もう熊なんか怖くない!?〜映画 『プロジェクト・グリズリー』

■プロジェクト・グリズリー<未> (監督:ピーター・リンチ 1996年カナダ映画)


プロジェクト・グリズリー!カナダの山奥でグリズリーに遭遇した男がいた!プロジェクト・グリズリー!しかし彼は無傷で助かる!プロジェクト・グリズリー!それから彼は取り付かれたように【対熊スーツ】を作り始めた!プロジェクト・グリズリー!この映画は、究極の【対熊スーツ】作りを目指した一人の変わり者の姿を追った真実のドキュメンタリー・ドラマである!プロジェクト・グリズリー!

…というわけでドキュメンタリー映画『プロジェクト・グリズリー』なんですけどね、この【対熊スーツ】の男の話、随分前にYouTubeで観てゲラゲラ笑っていたことは覚えているんですが、まさか映画になっていたとはねえ…。【対熊スーツ】もかなりナニだけど、映画作るほうも作るほうだよなあ…。しかもあのタランティーノが絶賛したというんですからなおさら意味が解りません。

【対熊スーツ】作りの男の名はトロイ、彼は7年の歳月と150万ドルの資金を使い、改良に改良を重ねながら【対熊スーツ】を作っていくんですが、途中でテストと称して実際にスーツ着てバットで殴られてみたり吊るした丸太にぶち当たってみたり崖から落ちてみたり走行するトラックにはねられてみたりあまつさえ火の中に飛び込んでみたりするんですね。ってか熊は火ィ吐かねえと思うけど。これらのことを大真面目にやってるんですよ。で、「うん、大丈夫だ」とか「ここはもっと改良だ」とかやってるんですね。テストが終わったら村の仲間たちと酒場に【対熊スーツ】持ち込んでそれ眺めながらギャハハウハハと酒盛りしてるんですね。で、「このスーツは凄いぜ」とかなんとか言ってるんですよ。まあ実の所、娯楽のあんまり無い田舎のおっさんの暇つぶしなんですよ。そういやなんだかそん中でトロイさんだけカメラ意識してちょっぴりオシャレしてるんですよね。なんかそんなところもウザいんですよね。

で、またこのトロイさん、映画の中で語る語る。もう「自分語り」しまくりなんですよ。もうトロイさんの頭の中には熊と自分との気宇壮大な怒涛の大河ドラマが出来上がっているんですよ。根本敬的に言えば「頭の中にオーケストラがいて常に自分の人生のBGMを流しまくっている」状態なんですね。もうナル入りまくりなんですよ。それとか「銃は無粋さ…本当に自分の身を守るならナイフに限るね」とか言って華麗なナイフさばき見せるんですが山に入るときには銃持った仲間に守られてたりするんですよね。あと精神統一とか言って変な体操するんですが「それ今思いついただろ?」としか思えないなんかインチキな動きだったりするのが悲しみをなお一層倍化させます。

そもそもなんで【対熊スーツ】作ってるのか訳が分からないんですよね。【対熊スーツ】着て熊と一戦交えるのか?人間、熊、本当の強者はどちらなのか白黒はっきりつけたいのか?というとどうもそうでもなくて、「グリズリーが自分と遭遇した時になぜ自分を襲わずに引き下がったのか知りたい」とか訳の分からない事を言ってるんですよ。例え【対熊スーツ】着てグリズリーと対峙したからって、もちろん相手は喋れるわけではないですから判る訳がないんですよね。グリズリーに「俺はお前なんか怖くないんだぞ!」と見せ付けたいのかもしれませんが、そんなの熊にとってはどうでもいいことですよね?

まあ実際の所「自分は熊を目の前にしても引き下がらない男の中の男なんだ!」とか納得したいだけなんでしょうね。だったら武術でも習って"熊殺し"の異名をとるまで体を鍛え上げればいいのにそういうのはきっと面倒なんで【対熊スーツ】を開発することにしたんでしょうが、あんなもん着て熊の目の前にいるのも自分が檻に入って熊眺めるのも、「熊と対話する」っていうなら実は一緒じゃん?って思えて仕方ないんですけどね。

さていよいよグリズリーとご対面だ!とばかりに【対熊スーツ】をヘリコプターで山に運び、自らも山に入ってゆくトロイさんとオッサン連中ですが、なんとこの【対熊スーツ】、なにしろ重すぎて、着ても殆ど動けない!しかも斜面が登れない!だから山に持っていっても着て動くことが出来ない!ということが発覚するんですね!しかも山は冬のシーズンで雪降りまくり!とりあえず【対熊スーツ】は置いといて熊さん探しに行く一行ですが、やっと熊さんを発見するものの、今度は【対熊スーツ】が遠くにありすぎて持ってこれない!もうなにもかも後手後手の無計画さ!

そんなこんなで映画は悲しいというかむしろ下らなさ過ぎる終りを迎えるんですが、実はこの映画の後トロイさん、カルトな人気を得てしまって98年にイグ・ノーベル賞を受賞してハーバード大学で記念講演、03年にはアニメ『シンプソンズ』にトロイさんをパロったエピソード登場、といった具合に妙な認知を得、さらに調子に乗ったトロイさん、今度は【対熊スーツ】を遙かに超えた【対テロスーツ】を作っているというじゃありませんか!いやあ、苔の一念というべきか、バカは死ななきゃ治らないというべきか、でもやるんだよ!というべきか…。でもね、ここまでクサしといてなんですが、意外と憎めないのは、同じしょーもないアホアホなオッサンだからなんでしょうか…。

プロジェクト・グリズリー [DVD]

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○Troy Hurtubise: Project Grizzly

○Troy Hurtubise II: Project Grizzly goes to war