渡るファッション業界はバカばかり〜映画『ズーランダー No.2』

■ズーランダー No.2 (監督:ベン・スティラー 2016年アメリカ映画)


どうってことのない年収の、あんこ体型をした50過ぎのサラリーマンであるオレにとって、ファッションなるものは実に縁遠い存在である。ましてやモードともなると別の宇宙の出来事である。ああいうのを常日頃身につけられるのは、そういった世界の、そういった年収の方々なのだろう。ああ、実に関係ない。

しかし実にファッショナブルないで立ちの方々の中にたまさか放り込まれると、関係ないとか言ってたくせに微妙な劣等感が頭をもたげ、ついついやっかんでしまったり敵愾心を持ってしまったりするのである。なぜ劣等感を持ってしまうのか?それは、こんなオレでも、あんなふうにカッコよくなってみたい、という虚栄心があるからである。あんこ体型をした50過ぎのサラリーマンであるオレにも虚栄心があるということである。目の前に洒落のめした人間がいた時に感じるやっかみと敵愾心は、実は虚栄心に塗れた人間の、願望憎悪なのである。

2001年に公開された『ズーランダー』はベン・スティラー監督・主演によるファッション・モデル界を舞台にしたコメディだ。とはいえそれは"オシャレなコメディ"というわけでは決してなく"気取った連中をコケにしまくり黒い笑いの中に叩き落すコメディ"なのである。主人公デレク・ズーランダー(ベン・スティラー)は「3%の体脂肪率と1%の知能」しか持たない男性トップモデルだ。カッコはいいがバカなのである。他の登場人物たちも、ほとんど洋服だけのバカばかりである。彼らが着る洋服は、最新モードっぽくはあるがどこか滑稽なアレンジが成されており、これも一見カッコはいいがよく見るとバカみたいな洋服ばかりだ。そんな彼らの、「渡るファッション業界はバカばかり」というこの作品、舞台が特殊なこともあって相当に楽しかった。

『ズーランダー』は例の911事件直後に公開されたコメディと言うこともあり興行は振るわなかったらしいが、その後クチコミで人気が広がりいわばカルト的な評価を得るようになった。そして15年後の今年、満を持して公開された続編がこの『ズーランダー No.2』ということになる。監督・主演は前作同様ベン・スティラー、あとオーウェン・ウィルソンウィル・フェレルら続投組に加え、今作では新たなヒロインとしてペネロペ・クルスが参加している。しかしこの作品、日本公開を楽しみにしていたのだが残念ながらビデオスルー作品となってしまい、自分はBlu-rayを購入しての視聴となった。

物語はセレブばかりが狙われる連続殺人事件から始まる。彼らが"キメ顔"で死んでいることから、インターポール捜査官ヴァレンティーナ(ペネロペ・クルス)は"キメ顔"で一世を風靡したスーパーモデル、デレク(ベン・スティラー)の行方を追う。しかしデレクは前作でハッピーエンドで終わった直後にとんでもない災厄に遭い、モデルを廃業して隠遁生活を送っていたのだ。ヴァレンティーナに捜査協力を要請されたデレクはかつての盟友ハンセル(オーウェン・ウィルソン)と合流し、魑魅魍魎の渦巻くファッション業界に再び足を踏み入れる。そしてデレクとハンセルは、事件の背後に前作で刑務所に収監されたファッション界の悪の帝王、ムガトゥ(ウィル・フェレル)が暗躍していることを知るのである。

というわけでこの『ズーランダー No.2』、舞台をイタリアに移し、前作同様おバカな展開と、前作を遙かに越える巨大で大げさな陰謀が描かれることになる。そして今回もゲスト出演の面々が凄い。どんなメンツなのかは特に書かないが、冒頭で「え、こいつかよ!?」と驚かされ、その後「え、なんでこの人が出てるの?」と驚愕し、中盤で「うわ!まさかこの人が出てくるとは!?」と腰を抜かす羽目となった。特にアレとアレは個人的にもお気に入りの人だったので、もうこれだけでニンマリしながら満足して観られた。それ以外にもなにしろ次から次へと実名の人が出てくるので目が離せない。

さらに実際のファッション業界関係者が総力を挙げて実名出演している様を見ると、ファッション業界をコケにしている作品ではあるが、実は業界の中で結構愛されている作品なのだなあ、と感心した。観ている自分も、やっかみだ願望憎悪だとか言いつつ、スノッブでキャンプできらびやかなこの作品の舞台を実はとても楽しみながら観ている事に気が付かされるのだ。確かにデレク・ズーランダーを始めとする登場人物たちはおバカかもしれない。バカみたいな恰好かもしれない。でも、ファッショナブルなものって、見ていて楽しい。この作品には、ファッション業界を笑いものにしつつ、同時に、ファッショナブルなものへの愛を感じるのだ。

作品自体は前作よりもスケールを大きくした分、若干大味になったかもしれないが、実のところそんな部分はあまり気にならなかった。ギャグのスベリ方も前作同様だが、それもまたベン・スティラー映画らしくてかえって楽しい。それよりも、「おバカでファッション・ヴィクティムな主人公の探偵物語」といった部分に、奇っ怪な連中の跋扈する奇っ怪な物語であるという部分に、あの傑作コメディ・シリーズ『オースティン・パワーズ』の片鱗を感じてしまった。『ズーランダー』シリーズには『オースティン・パワーズ』の下品さこそないけれども、逆にそれによりスマートでスタイリッシュにまとまっており、しかし頭の悪さとキッチュなセンスは同等なのだ。

『オースティン・パワーズ』シリーズの大ファンであるオレにとって、『ズーランダー』シリーズはその義兄弟的な作品であり、『オースティン・パワーズ』同様に深い愛着を覚えるのである。人によって好き嫌いはあるとは思うが、オレはこの『ズーランダー No.2』を諸手を挙げて支持したい。なんなら今年のベストテンに入れてもいいぐらいだな。


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