地球を宇宙の彼方に飛ばしちゃう!?ネトフリで中国SF『流浪の地球』を観た!

■流浪の地球 (監督:フラント・グォ 2019年中国映画)

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この『流浪の地球』、今年公開されたばかりの中国製作によるSF映画なんですが、なんと製作費に50億円にのぼる巨費を掛け、公開されるやいなや大ヒットを記録、興行収入がひと月で760億円を突破した、という作品なんですね。こんな作品がナント、ついこの間日本でもNetflixで観られるようになったというから凄いじゃありませんか!

で、いったいどんなお話かというとですね。

地球にロケットを山ほど付けて、宇宙の彼方に飛ばしちゃおう!というお話です。

 ……あ、いや、今一瞬、脳がフリーズしませんでしたかそこのあなた?「えーっと、ちきゅうをとばしてどうするの?」とあなたは思った事でしょう。あまりにもあまりな話にびっくりしますよね。

ある遠くない未来、太陽が赤色巨星化し地球を焼き尽くすことが分かってしまいます。この地球滅亡の危機を回避するため、世界は一致協力して巨大かつ遠大な計画を遂行します。それは地球上のあらゆる場所にロケット推進器を設置し、それにより地球ごと太陽系を離脱し4.3光年彼方の恒星系アルファケンタウリまで2500年掛けて飛ぼう、という計画だったのです。

 ……あ、いや、粗筋を読んだ後も脳がフリーズしませんでしたかそこのあなた?「え?え?ちきゅうのききだからちきゅうからだっしゅつするんじゃなくて、ちきゅうごとだっしゅつしてしまう、ってことなの?」そうです!そうなんです!SFってのは基本、大風呂敷拡げたホラ話のことなんですが、ここまで大風呂敷広げられると、あまりのスケール感で思考が一瞬ストップしちゃいそうですよね。

地球が軌道から離れる訳ですから地表は氷河期以上の寒波に襲われます。また、自転が止まる訳ですから慣性の法則により地表では大嵐と大津波が巻き起こり全てのものがなぎ倒されるでしょう。それを見越し、一部の選ばれた人間だけが地下都市に移り住みアルファケンタウリ到達まで生き永らえることになるのです。即ち、計画発動の段階で数十億人が死ぬことが既に想定されているという凄まじい計画でもあるんです。

まあしかしそれにしてもですね……地球を軌道から離脱させさらに一定の方向に推進させるためには、いったいどんだけの推力と、その推力を得るための装置と燃料が必要になるんでしょうか?そもそもその推進エンジンはどんなものなのでしょうか?地球ないし近隣の惑星・衛星の中から燃料等の原料となる資源は必要量得られるのでしょうか?さらに4.3光年=約40兆キロを2500年掛けて飛ぶ、というのは、どれだけの速度を出さねばならないということなんでしょうか?時速何キロになるの!?教えて計算の得意な人!

とまあ科学的に考えようとすると疑問だらけの設定なんですが、とりあえずそこんところはクリアしたと無理矢理思い込みましょう。で、家族がどうとかこうとかあれこれ生臭いドラマを盛り込みつつお話は進んでゆくんですが、中盤である危機的状況が訪れてしまうんです。それは、木星重力に地球が引き摺りこまれ、ロシュ限界を超えて地球が粉微塵になってしまうかもしれない!ということなんです!(ロシュ限界=主星の潮汐力によって衛星などが破壊される限界地点/潮汐力による破壊=ある物体が別の物体から重力の作用を受ける時、その重力加速度は、重力源となる物体に近い側と遠い側とで大きく異なる。これによって、重力を受ける物体は体積を変えずに形を歪めようとする*

えっとですね……この「木星引力による地球の捕獲」という危機的状況がこの物語の大きなハイライトでありドラマとなるんですが、それにしてもですね……地球を他の恒星系まで飛ばしちゃうような科学力を持ってるくせになんで木星重力に捕獲されないような軌道計算もできなかったんだ?そもそも相当の推力であろうから木星重力程度に捕獲されえるのか?と思っちゃうんですけどね。まあしかし地球ってデカイから簡単に軌道計算って言っても難しいのかなあ……というかそもそも話に無理がありすぎるんだよ!

それともう一つ。太陽が赤色巨星化したとしたら今より170倍ぐらいの大きさになり、金星軌道辺りまで飲み込んじゃいます。でも地球を動かす科学力があるんなら、生存に適する温度が得られる軌道まで動かせばいいだけなんじゃないでしょうか?あと火星移住でもいんじゃね?まあ何をやるにしても地球上の生命が殆ど死に絶える事だけは確かですけどね(あと木星軌道近辺まで太陽から離れているのになぜ地球の地表があんなに明るいんだ?それと推進の段階で地球の大気は全て失われてしまうんじゃないかな)。

さらにもうひとつ、もっと決定的な話なんですが、数十億人が最初の段階で死ぬことが確定しており一部の選ばれた人間だけが生き残るというのであれば、別に地球動かさなくても地球動かせる科学力と資源で恒星間宇宙船作ってそれに生き残りの人間乗せて飛ばしたほうが早くね?

まあゴチャゴチャ書きましたが、オレは理系とかそういうのでは全く無く、SF小説で得た貧弱な科学知識だけしか持ち合わせていないので、相当間違ったことを言ってるとは思います。とはいえ、この映画のトンデモな科学設定よりはましじゃないかと思うんですけどねえ。誰か科学に強い人もっときちんとしたツッコミをしてください!(原作者の劉慈欣は中国国内外でも有名なSF作家で、オレも一篇だけハードSFな短編を読んだことがありますが、科学設定はしっかりしており、映画のほうが話を膨らませるために設定をおざなりにしてしまったのではないかと思われます)

とはいえですね。ここまで文句を言っといてなんなんですが、映画『流浪の地球』の醍醐味は、やはりとんでもない(あまりに馬鹿馬鹿しい)大風呂敷をヴィジュアルで見せてしまった、という事にあります。ある意味やったもん勝ちということでもあります。細かい事を言ってちゃあこんなとんでもない映画作れませんよ!特撮もCGIもハリウッド作品と比べて何の遜色もありません。SFファンならこのヴィジュアルに大いに燃える事でしょう。人間ドラマは湿っぽくてベタベタだし若者のキャラクターは軽くて辟易しましたが『ドラゴン×マッハ!』『ウルフ・オブ・ウォー』のウー・ジンが出演していたのでよしとしましょう!そういった部分で一見の価値のある映画だし、こんなトンデモさも含めて楽しむことができる作品なんじゃないでしょうか(とりあえず最後はフォロー)。