孤独な少女と中年男との20年にわたる文通〜クレイアニメ『メアリー&マックス』

■メアリー&マックス (監督:アダム・エリオット 2008年オーストラリア映画)


この『メアリー&マックス』は、メルボルンに住む8歳の少女メアリーと、ニューヨークに住む44歳の男マックスとの、20年にわたる文通を通し、友情や信頼について描いたオーストラリアのクレイ・アニメーション映画です。製作まで5年の歳月を費やし、各国のアニメーション賞も受賞している評価の高い作品のようですね。ただ、楽しく可愛らしいアニメーションを期待すると結構重い内容のドラマにびっくりさせられます。
8歳の少女メアリーは空想好きですが、両親の愛情は薄いし、額の痣にコンプレックスを持つ引っ込み思案な子でもあるんです。彼女はある日、孤独を紛らわせようと、電話帳から行き当たりばったりに見つけたN.Y.在住の「マックス・ホロウィッツ」に手紙を書くことにしたんですね。このマックス氏は44歳になる太った変わり者で、後にアスペルガー症候群であることを告白しますが、メアリーと同じく孤独な生活を営む彼は、このメアリーと文通を始めるることにするんですね。そして二人は長きに渡る文通で友情を育みますが、成長したメアリーがマックス氏のアスペをテーマに本を出版してしまったことから、二人の関係は最悪なものになり、その悲しみからメアリーは…という物語なんですね。
孤独や人の心の傷をテーマにしたこの物語では、主人公の一人であるマックス氏のアスペルガー症候群が描かれますが、実は監督自身が病理震顫という疾患を持っており、また、監督による2003年の短編クレイアニメ『ハーヴィー・クランペット』ではトゥレット障害という疾患を取り上げているらしく、そういった神経精神疾患に関心をもって映画テーマを選んでいる監督といえるのかもしれません。この『メアリー&マックス』では「実話を元に描かれている」と冒頭に出てくるのですが、監督が長年文通しているN.Y.在住のペンパルがマックスと同じくアスペルガー症候群であり、そこから着想を得たようなんですね。
映画ではメアリーとマックスの文通内容とそれぞれの実生活が描かれてゆきますが、この文通内容というのが個性的というかとても風変わりなもので、それを映像化したビジュアルの奇抜さがこの映画の特徴でしょうか。ただどうもキャラクター造形がデフォルメ過多でどうにもグロテスクで、あちらの国のアニメにはよくあることではありますが、個人的な趣味としてはピリッとしたところの無い造形があんまり好きになれなかったんですよね。そして物語展開も露悪的で過剰な演出が多くて、やはりこれにもグロテスクなものを感じたんですよ。文通内容が全てナレーションで語られるというのも何か説明的で退屈に思えました。マックスのパートのモノトーンの色彩もどこか重苦しくて、監督の持つそういった暗さや重さが気になっちゃったんですね。
ただこの暗さと重さ、そして世界のグロテスクさというのは、ある意味監督自身の剥き出しの心象ということもできるんですよね。そういった剥き出しの心象が最終的には「他人を愛するにはまず自分自身を愛せ」とか「人間は誰もが不完全な生き物」などといったストレートな言葉で語られ、自らの歪さを乗り越えたある種の自己肯定へと結びついてゆくのは物語展開としては悪くないんですけどね。次回はこういった認識を足がかりにしたもっと明るくて軽やかな物語を作ってもらいたいような気がします。

Mary & Max

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