った。こうしてそれぞれの曲の輪郭を把握してみると、いややはり単純に、よく出来たいいアルバムですねこれは。非常に内省的な作品集であり、一つ一つの音をきわめて注意深く扱うことによってとても繊細な構造の音として完成している。それは効果的に使用されたアコースティック音に顕著だろう。抑制されつつもやはりエモーショナルなのだ。そしてこの人の音は、なんだか優しいな、という気がする。  《試聴》

New Energy

New Energy

 

■World Of The Waking State / Steffi

World Of The Waking State

World Of The Waking State

 

以前紹介したSteffiの『Fabric94』が実に素晴らしかったため、Ostgut Tonからリリースされた彼女のこの新譜も大変楽しみにしていた。するとこのアルバムもまた『Fabric94』で感じたようにアゲすぎずサゲすぎない常に一定の中域を淡々とキープし続けながら展開してゆくテクノ・アルバムであり、それは酩酊でも興奮でもなく明快な覚醒のみを聴くものに与えるのだ。これがSteffiの生み出す音の特徴なのだろう。なおCDはミニサイズの美しいポスターが付録になっており、気に入ったのでフレームに入れて部屋に飾ってしまった。  《試聴》 

■Feel The Same / Radio Slave

Feel the Same

Feel the Same

 

UKテクノ/ハウスの重鎮プロデューサーRadio Slave(aka Matt Edwards)。これまでも数々の活躍を見せていたがなんとこのアルバムはRadio Slaveとしては初のものだという。様々なジャンルをまたぎ選りに選った音を紡いだこのアルバムはタイトながら重厚、聴くほどに味の出る良盤だ。さすがに長年のキャリアをうかがわせる優れた1作。お勧め。 《試聴》

■Electro-Soma I + II Anthology / B12

Electro-Soma I + II Anthology [輸入盤 / 2CD] (WARPCD9R)_482

Electro-Soma I + II Anthology [輸入盤 / 2CD] (WARPCD9R)_482

 

テクノ・デュオ、B12が1993年にリリースしたデビュー・アルバム『Electro-Soma』のリマスターと2017年リリースのレア・トラック集『Electro-Soma II』をカップリングしたお得版アルバム。インテリジェント・テクノの中心的存在とも言えるB12の音は、端正な美しさと未来的な輝きを湛えた非常に優れたセンスを持ち合わせ、特に『Electro-Soma』パートは今聴いても全く古さを感じさせない素晴らしい完成度で、もはや時代を超越したマスト盤ということができるかもしれない。 《試聴》

■Running Back Mastermix / Tony Humphries/VARIOUS

RUNNING BACK MASTERMIX

RUNNING BACK MASTERMIX

 

ドイツのハウス・レーベルRunning Backがレーベル創立15周年を記念し、NYのハウス・プロデューサーTony Humphriesを迎えてリリースしたMixアルバム。ドイツ産ハウスとはいえDJの手腕のせいか非常にファンキーかつソウルフルな匂いがする。良盤。 《試聴》

■Fabriclive 94: Midland / Midland

Fabriclive 94: Midland

Fabriclive 94: Midland

 

Fabricliveの94番はロンドン出身のDJ、Midland。眩惑的なループ音から始まるこのMixはクールにミステリアスに進行しつつミニマルなフロア・チューンへ、そしてアンビエントへと紡がれてゆく。あたかもひとつの物語のような起伏を感じさせる良質Mix。お勧め。 《試聴》

■Zenith / Sam Paganini

Zenith

Zenith

 

イタリアのベテラン・プロデューサーSam Paganiniの3rdアルバム。重低音響き渡るフロア仕様のミニマル・テクノ・トラック。 《試聴》

■Ariadna / Kedr Livanskiy

Ariadna

Ariadna

 

モスクワ出身の女性プロデューサー、Kedr Livanskiyの1stアルバム。ロシアの大地を思わすようなひんやりしたシンセとほんのり温かみのあるロシア語女性ヴォーカルが独特の雰囲気を生んでいる。  《試聴》

■Lone DJ Kicks / Lone

DJ-KICKS (IMPORT)

DJ-KICKS (IMPORT)

 

人気DJMixシリーズDJ-Kicksの最新作はUKのプロデューサーLone。ヒップホップ/ブレイクビーツを中心にハウスやアンビエントを展開し、次第にテクノ色を強めつつラストはレディオヘッドで締める!という個性的なMix。 《試聴》