ミスト (監督:フランク・ダラポン 2007年アメリカ映画)

globalhead2008-05-13
舞台はアメリカのとある片田舎。嵐が猛威を振るった翌日、主人公がスーパーマーケットで買い物をしていると、異様な濃さの霧が街に立ち込めはじめる。突然その霧の中から血を流した男が店に駆け込み、「霧の中に何かがいるっ!」と叫んだ。騒然となる店内。そして店の外で、得体の知れない不気味な生き物の蠢く気配がし始める。それは、軍の科学実験の失敗により異次元より押し寄せた、異形の生き物たちだった…。スーパーマーケットに閉じ込められたまま、一人また一人と化け物の餌食となってゆく人々。さらに神の代理と称する女の妄言により、彼らは次第に正気を失っていく。主人公はここから脱出できるのか。この世界はどうなってしまうのか。

えーっと、もう楽しくってしょうがなくなるぐらい救いようの無い物語でした!あまりにも救いようが無いので、映画の最中何度かクスクス笑ってしまいましたよ!クスクス!いやあ、絶望っていうのは、どこまでも突き詰めてしまうと、ある種の爽快感さえ憶えますね!人間ってあんまり深い絶望に至ると、精神を平静に保つため逆に気持ちよくなる脳内酵素が出てくるって話を聞いたことがありますが、そういった意味では実に気持ちいい映画だと言えるのではないかと!絶望の甘き香りってヤツですね!下手な救いなんぞ無い方がいいんですよ!救いが無ければ無いほど気持ちいいわけですからね!

さて映画の“絶望へと至る道”はこんな段階を経て進んでいきます。
・常識では考えられない異常な事態が起こる。
・大量の人間がひとつところに幽閉される。
・外からの情報は全く入ってこない。
・助けが来る見込みは全く無い。
・懐疑的な連中がまず餌食になる。
・次に知性とか理性とか言ってる連中が餌食になる。
・残された有象無象の連中は危機に対して何の役にも立たない。
・そして基地外が神となる。
・当然この時点で民主主義は崩壊している。
・というわけでみんなお手々繋いで破滅へと真っ逆さまに落ちてゆく。
とまあこんな按配です。

で、ふと書いていて気付きましたが、これってナチスドイツによるユダヤ人大量虐殺や、ポル・ポトカンボジアで行った大粛清を何故か思い出させますね!というか大量虐殺って同じ轍を踏むって言うことなのかな!?逃げ場などどこにも存在せず、ただ豚のように屠殺される運命でしかないのだ、と徹底的に思い知らされることの絶望。そしてそれを統べる者が理性も知性も倫理も民主主義も通用しない基地外であるという恐怖。いやーやっぱ化け物に食い殺されるのも怖いが、この映画のキリスト教原理主義者の電波ババアみたいのに「生贄が必要なのだああああ」とかやられ、しかも周りがそれをすっかり信じ込んでいる、という図式もかな〜り怖いわ!

でまあ、あれこれ取り沙汰されている《戦慄のラスト》ですが、普通のホラーであればやるべきことをきちんとこなしたラストなんではないですか!?ってかホラーなんてこんなもんなんだよ!いったいみんなホラー映画に何を期待しているんだ!このやりすぎの悪趣味極まりない幕引きこそがホラーの正しいラストなんだよ!あれを観て慄然とするよりは「ギャハハ!」と笑って拍手喝采するのが正解でしょう!賛否両論とかなんとかお行儀のいい客観主義を持ち出してこの映画を評する輩はハリーポッターでも観ていればいいんだ、とオヂサンは思いました。

ただ一つだけ細かいことを言えば、これは好みの問題なのかもしれませんが、ダラポンの画面作りってホラーらしくないんだよなあ。だからホラーのビジュアルとしては楽しめないのね。はったりが薄いのよ。だからモンスターがイマイチ魅力に欠ける。「ぐわあああ気持ちワリイイ、グヘヘ!」というセンスが無い。そこだけがちょっと不満だったか。スティーヴン・キングの原作『霧』はホラー・アンソロジー『闇の博覧会』で以前読んだことがありましたが、いやこれがもう数あるキング作品の中でもかな〜り怖い作品で、トラウマの如く記憶に残る傑作でした。長さ的にもキングとしては短めのものだし、興味を持たれた方は是非読んでみてください。

■The Mist Trailer