グローバリゼーションに翻弄されてゆくインド人一家の物語~映画『マントラ』

マントラ [原題:Mantra] (監督:ニコラス・カルコンゴール 2017年インド映画)

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インド映画『マントラ』観ました。

マントラ」かー、なんか意味深なタイトルだよなー、地球の中身がどうしたってんだろなー、あーそりゃ「マントル」かー、「マントラ」ってあれだ、「真言」のことだよなー、なんか宗教的な何かなの?……などとグダグダ言いながら観始めましたが、まあ要するに冷え切った家庭の危機を描く人間ドラマだったんですけどね。

まず物語に出て来る家族のお父さんってのが「いつもいい顔ばかり見せる見栄っ張り」「同時に人に真意を見せない人間不信」「なにやっても面白くない不感症」といった性格で、さらに経営しているポテトチップ会社が破産の危機に瀕しているんですね。いやあ、ことごとく危機的な人ですね!こんなですから奥さんはもうこんな旦那イヤと思ってるし娘は「こんな家で家族ごっこしたくない」と思ってるし息子1は「オヤジうぜえ」と思ってるし息子2は「誰とも関わりたくないオレ、ネットでチャット中毒」なわけなんですね。

こんな中『マントラ』ってなんだ?というと実は息子と娘のやってるレストランの店名だった、という訳で、最初なーんじゃと思ったんですが、まあ物語を追って深読みすればいろいろありそうです。

で、観終ってみるとなんだかインド映画臭くないというか、インド映画観た気がしない、という印象なんですよ。現代インドの都市部に住むアッパーミドルな資産家一家の生活とその交友関係ってェのが全部インドぽくない。で、中心になる一家の心の離れた冷え冷えとした関係、というのもやはりインド映画ぽくない。確かに都市化ってそういうもんなんでしょうね。そして、都市化・欧米化したことによりインド人であることの精神的支柱、アイデンティティみたいなものが薄れてきたことへの危機感がこの物語のような気がします。

つまり、映画のインドぽく無さというのは、それは「インドぽくなくなってしまったインド」を描いているからなんです。そして登場人物たちも、そんなインドぽく無い自分たちに戸惑っているんです。特に「家族団欒」に異様に拘るお父さんはその最たるものでしょう。かつてのインドのように「強くて頼れるお父さん」がいて、「そのお父さんの元幸せに暮らす家庭」をお父さんは夢想しているのでしょうが、もう、家族の誰もそんなものに幻想を持っていないんです。そして同時に、家族の他のメンバーも大なり小なり「インド的でないインドの暮らし」による躓きを体験している。

インドは1991年に経済を開放しグローバリゼーションを受け入れ、世界的な経済大国の一員となることが出来ました。しかしそれにより失われたのは「古き善きインド」です。経済が豊かになり生活が潤い自由な生き方ができるようになり、もちろんそれはとても素晴らしい事なのにもかかわらず、それでもどこかで「喪失感」が付いて回る。その「喪失」したものが「古き善きインド」ということなのでしょう。とはいえ「古き善きインド」は日本の「昭和ノスタルジー」と変わらない、単なる幻想です。今後どの国とも同じようにインドの共同体は破壊されてゆくのでしょう。その中で復古主義が暴力的に振る舞うこともあるでしょう。けれども、それでも「未来はどうあるべきか」考えなければならない。過去になんか戻れないんです。

映画『マントラ』はそんな過渡期にあるインド人一家の苦悩を描くものです。とはいえ、多分にドメスティックな内容であるがゆえに日本人観客が観てもカタルシスに乏しく感じられると思います。オレもなんだか深刻ぶり過ぎてて退屈に思えてしまいました。苦悩が存在する、ということが描かれていても、それをどう昇華することが出来るのか、が描かれないからです。ラストは家族たちが一応の落ち着きを見せますが、それで何が解決したのだろう、という疑問は残るんです。タイトル『マントラ』は失われたインドの伝統を揶揄するのかもしれませんが、それでもやはり勿体ぶり過ぎな気がします。ここはあえて『キングチップス』(主人公の会社が作る製品名)あたりで十分だったんじゃないかなあ。こういった軽やかさがこの作品には足りないような気がしました。

 

現役スーパースター・クリケット選手の栄光を描く伝記ドラマ『M.S.ドーニー ~語られざる物語~』

■M.S.ドーニー ~語られざる物語~ [原題:M.S. Dhoni: The Untold Story] (監督:ニーラジ・パーンデー 2016年インド映画)

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クリケットっていうスポーツは日本ではあまり馴染が薄いんだけれど、これがインドでは国民的スポーツ だっていうんですね。確かにクリケットを題材にしたインド映画というと『ラガーン』(2001)とか『Dil Bole Hadippa!』(2009)とか、他にも沢山名作良作があって、それだけでもインドのクリケット熱が伝わってくるんですよ。

とはいえオレ、クリケットって全然ルール分かんないんですよ。↑で挙げた映画観ててもやっぱり理解していない。そもそもオレってスポーツ苦手なので野球すらルール知らないんですけどね。

で、この映画『M.S.ドーニー』、そのインドのスーパースター・クリケット選手M.S.ドーニーさんの伝記映画だっていうじゃないですか。いや、悪いんだけど知らないっすよM.S.ドーニーなんて。しかもまだ現役なんだそうで、現役で伝記映画ってェのもなんかスゴイですけどね。

とはいえ、ルール知らなくてもインドのクリケット映画ってどれも面白いんですよね。これって子供の頃、野球のルール全然知らなかったけど『巨人の星』のアニメがとっても面白かったのと一緒なんじゃないか、とオレは思ったんですよ。つまり、別に球技見てるんじゃなくて映画のドラマ観てるわけですから、そのドラマがよくできていればちゃんと見せられるものになるんですよ。

というわけで恐る恐る映画『M.S.ドーニー』観ましたけどね。いやあ、最初の心配もなんのその、実に面白かった!

まずやっぱり、ドラマの核となる人間関係をしっかり見せている、ということですね。そしてひとつひとつのエピソードが、きちんと共感を生むものになっている。例えば冒頭の、クリケットグラウンドに深夜散水しに行くお父さんの様子を、こっそり起き出して見つめている子供時代の主人公の姿とか、ここでまずグッとくるんですよ。そして主人公を応援する家族や友人たちの姿なんかにも、やっぱり熱い共感を感じるんですよね。

さらに、シナリオがなかなか上手い。要するに伝記の脚色の仕方ってことなんですが、例えば映画で描かれる主人公の二つのロマンスを、それぞれのヒロインのある言葉を重ね合わせることで劇的に盛り上げている。こんなの実際にはどうだったか分かりゃしませんけど、映画における脚色ということにおいては素晴らしい効果を上げている。こういった、「現実にあったことをドラマに仕立て上げる」際のちょっとしたテクニックが実に巧みで、ああ、こりゃ練り込んでるな、と感じましたね。

それとこれは映画の内容と関係ないんですが、音響が、素晴らしくいい。こんなにサラウンド効果出してるインド映画初めて観たし、音楽もいい。これは是非劇場で体験してください。

もうひとつ思ったのは、この映画、実は3時間以上あるんですが、最初「うわ、長いな」とか思っていた所、観てみるとこの長さがちょうど具合がよかったということなんですよ。まあインド映画ってェのはもともと長いんですが、これが最近は短くなってきている。その中であんまり興味の無いクリケット映画3時間超観るのはどうなの?と思ってた。

しかし、全部を観終ってみるとやはりこの長さで過不足無い、という印象なんですね。この3時間超で丹念に物語をまとめ上げる映画の作り方がインドの奴らにはやっぱりしっくりくるみたいで、だからこそ見せる映画になってたんじゃないか、とも思えるんですよ。最近の短い上映時間のインド映画の物足りなさって、なんだかTVサイズのドラマしか描いていない、ってことだったんですが、その点において『M.S.ドーニー』はどっしりと腰を落ち着けて観られる良作でしたね。


M.S.Dhoni - The Untold Story | Official Trailer | Sushant Singh Rajput | Neeraj Pandey

■《参考》クリケットを題材にしたインド映画あれこれ

全ての夢のために~映画『ドリーム』

■ドリーム (監督:セオドア・メルフィ 2016年アメリカ映画)

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《目次》

NASAの宇宙開発を支えた黒人女性たちの実話物語

NASAの宇宙開発を支えた黒人女性たちの実話物語」、映画『ドリーム』を観た。評判に違わぬ素晴らしい作品で、みんなも観るといいと思う。

この作品は基本的には「黒人で、さらに女性であることから、差別的に扱われていた主人公たちが、社会に認められ、自らの能力を十分に発揮できるようになること」が描かれ、そういった部分で注目を集めているのだろうが、他にもいろいろな軸がある。

  • 3人の女性の友情物語。
  • その女性たちそれぞれの知性、努力、チャレンジ精神。
  • NASAの宇宙開発の物語であること。
  • その背景にある冷戦構造。
  • これら全てをひっくるめた60年代アメリカの文化と風俗。

これらが絡み合うことによって、映画は人権の在り方のみを描いたものではない、人間味に溢れた豊かな表情を見せる物語として楽しむことが出来たのだ。

物語の中心となる3人の女性は、管理職を望むドロシー(オクタヴィア・スペンサー)、エンジニアになることを夢見るメアリー(ジャネール・モネイ)、そして天才的数学者キャサリン(タラジ・P・ヘンソン)。まず、ドロシーとメアリーを見てみよう。

ドロシーの場合

ドロシーは管理職に就くことを望みながら、今のままでは使い捨てにされることを危惧していた。そんなある日研究室に新たに導入されたIBMコンピューターを見てあることを思いつく。彼女は「プログラミング」という当時それほど一般的ではなかった領域に活路を見出そうとする。彼女はイノベーターだった。

このIBM、実は「1930年代から女性も技術職として活躍し、1940年代には女性が副社長に就任」「1963年の雇用機会均等法が施行される30年も前から平等な賃金、平等な仕事を提唱」「2017年現在、女性がIBMのCEO(最高経営責任者)」という企業なのだという。IT企業という、当時は「新しい」企業ならではの柔軟さだったのだろうか。

メアリーの場合

一方、メアリーはエンジニアを志しながら黒人女性であるばかりに資格を得られないでいた。そこで彼女は思い切った行動に出る。彼女はチャレンジャーだった。

ちなみにアメリカにおける雇用機会均等の歴史は以下のようなものであるという。1964年において「人種、肌の色、宗教、性別、または出身国に基づいた雇用差別を禁止」とある。

均等賃金法(1963年) - 同じ仕事をする男女を性別による賃金差別から守る法律。 2) 市民権法(1964年)- 人種、肌の色、宗教、性別、または出身国に基づいた雇用差別を禁止。 3) 雇用における年齢差別禁止法(1967年)- 40歳以上の個人を年齢に基づいた雇用差別から保護。 4) リハビリテーション法 (1973年)- 連邦政府で働く、資格を満たしている障害を持つ労働者に対する差別を禁止。 5) アメリカ障害者法(ADA) (1990年)- 一般企業、州及び地方政府における資格のある障害者に対する雇用差別を禁止。 6) 市民権法 (1991年)- 意図的な雇用差別に対して損害賠償金を支給。

アメリカにおける主な雇用機会均等に関する法律

この背景となっているのは1964年に制定されたアメリカ「公民憲法」である。

公民権法(1964年制定)の201章】「すべての人は、・・・・公共の場で供される商品・サービス・施設・特権・利益・設備を、人種・皮膚の色・宗教あるいは出身国を理由とする差別や分離をなされることなく、完全かつ平等に享受する権利を持たなければならない」この法律により、食堂やバスにおいて「白人用」「黒人用」と座席を分けたりすることは違法となった。

公民権法 - Jinkawiki

とはいえ、気高い理念と理想のもとに公民憲法が生まれたからといって、黒人たちにすぐさま明るい未来が待っていたわけでは無い。彼らにとっての"茨の道"はまだまだ続いていた。

しかし、アメリカ国内における白人による有色人種への人種差別感情はその後も収まらず、公民権法制定後の1965年3月7日には、アラバマ州セルマで「血の日曜日事件」と呼ばれる白人警官による黒人を中心とした公民権運動家への流血事件が発生した上、人種差別感情が強い南部を中心に、クー・クラックス・クランなどの白人至上主義団体による黒人に対するリンチや暴行、黒人の営む商店や店舗、住居への放火なども継続的に起きていた。

アフリカ系アメリカ人公民権運動 - Wikipedia

さて、この映画で描かれるマーキュリー計画は、1959年から1963年にかけて実施された、アメリカ合衆国初の有人宇宙飛行計画である。つまりこの宇宙計画の裏舞台で働くドロシーとメアリーは(もちろんキャサリンも)、1964年の公民憲法制定以前に、自らの「夢」を勝ち取るために戦った女性たちだったのだ。

 キャサリンの場合

一方、キャサリンは天才的ともいえる数学者だった。映画『ドリーム』は彼女を巡る物語が要となっている。

ところで、映画の中では女性ばかりが在籍する「計算室」が登場する。なぜ女性ばかりなのか?これにはこういった背景がある。

1930年代半ば以降、数学者といえば、女性を意味するようになっていた。1935年、ラングレー初の女性計算手グループが誕生すると、研究所の男性陣からは、怒りや不満の声があがった。数学のようにきわめて緻密で正確な処理が求められるものを、女などに任せられるのか。1台500ドルもする計算機を小娘に使わせるなんて!ところが、この「小娘」たちは優秀だった。きわめて優秀だった。実際、多くの技師より、よほど計算が得意だったのだ。

(『ドリーム NASAを支えた名もなき計算手たち (ハーパーBOOKS)』(マーゴット・リー・シェタリー, 山北めぐみ 著)より)

 そう、なによりもまず、女性たちは、優秀だったのだ!そして、その優秀さを、はっきりと認められていたのだ。

さて、最初に書いた「作品の持つ様々な軸」には、もうひとつ、これを付け加えなければならない。それは、

  • 研究室本部長のマネジメント能力

だ。実はこれがなければこの物語は成り立っていなかったのではないだろうか。

 宇宙特別本部・本部長ハリソン(ケビン・コスナー)はソ連との宇宙開発競争の中で、なんとしてでもアメリカの有人ロケットを飛ばさねばならなかった。そんな中、研究室に配属された天才的数学者キャサリンの仕事の遅れが、慣例的な人種隔離によるものであることを知る。

「ンなことやってっから彼女の仕事が遅れるんだ!」とばかりにハリソンは研究所内での人種隔離を是正する。しかしここにあるのは、「人種差別をなくせ」とか「女性にも平等の権利を」というお題目ではなく、「才能がある人間の仕事を邪魔したらプロジェクトが立ち行かない」という実に当たり前の効率性優先の行動ではないのか。

差別は効率が悪い。物事を滞らせる。時間と金が無駄になる。隔離していたらインフラが倍必要だ。理念や理想がどうこう以前に「差別って無駄だらけだしそれをほっとくのはバカしかいないからやめてしまおう」というのは実に合理的で判りやすい。そしてこれをサクッとやってしまった本部長ハリソンがいたからこそ、キャサリンの天才はNASAにおいて十二分に発揮されたのではないか。

キャサリンは、ドロシーやメアリーのような能動的なキャラクターとして登場しない。だが、キャサリンには、ハリソンという、その才能の最大の理解者があった。ドロシーとメアリーは、自らの「夢」の為に戦った女性たちだ。しかし、その「夢」を、掬い上げることのできる存在が無ければ、それは不可能だったかもしれない。そしてキャサリンの「夢」を掬い上げたのが、本部長ハリソンだったのだ。

「夢」 を持つこと。その為に努力し、時には戦うこと。その「夢」を理解し、手を差し伸べる者がいること。そしてそんな、誰かの『夢』のために手を差し伸べる者になること。映画『ドリーム』は、『夢=ドリーム』を叶えるための、あらゆる行動が描かれている。だからこそこの映画は素晴らしい。なぜなら、未来は、『夢』のあるほうがいいからに決まっているじゃないか。 

ドリーム NASAを支えた名もなき計算手たち (ハーパーBOOKS)

ドリーム NASAを支えた名もなき計算手たち (ハーパーBOOKS)

 
Hidden Figures

Hidden Figures

 

ダイエットして見返してやる!~映画『幸せをつかむダイエット』

■幸せをつかむダイエット (原題:Vazandaar)(監督:サチン・クンダルカル 2016年インド映画)

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とある大失敗をきっかけに、二人のインド人女子がダイエットに挑戦する!というお話です。

マハーラーシュトラ州パンチガニに住むカヴィ(サイー・タームハンカル)とプージャ(プリヤー・バーパト)は大の親友。ある日プージャは、伝統を重んずる家に嫁ぎ窮屈な毎日を過ごすカヴィの為に、一緒にダンスパーティーに繰り出します。テーブルに乗って踊り呆ける二人ですが、そのテーブルが壊れて転げ落ち、さらにその光景が動画に撮られて拡散し、近所の物笑いの種となってしまいます。「これは私たちがテーブルが壊れるほどおデブだからだわ!ダイエットして見返してやる!」かくして二人の過酷なダイエットの日々が始まりますが!?

ダイエットと言えば女性にとっては永遠の課題、もちろん男性だって決して無視していいことではありません。かくいうオレも大昔ちょっとしたダイエットに挑戦したことがありました。あれは中学3年ぐらいの時、大食漢&運動嫌いのオレは結構なぽっちゃり体型だったんですが、そこはやはり思春期、女子の目が気になってダイエットを決意、あの時は炭水化物と油と糖分を控えて、1,2年掛けて10キロほどの減量に成功しました。しかしその後も10数年食事制限を続け過ぎていつも頭をクラクラさせながら過ごしていたので、健康や精神状態にはきっと悪かったんだろうなあ。結局30歳過ぎてから食事制限止めたら以前の体重に戻っちゃいました。ただ、その後はほとんど同じ体重を維持しているので、この体重がオレには順当なんだろうと思うことにしています。

さて映画のほうは女子二人のダイエット大作戦となりますが、この主役の二人、たしかにぽっちゃり体型ではありますが、肥満体系というほどではないんですね。ダイエット成功後の姿も登場しますが、見違えるほど大変身!ってほどでもなくて、だから体重に大いに悩む女子二人、という物語に若干説得力が希薄なんです。あの手この手のダイエット作戦も想像の範疇を超えるものは無く、この部分のコメディ要素も大人しめです。これがハリウッド映画だったらとんでもないエグイ方向へと持って行くんだろうがなあ、とダイエットそれ自体の展開にはそれほど面白味はありません。また、物語はフラッシュバックの形式で描かれますが、これもそれほど成功しているとは思えません。

しかしこの物語の本質にあるのは、女性がどうやって自分に自信を持つことが出来るようになるのか、という部分にあるのだと思います。カヴィは厳格で格式高い実業一家に嫁いだばかりに、独身だった頃の自由は奪われ、ただ子供を産むことだけを期待される存在になっています。またプージャはアメリカで学位を取ることを目指す女性ですが、それほど裕福ではない母子家庭に育ち、そういったことを心の奥底で気にしていて、引っ込み思案で自分の容姿に自信が持てません。この二人の対比の面白い部分は、カヴィが自分の周囲の社会からの開放を夢見、プージャが自分自身からの開放を夢見ている部分にあります。そしてダイエットは、そのきっかけに過ぎないんです。さらに映画は、こういった女性二人の友情にクローズアップしている部分が見所なんですね。女同士の友情を描いたインド映画って意外と少ないと思いません?

併せてこの映画を魅力的にしているのは、舞台となるマハーラーシュトラ州パンチガニの、はっとするほど美しいロケーションにあるんですよ。オレは全然知らなかったんですが、パンチガニはムンバイから南東に240キロほどの距離にある内陸部の土地で、映画では花々の咲く瑞々しくて風光明媚な風景が映されてゆきます。インド映画ではゴアの自然が美しいなと思ったことがありますが、このパンチガニも負けてはいません。そしてその中に建つ住居とその内装の、素朴ながら暖かな生活感を感じさせる雰囲気がまたいいんですね。伝統性を重んじる裕福なカヴィの家は古いものを実に大切に使っていて、まるでコルカタの旧家のように見えるし、プージャの家も貧しいなんてまるで思えない山奥のコテージのような作りで、これも目を楽しませます。

そんなわけでこの『幸せをつかむダイエット』、ダイエットという今風なテーマながら、その中に女性の自己実現、女性同士の友情、そして静かで落ち着いたインドの暮らしぶりをうかがわせるロケーションと、実に様々な部分で注目すべき部分のある作品でしたよ。そういえばこの作品、珍しいマラーティー語の作品で、日本語字幕だけではなく英語字幕までついています。普段目にするボリウッド映画とマラーティー語映画の違いを気にしながら観るのもありかと思います。そういった部分でも面白味のある作品でしたね。


Vazandar | Official Trailer | Sai Tamhankar, Priya Bapat | Latest Marathi Movie 2016

明日開催!インド映画祭IFFJ2017上映作品はこんな監督が撮っている!

日本最大のインド映画まつり【インディアン・シネマ・ウィーク・ジャパン/IFFJ2017】が東京ではいよいよ明日から開催となります。オープニング・イベントは19:20から。先着10名様にはナンが配られます(ウソ)。またサリーとターバン着用の方は30円割引です(大ウソ)

オープニング・イベントといえば、一つ忘れていました。そう、【インド映画祭IFFJ上映作品はこんな監督が撮っている!】です!これがなければIFFJは始まらないという一大イベント(違う)!この記事です!オレが勝手に一人で書いてます!ニーズがあるのか無いのか全く分からない、むしろ無いんじゃないかと思いますが、日本に数人存在するという【こんな監督】ファンの為にこのオレが一肌脱ぎます!(↓前回の【こんな監督】記事)

【こんな監督】はIFFJ公開作インド映画監督を「オヤジ度」「油ギッシュ度」「侘び寂び度」の3段階で評価し、「いかにオヤジとして熟成されているか」を測ろうという試みです。ええ、監督の技量とか作品内容とは一切関係ありません。まさに言いがかりとしかいいようのない無駄極まりない企画なんですな!

今回の【こんな監督】、IFFJ公開作品が16作と多いうえ、7人の監督によるアンソロジーなんてェ作品まであるもんですから、10人に限定させていただくことにしました(おまけ1がありますので実質11人)。要するに手抜きです。でもきっとみんな許してくれると思います。では行ってみよう!

 ■『心~君がくれた歌~』監督:カラン・ジョーハルf:id:globalhead:20171001110134j:plain

カラン・ジョーハル(Karan Johar)1972年5月25日ムンバイ生まれ (45歳)
主な監督作:Kuch Kuch Hota Hai(1998) Kabhi Khushi Kabhie Gham(2001)My Name Is Khan(2010)
【オヤジ評価】オレ実はずっと前から思ってたんですが、カラン・ジョーハル監督ってメチャクチャエロオヤジの臭いがしません?このトロンとした目つきとぽっちゃりした口元、そして下膨れ気味の頬、これは常に現実の向こうに甘やかな快楽の世界を見据えている、筋金入りのエロオヤジの顔付きなんじゃないかとオレは思ってるんですけどね。以前『ボンベイ・ベルベット』に俳優として出演していた時も、目の前にいるのが男であろうが女であろうがその場で裸にひん剥いて自らの暴れん坊将軍を縦横無尽に活用しそうな超絶的な漁色家の波動をグリングリン発していたように思えてならなかったんですよ。しかしオレはここでジョーハル監督を度を越した好色ジジイとあげつらいたいわけではないのですよ。究極的な快楽を知る者こそがまた、究極的に快楽的な作品を撮れるのではないか。ジョーハル監督の輝かしいフィルモグラフィの、観ることそれ自体が快楽であるそれぞれの作品は、彼の透徹したスケベさという、生の根幹にかかわるパワーがあったればこそ作ることが出来たのではないかと思っているのですけどね(メッチャフォローしてるやんオレ)。
オヤジ度 ★★★★
油ギッシュ度 ★★★★
侘び寂び度 ★★★★

 ■『フライング・パンジャーブ』監督:アビシェーク・チョーベーf:id:globalhead:20171001110500j:plain

アビシェーク・チョーベー(Abhishek Chaubey)1977年3月30日ファイザーバード生まれ(40歳)
主な監督作:『Ishqiya』(2010)『Dedh Ishqiya』(2014)
【オヤジ評価】あれ?庵野監督、インドでなにやってんっすか?さては『シン・ゴジラ』の続編でインドを舞台にしたゴジラ対ダーサ/リグ・ヴェーダの大決闘』とか撮ってるんっすか?今度はデリーが火の海になる番ですかね。それとも劇場版ヱヴァ完結編のネタ探しにインド来て、「次は死海文書じゃなくてブラーフマナ文献で行ってみようか」とか「ヱヴァはヴィシュヌのアヴァターラだったという設定はどうだろう」考えてるんっすか?どっち撮るにせよ当然映画は歌と踊り満載で尺は3時間半ぐらいですよね?……などと言ってしまいたくなるほど庵野秀明監督にそっくりなアビシェーク・チョーベー監督でありました!
オヤジ度 ★★★
油ギッシュ度 ★★★
侘び寂び度 ★★★

■『ディシューム~J&K~』監督:ローヒト・ダワンf:id:globalhead:20171001110521j:plain

ローヒト・ダワン(Rohit Dhawan)
主な監督作:『Desi Boyz』(2011)
【オヤジ評価】年齢不詳のローヒト・ダワン監督ですが、なんだか人を信じて無さそうな目つきをしているといいますか、ぶっちゃけ山本一郎がちょっと入ってるような気がしてなりません。しかしこういう顔の人に限って家庭思いで子煩悩だったりしますので人を見かけだけで判断してはいけません(お前が言うな)。そんなことよりこのローヒト・ダワン監督、なんとあのヴァルン・ダワンのお兄様なんですよ!?
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いやーどうしたらこうなっちゃうんでしょうね……。とはいえお父様がデヴィッド・ダワン監督なのでまあ、ありかな、ということもできますが。

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オヤジ度 ★★★★★
油ギッシュ度 ★★★★★
侘び寂び度 ★

■『ハッピーただいま逃走中』監督:ムダッサル・アズィーズf:id:globalhead:20171001110551j:plain

ムダッサル・アズィーズ(Mudassar Aziz)
主な監督作:『Dulha Mil Gaya』(2010)
【オヤジ評価】ああ……なんだか遠い目をしていますね……この世の虚しさを知ってしまったような、あるいはドラクエを今まさにクリアしたかのような、涅槃の彼方を見つめているムダッサル・アズィーズ監督です。オヤジ的に言うなら「悟りの境地のオヤジ」というのもアリかもしれません。ということもあり今回の【オヤジ評価】における「侘び寂び度」は全監督中最高の星5とさせていただきます。だからなんだ、と言われてもオレもだからなんなんだろうと頭を抱えてしまいますが。しかしこんなオヤジと遊ぼうとすると、いつも「うん……」「ああ……」と魂の抜けたようなカラ返事しか返ってきそうにないのでインド監督狙い女子(そんなヤツいんのか)は他の監督を狙ったほうがよさそうです。
オヤジ度 ★★★★★
油ギッシュ度 ★
侘び寂び度 ★★★★★

 ■『バドリナートの花嫁』監督:シャシャンク・カイタンf:id:globalhead:20171001110439j:plain

シャシャンク・カイタン(Shashank Khaitan)
主な監督作:『Badrinath Ki Dulhania』(2017)
【オヤジ評価】ああ……なんか弱いですね。どこか内向的で陰のある、危うい感じのするオヤジですね。なにか心に悩みを抱えているんでしょうか。星占いが3日続けて最低ランクだったんでしょうか。家を出掛けに新調した靴で牛の糞を踏んでしまったんでしょうか。朝食べたドーサがモタレてるんでしょうか。それとも新刊だと思ってコミックをダブって買ってしまったんでしょうか。よく分からないですが見るからに繊細そうなシャシャンク・カイタン監督はオヤジとしてはまだまだひよっこ、これから様々な経験を積んでいつの日か栄えあるズルムケオヤジとして羽ばたいてほしいと切に願います。
オヤジ度 ★
油ギッシュ度 ★
侘び寂び度 ★

■『アキラ』監督:A・R・ムルガダースf:id:globalhead:20171001110605j:plain

A・R・ムルガダース(A.R.Murugadoss)1974年9月25日カラクリチ生まれ(43歳)
主な監督作:『Ghajini』(2008)『Holiday: A Soldier Is Never Off Duty』(2014)『Kaththi』(2014)
【オヤジ評価】おおっと!これは存在自体がブラックペッパーみたいな小粒だがピリッと辛そうなオヤジですね!というかスターウォーズ』にこんなエイリアン出て来なかったっけ?(あまりに失礼過ぎたのでインドに向かって土下座してさらに五体投地しておきます)とはいえムルガダース監督、頭の回転が非常に速そうです。きっと喋り方も早口なんでしょう。手先なんかも器用な感じがします。きっと家には折り紙で作ったガネーシャ像やシヴァ像がたくさん並べられていたりするのではないでしょうか。でも掃除が大変なので嫁は嫌がってるんじゃないかな、と勝手に想像しています。
オヤジ度 ★★★★★
油ギッシュ度 ★★★★★
侘び寂び度 ★


■『ラマン・ラーガヴ 2.0 ~神と悪魔~』監督:アヌラーグ・カシュヤプf:id:globalhead:20171001110624j:plain

アヌラーグ・カシュヤプ(Anurag Kashyap)1972年9月10日ゴラクプール生まれ(45歳)
主な監督作:『Black Friday』 (2007)、『Dev.D』 (2009)、『Gangs of Wasseypur』 (2012)、『Ugly』 (2014)、『Raman Raghav 2.0』 (2016)
【オヤジ評価】出たーーーッ!!!濃いよ!あんた濃すぎるよ!前回の【こんな監督】記事において「ミスター・オヤジ、オヤジ・オブ・ザ・イヤー、キング・オブ・オヤジ」の名をほしいままにしたアヌラーグ・カシュヤプ監督のあまりにもヤヴァい写真の登場です!もう「いったい何があった!?」と思わざるを得ません!こんなオヤジに誰が勝てるというのでしょう(いやいない)!?というかこの写真、今回IFFJ2017で公開される『Akira』の中の一コマなんですが、そうです、なんとカシュヤプ監督、俳優としてこの映画に出演しているんですよ!もう『Akira』の主演はソーナクシーじゃなくてカシュヤプでいいです!こうなったらもうIFFJで『アキラ』を観るしかありません!こんなカシュヤプ監督には「インドのハナ肇」の称号を改めて与えたいと思います!

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オヤジ度 ★★★★★
油ギッシュ度 ★★★★★
侘び寂び度 ★

■『ベーフィクレー~大胆不敵な二人~』監督:アーディティヤ・チョープラーf:id:globalhead:20171001111138j:plain

アーディティヤ・チョープラー(Aditya Chopra) 1971年5月21日ムンバイ生まれ (46歳)
主な監督作:『Dilwale Dulhania Le Jayenge』(1995)『Mohabbatein』(2000)『Rab Ne Bana Di Jodi』(2008)
【オヤジ評価】『DDLJ』で知られるアーディティヤ・チョープラー監督ですが、あんだけロマンチックな映画撮りながら本人はこんな方だったんですね~。なんといっても目が座っている。この目の座り方は小池百合子東京都知事に負けていませんねもしもアーディティヤ・チョープラー監督がプロレスラーだったら、ねちっこくチョーク攻撃に持ち込み相手に蛇の如く絡み付いてじわじわと苦しめるファイトスタイルだと思われますね。もちろん得意技はインド人プロレスラー、タイガー・ジェット・シンと同じコブラクローでしょう。かつて『DDLJ』撮影のとき演技プランでシャー・ルク・カーンと対立したチョープラー監督は、このコブラクローでシャールクを落とした、という伝説が残っています(残ってない残ってない)
オヤジ度 ★★★★★
油ギッシュ度 ★★★★★
侘び寂び度 ★

■『M.S.ドーニー ~語られざる物語~』監督:ニーラジ・パーンデーf:id:globalhead:20171001111201j:plain

ニーラジ・パーンデー(Neeraj Pandey)1973年12月17日コルカタ生まれ (43歳)
主な監督作:『A Wednesday!』(2008)『Special 26』(2013)『Baby』(2015)
【オヤジ評価】無精髭、虚ろな目、緩んだ口元、胸ボタンを開けたピンクのシャツ、そこにぶらさげたサングラス、このニーラジ・パーンデー監督の写真からは平日からゴルフコースを回る金持ったオヤジの臭いがプンプンと漂っています。ええ、単なる根拠のない決めつけです。ただし金には五月蠅そうな気がします。写真では右手をかざしてなにか語っているように見えますが、これは自身の映画哲学を語っているというよりも、土地転がししまくってどんだけアブク銭を稼ぐことが出来たかを熱弁するオヤジのように見えてしまいます。ええ、もちろん単なる根拠のない決めつけです
オヤジ度 ★★★★
油ギッシュ度 ★★★
侘び寂び度 ★

■『スルターン』監督:アリー・アッバース・ザファルf:id:globalhead:20171001110121j:plain

アリー・アッバース・ザファル(Ali Abbas Zafar)1980年5月18日デヘラードゥーン生まれ (37歳)
主な監督作:『Mere Brother Ki Dulhan』(2011)『Gunday』(2014)
【オヤジ評価】2016年のボリウッドを席巻した名作中の名作『スルターン』を撮ったアリー・アッバース・ザファル監督の見た目は、……あれ、なんだか普通、というかいい人、というかむしろ爽やか、といってもいいほどの男性じゃないですか。くどくてしくこくて一癖も二癖もありそうなばかりか「実はマジヤバくないか」と思わせる【こんな監督】メンバーの中で唯一心を許せそうな安心感を与えてくれるアリー・アッバース・ザファル監督ですね。インドで道に迷ったときローヒト・ダワン監督やアーディティヤ・チョープラー監督みたいな顔したオヤジに道聞きたいとは思えませんし、カラン・ジョーハル監督みたいなオヤジに聞いたらいつの間にかお尻触られてそうだしアヌラーグ・カシュヤプ監督に至ってはすぐさま簀巻きにして人買いに売り飛ばそうとしますよ。でもアリー・アッバース・ザファル監督なら気兼ねなく聞けると思いますね。ああ、やっと安心できるインドのオヤジに出会った……。
オヤジ度 ★★
油ギッシュ度 ★★★
侘び寂び度 ★★

■(おまけ)『サルカール3』監督:ラーム・ゴーパル・ヴァルマーf:id:globalhead:20171001111212j:plain

ラーム・ゴーパル・ヴァルマー(Ram Gopal Varma)1962年4月7日ハイデラバード生まれ(55歳)
主な監督作:『Shiva』(1990)『Rangeela』(1995)『Daud』(1997)『Darling』(2007)
【オヤジ評価】【二郎インスパイア系インド映画監督】ことラーム・ゴーパル・ヴァルマー監督は以前拙ブログ『サルカール3』レヴューで紹介しましたが、このラーム監督の「とても悪そうな顔の写真」を入手しましたのでここで改めて紹介したいと思います!いやあ、メッチャ凶悪な顔してますね!やっぱ黒社会の映画を撮る人は自らも黒社会っぽくなってしまう、とそういうことなのでしょうか!?
オヤジ度 ★★★★★
油ギッシュ度 ★★★★★
侘び寂び度 ★★★ 

■最後に

というわけで【こんな監督】特集を終わらせていただきまが、……えーっと……。

監督の皆さん、失礼極まりない文章を書いてしまって誠に申し訳ありませんでした!!これからも応援させていただきますので素晴らしい映画を撮り続けてください!