【インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン/IFFJ 2017】いよいよ開催!!

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10月はインド映画祭!というわけでいよいよ【インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン/IFFJ 2017】の開催が迫ってまいりました。

今年の【IFFJ2017】は東京・大阪を拠点に全16作品を公開、期日は10月6日から10月27日まで、なんと3週間もやりやがります!思い切ったなIFFJ!やる気満々だなIFFJ!実はちょっと心配してるぞIFFJ!

公式HPインディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン[日本のボリウッド映画]IFFJ

そんな中「なんちゃってインド映画ファン」としてとてもしょーもないカンソーブンを零細ブログに時々あげているこのオレも何か宣伝してやろう、と重い腰を3センチばかり上げてみることにしました。こうして毎年宣伝手伝ったら心優しい善男善女揃いのIFFJ主催の皆さんがいつかインド料理屋でビリヤニたらふく食わしてくれるかもしれない、あとビールもたくさん飲みたいな、という邪かつみみっちい野望を心に秘めていることはナイショです。

さて今回公開される16作品の内12作品は既にDVDで視聴しブログにカンソーブンを上げていたので、これをまとめてこれから観られる方の参考にしてもらうことにしました。

それだけだと「長い文章読むのかったりーんだよボケカスドォーン」と言われそうなので、「オレから一言」ということで見所のポイントを押さえてみることにしました。「お前の如き者から一言などいらない」とか言わないでたった一言だから読んでくださいよー。では行ってみよう!

 

■スルターン [原題:SULTAN](監督:アリー・アッバース・ザファル 2016年インド映画)オレから一言:「IFFJで一本だけ観るならこれを観ろ!」

■バドリナートの花嫁 [原題:BADRINATH KI DULHANIA](監督:シャシャンク・カイターン 2017年インド映画)オレから一言:「歌と踊りの楽しい前半、リアルでシリアスな後半!」

■フライング・パンジャーブ [原題:UDTA PUNJAB] (監督:アビシェーク・チョーベイ 2016年インド映画)オレから一言:「インドの麻薬禍コワイ!麻薬ダメ絶対!」

■ラマン・ラーガヴ 2.0 ~神と悪魔~ [原題:RAMAN RAGHAV 2.0] (監督:アヌラーグ・カシュヤプ 2016年インド映画)オレから一言:「インドの連続殺人鬼コワイ!殺人ダメ絶対!」

■アキラ [原題:AKIRA]  (監督:A・R・ムルガードース 2016年インド映画)

オレから一言:「ダーティー・ヒロイン、ソーナークシーのアクションに惚れろ!」

■ハッピーただいま逃走中 [原題:HAPPY BHAG JAYEGI] (監督:ムダッサル・アズィズ 2016年インド映画)

オレから一言:「性善説は世界を救う国境を超えた人情ムービー!」

■ディシューム~J&K~ [原題:DISHOOM] (監督:ローヒト・ダーワン 2016年インド映画)

オレから一言:「インド・アクションはおんもしれえぞおおおお!!」

■ベーフィクレー~大胆不敵な二人~ [原題:BEFIKRE] (監督:アディティヤ・チョープラー 2017年インド映画)

オレから一言:「パリで恋だぜ自由が一杯だぜ!」

■僕の可愛いビンドゥ [原題:MERI PYARI BINDU] (監督:アクシャイ・ローイ 2017年インド映画)

オレから一言:「お茶目な"妹タイプ"に弱い方は是非!」

■心~君がくれた歌~ [原題:AE DIL HAI MUSHKIL] (監督:カラン・ジョーハル  2016年インド映画)

オレから一言:「目一杯ゴージャスでロマンチックなヒンディー・ムービー!」

■サルカール3 [原題:SARKAR 3](監督:ラーム・ゴーパル・ヴァルマー 2017年インド映画)

オレから一言:「アミターブ爺の目力にひれ伏せ!」

■始まりは音から~インド詩七篇~ [原題:SHOR SE SHURUAAT] (監督 : ラーフル・V・チッテラー、アミーラー・バルガヴァ他  2016年インド映画)

オレから一言:「インディー・ムービー好きの方は是非!」

《その他のIFFJ公開作》

■幸せをつかむダイエット [原題:VAZANDAAR] (監督:サチン・クンダルカル 2016年インド映画)

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■M.S.ドーニー ~語られざる物語~ [原題:MS.DHONI] (監督:ニーラジ・パーンデー 2016年インド映画)

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マントラ [原題:MANTRA] (監督:ニコラス・カルコンゴール 2017年インド映画)

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■メイキング・オブ「プレーム兄貴、お城へ行く」[原題:THATS WHAT ITS ALL ABOUT] (監督:ヴィディ・カースリーワール 2016年インド映画)

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……さて、明日はいよいよ【インド映画祭IFFJ上映作品はこんな監督が撮っている!】をお送りします。お楽しみに!

 

 

生と、死と、屁と。~映画『スイス・アーミー・マン』

スイス・アーミー・マン (監督:ダニエル・シャイナートダニエル・クワン 2016年アメリカ映画)

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スイス・アーミー・マン』。それは、屁の、屁による、屁の為の物語である。

屁。それが体内から排出されるガスの事である。しかし、ゲップは屁とは呼ばない。屁は、尻の穴から放出されるガスの謂いである。屁は、おなら、中便とも呼ばれる。中便。あまり使わない言葉であるが、小便と大便との中間的な位置づけであると認識されるなら納得できる言葉であろう。厳密には、音がするものをおなら、音がしないものを屁と区分けされるものであるが、ここでは総体的に屁と表現することとする。

屁は、平均的な成人であれば一日に0.5~1.5リットルを放出するものであるという。そしてその屁は、時として、臭い。それは腐敗臭の如き臭いを放つ。その成分は窒素・酸素・メタン・二酸化炭素・水素であり、それに酪酸硫化水素・二酸化硫黄・二硫化炭素などが混入することにより、あの得も言われぬ臭いへと醸造されるのである。実はこれらの成分は、火山性ガスと重複する部分が多々ある。

即ち屁の臭いとは、火山活動の臭いであり、見方を変えるなら、我々は、その腹中に、ひとつの火山を抱えていると言っても過言ではないのである。火山とは地殻深部に溜まったマグマが放出される現象であるが、そのマグマは、地底の岩石が高温により溶けだしたものであるという。これら火山活動は、地球が、まるで生きているものであるかのように想像させる。

宇宙の誕生は約138億年前であると言われている。そして地球の誕生は今から約46億年前。この悠久の時を経ながらなお、地球内部では活発な活動が行われているのだ。翻って当初の懸案である屁について考えてみよう。体内にありながら、あたかも火山活動を連想させる屁。それは我々が、その体内に地球を宿しているということの仮象であり、そして屁をひるという行為を通じて、我々は宇宙的タイムスパンの中にある地球の歴史を体現しているということはできはしないか。

そう。屁をひる、屁をこく、放屁する、それら日常茶飯事のありふれた中便行為の中に、実は、地球の誕生と、宇宙の神秘と、その中で生きる限られた生命である我々の運命とが、密かに重ね合わされていたのである。だからこれからは思い出してほしいのだ、轟音で、あるいはすかしっ屁で、あなたの肛門からガスが放出されるその時、地球と、宇宙とが、あなたの体内で息づいているのだという事を。

(あ、いかん、映画の話なんも書いてなかったが、要するに「死体が屁をブリブリぶっこくバカな話を作りてえ!」というアイディアがあって、でもそれだけだと97分持たないから「なんかもっともらしいこと言わせてもっともらしい映画だと思わしちまえ!」と思い付きのエピソードあれこれぶっこんで一丁上り、というところがこの映画のホントのところで、この「バカ」と「もっともらしさ」の配分はそんなに悪くなかったし映画全体も面白く出来てんじゃね?と思いました。これを真似てオレも「屁」について思い付きのもっともらしい話を適当に並べてみたという訳ですな。おしまい)


映画『スイス・アーミー・マン』予告編

インディアン・シネマ・ウィーク/ICWジャパン2017でインド映画三昧だった

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《目次》

【インディアン・シネマ・ウィーク/ICWジャパン2017】を観に行った

先週はSpacebox主催によるインド映画まつり【インディアン・シネマ・ウィーク/ICWジャパン2017】でインド映画三昧でした。

公開作は『リンガー』『ピンク』『マーヤー』『今日・昨日・明日』『デモンテの館 』『キケンな誘拐』の6作。このうち『リンガー』と『ピンク』は既にDVDで観ていたので残り4本を日曜から水曜まで4日間かけて観に行きました。いやーオレの55年もの人生で4日間映画館通いしたのは初めてかもしれない。それだけ興味たっぷりの映画まつりだったんですよ。なんといっても観に行った4作は、日本では結構視聴の難しい南インドタミル語の映画だったからなんですね。ジャンルもホラー、SF、犯罪コメディと様々。これは面白そうじゃないですか!という訳でここで観た4作をざっくり紹介してみようかと思います。

マーヤー /MAYA (監督:アシュウィン・サラヴァナン)

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<あらすじ>チェンナイの郊外にあるマーヤヴァナムの深い森。近寄る者もいないその森は、過去の陰惨な記憶を封じて静かにたたずんでいた。イラストレーターのヴァサントは、出入りしている雑誌社の編集者から、この森にまつわる怪談を聞かされ、信じはしないものの興味を惹かれる。同じころ、女優志望のシングルマザー、アプサラは、女性が主役のとある映画のオーディションを受ける。彼女には、その作品がマーヤヴァナムにまつわるものだとは知る由もなかった。出演:ナヤンターラー、アーリ、ラクシュミ・プリヤー、マイム・ゴーピ
(2015年/ タミル語 / 142分)

 タミルのホラー映画です。初っ端から「過去精神病院で起こったおぞましい事件」の話やら心霊写真やらが描かれ、「ま、順当なホラーかな」と余裕で観てたんですが、なぜかモノクロ画面とカラー画面の二つで別々の物語が進行していることに気付き始めると、この構成が物語をいったいどこへ向かわせているのか段々気になってくるんですよ。

そしてこのトリッキーな構成の意味がクライマックスで明らかにされた時に、この作品のクオリティの高さを思い知らされた感じですね。欧米のホラー作品みたいに目を覆うような残酷さや肉体破壊があるわけではないんですが、それを補って余りあるしっかりとしたシナリオなんですよ。それはただホラー演出に終始するだけではなく、人の悲しい運命やその絆をエモーショナルに描き出そうとしていて、ここにこそこの物語の真骨頂があると思いました。

舞台となる南インドの暗い森は、これもまた欧米ホラーの寒々とした雰囲気とはまた違うねっとりと湿った熱を帯びた暗さで、この「闇の持つ熱量」が何かがそこに蠢いているような独特の薄気味の悪さを醸し出してるんですね。このダーク・ファンタジー的な要素もまたこの作品を見せるものにしていました。

今日・昨日・明日/ INDRU NETRU NAALAI (監督:R・ラヴィ・クマール)

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<あらすじ>恋人との交際がうまくいかず、意気消沈する無職の青年イランゴーは、占い師の親友プリヴェッティに慰められていた。そんな2人の目の前に、ある日忽然と姿を現した青く輝く謎の機械。それは何と未来の科学者が2015年に送り込んだタイムマシーン。2人はタイムトラベルを使ったある商売を思いつき、それが大成功する。ところが彼らの「過去」での行動が、世間を恐怖に陥れている極悪人・コランデヴェールにかかわる、ある大問題を引き起こしてしまうことになる。出演:ヴィシュヌ・ヴィシャール、ミア・ジョージ、カルナーカラン
(2015年/ タミル語 / 139分)

インド映画ってびっくりするほどSF映画が少なくてちょっと不満だったんですが、この映画がSF作品だと知って、一人のSFファンとしては相当楽しみにしていたんですね。

物語はタイムマシンを巡って繰り広げられるドタバタとアクションが中心になります。ひょんなことからタイムマシンを発見してしまった主人公と友人ですが、その超科学の産物でなにをやるかと思ったら単なるお金儲け!せっかく過去にガンジー見に行ったんだからついでに暗殺阻止してやれよ主人公!

とはいえ、そんなみみっちさが可笑しさを生む物語なんです。まあねー、オレだってタイムマシンがあったら楽なお金儲けに走りますよ!しかしそんなコメディ要素たっぷりの物語が後半、「過去を変えてしまった」ことによるとんでもない事件へと発展してゆき、緊迫感漂うサスペンスアクションへと様変わりするんですね。

時間旅行テーマにつきものである「歴史改編のツケ」は、ここでは実にシンプルに分かり易く描かれており、ある意味相当敷居が低く作られています。この辺が自分には物足りなかったんですが、その分ロマンスや大悪党との戦いなどインド映画らしい要素がたっぷりつまった作品になっており、十分満足できました。

デモンテの館 / DEMONTE COLONY (監督: R・アジャイ・ガーナームットゥ)

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<あらすじ>ラーガヴァン、スリニ、サジット、ヴィマルの4人の仲間は、デモンテ集落にある不気味な廃墟に肝だめしに向かう。その後、かつてその廃墟の主であったポルトガル人の資産家・デモンテ一家に起きた惨劇と、それにまつわるあるネックレスの物語を知ったラーガヴァンは、3人にそのストーリーを語りつつ、そっと告白する。あの廃墟で美しいネックレスを見つけた彼は、売ってカネにするためにそれを持ち帰っていたのだ。その時、誰かが部屋の扉をノックする音がー。出演: アルルニディ、アビシェーク・ジョーセフ・ジョージ、サナント、ラメーシュ・ティラク
(2015/ タミル語 / 113分)

またもやホラー!と思いつつ観始めると、冒頭は結構コミカルです。コミカルどころか陽気に歌って踊ってます!大丈夫なのかこのホラー!? と心配させといてその後じわじわとホラーっぽく責めて来ます。

主人公たちはとある幽霊屋敷に肝試しに入るんですが、ずっとこの幽霊屋敷で物語が展開するのか?と思わせといてそこはあっさり退散するんですね。本当の恐怖はその後主人公たちが部屋でダラダラし始めるあたりから始まります。彼らは悪霊に部屋に閉じ込められ、あらゆる恐怖を体験させられるのですよ。

この密室となった部屋で悪霊からあの手この手の嫌がらせを受ける、という展開はホラー映画『TATARI』『死霊のはらわた』を彷彿させていました。ゴア表現はまるでないんですが、低予算ながらあれこれ工夫してショッカーを生み出そうとしている点ではやはり実に『死霊のはらわた』ぽいんですよね。

面白かったのは人体発火のシーンで、普通なら「超常的な力が働いた」だけで済ますところを、妙に筋道立ててなぜ発火したかを見せるんですよ。勢いだけで作っているのかと思ったら変な所で理屈っぽいんですよね。それとホラーマニアの主人公たちがジャパニーズホラー作品『呪怨』をメッチャ推していて、そこもなんだか可笑しかった。

キケンな誘拐/ SOODHU KAVVUM (監督:ナラン・クマラサーミ)

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<あらすじ>セーカル、ケサヴァン、パガラヴァンの失業3人組は、酒場で出会った小銭稼ぎの誘拐犯ダースから仲間に誘われる。彼独特の『誘拐のルール』をレクチャーされた3人は迷いながらも彼に同行、チームは次々と身代金目当ての誘拐を成功させてゆく。そこへある日、突如として舞い込んだ一発大逆転の儲け話。そのミッションが『誘拐のルール・その1』に反すると知りつつも、勢いで引き受けてしまった彼らは、案の定とんでもないトラブルに巻き込まれることになる。出演:ヴィジャイ・セードゥパティ、サンチター・シェッティ、カルナーカラン
(2013年/タミル語 / 127分)

成り行きで誘拐犯になっちゃったボンクラ3人組を描くクライムコメディーです。犯罪者が最初の計画から逸脱して次第にのっぴきならない方向へと進んでゆく、という犯罪ドラマのセオリーを踏襲しつつ、これを暗く陰惨な方向ではなくコメディー作品として仕上げているところに面白さがありました。

まずなにしろ予想の付かない方向へとどんどん迷走してゆくシナリオがとても素晴らしいんですよ。誘拐計画が二転三転し、なんとかしのいだと思ったらまたまた思わぬ危機が勃発し、と全く予断を許しません。

ボンクラ3人のボスとなる男がまたまた強烈な個性の持ち主で、この人、なんといつも妄想のカノジョをはべらせています。しかもそれを周囲に公言しています。なんだか訳が分からないんですが、男ばかりのむさ苦しい犯罪ドラマに華やかさを持ち込んでいるので、あながち無意味でもないんです。

さらに強烈なのが彼らを追う凶悪な暴力警官の登場です。暴力警官が正義の鉄拳を振るう!というインド映画は数ありますが、この作品では「そもそも暴力警官なんて悪だよ」とある意味当たり前のことをつらっと描いちゃってるところが逆転の発想でした。

さらに物語は誘拐犯たちの犯罪だけではなく政界の汚濁ぶりまでも描いており、これらを含めたブラックな展開にまたもやシナリオの練り込みぶりを見せつけられましたね。

icwjapan.com

ノイズにまつわる7つの物語~アンソロジー映画『始まりは音から~インド詩七篇~』【IFFJ2017公開作】

■始まりは音から~インド詩七篇~ (原題:SHOR SE SHURUAAT)(監督:ラーフル・V・チッテラー、アミーラー・バルガヴァ他 2016年インド映画)

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目次 》

「ノイズ」をテーマとした7編のインド短編作品アンソロジー

映画『始まりは音から~インド詩七篇~』は「ノイズ」をテーマにした7つの短編作品が集められたインド映画アンソロジーだ。

これらの作品はインドの短編映画専門のYoutubeチャンネル「Humaramovie」が母体となっているのらしい。このチャンネルにおいて評価の高い映画製作者たちを一堂に会し、同じテーマに基づいた7編の作品を集めて1つの劇場公開作品としてまとめたものがこの『始まりは音から~インド詩七篇~』となる。

「ノイズ」というたった一つの単語からどれだけの想像力を膨らませどんな物語が紡ぎ出されるのか?が見所となり、7人の監督たちがそれぞれ「ノイズ」という言葉にどんな解釈を施したのかを見比べるのが面白いアンソロジーだ。その料理の仕方は千差万別で、シリアスな社会派作品からコメディ、SF、ラブストーリーとまさに十人十色ならぬ七人七色。さてこんなレインボーカラーなアンソロジーの中で最も優れていたのはどの作品だろうか。順番に紹介してみよう。

1.『アーザード~自由~(Azaad)』監督:ラーフル・V・チッテラー

あるジャーナリストの失踪とその家族の葛藤を描くこの作品はまさにシリアスな社会派作品であり、ドキュメンタリータッチのその物語はインド社会の持つ陰鬱な一面を炙り出す。けれどもガチガチに社会派なのではなく、深い詩情と家族の愛が胸を打つ一編となっている。アンソロジー中屈指の名作であり、インド短編映画界が何を目指しているのかを伺い知れるだけでもアンソロジーそれ自体の成功を約束したような作品だ。主演はアトゥル・クルカルニ、最近では『Raees』、『Akira』の出演が記憶に新しいインド映画名脇役であり、彼による迫真の演技はいつまでも記憶に残ることだろう。

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2.『アーメル (Aamer)』監督:アミーラー・バルガヴァ

スラムに住む貧しい花売りの少年は聴覚障碍者だった。そんな息子の為に母は補聴器を買い与えるが……というこの物語、あたかも『サラーム・ボンベイ!』を彷彿させる作品だが、聴覚障碍者にとって「ノイズ」とは何か?を描こうとした部分が面白い。貧しさの中で逞しく生きる少年の描写は清々しいけれども、基本的にワン・アイディア作品なので物語に膨らみが足りなかった部分がちと残念。

3.『デシベル(Decibel)』監督:アニー・ザイディ

睡眠障害を持つ女性が睡眠障害者支援センターで安らかな眠りを手に入れようと四苦八苦する。コメディ・タッチで描かれるこの作品は物語が進むにつれなんとSF作品だったことに吃驚させられた!インド映画って実はSF作品が殆ど無くて、一人のSF映画ファンとしては多少薄味ではあるがこんな作品の存在を知ることだけでも嬉しかった。それにしてもインド映画ってどうしてこんなにSF作品が少ないの?

4.『もしもし?(Hell O Hello Can you hear me?)』監督:プラティック・ラジェン・コサリ

あの手この手でモバイル端末を売ろうとするライバルセールスマン同士のドタバタをシニカルに描くコメディ作品。もはや宣伝合戦それ自体が「ノイズ」ってことなんだろうか。原題『Hell O Hello Can you hear me?』は「地獄よ、こんにちは聞こえますか?」といった意味になるが、苛烈化した資本主義の地獄を面白おかしく描こうとしたのがこの作品の趣旨なのだろう。それにしてもインド映画を観て思うのは、インドの皆さんバスの中だろうが仕事中だろうがまるで遠慮なくガンガンにケータイ掛けまくってるなあ、という事だな。

5.『黄色い糸電話(Yellow Tin Can Telephone)』監督:アルニマ・シャルマ

聴覚過敏でいつもヘッドホンをしている女の子と、色彩に過剰に共感覚を覚えてしまうがためにいつもサングラスをしている少年とのちょっと風変わりなボーイミーツガール物語。設定は相当非現実的ではあるが、だからこそファンタジックな味わいが物語に横溢しており、監督の多大な意気込みを感じた。所々ではストップモーションアニメも併用され、そのポップな雰囲気はインドのミシェル・ゴンドリーを目指しているんじゃないのか監督!?とちょっと思ってしまった。とはいえミシェル・ゴンドリーにしてはまだまだ薄味だし拙い部分も多々あるけれども、これからは思う存分やりたいことをやってくださいよ!と応援したくなってしまった作品であった。

6.『音(Dhvani)』監督:サップリヤ・シャルマ

死刑執行が間近に迫る死刑囚が看守に望んだ「たった一つのこと」とは?『アーザード~自由~』と並びシリアスな作品だが、この作品が目指したのは社会派的な問題作ではなく「罪を犯し死を目前とした男の生きる事の根源にあるものとは何か?」という非常に内省的なものだった。そしてそこに「ノイズ」がどう絡められていくのかが見所となる。インド映画の名バイプレイヤーであるサンジャイ・ミシュラー(最近作だけでも『Jolly LLB 2』『Baaghi』『Dilwale』『Kick』『Ankhon Dekhi』ときりがないほど)の演技が光る逸品だ。

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7. 『私はミア(MIA)』監督:サテーシュ・ラジ・カシラディ

頭を坊主に丸めたその少女は陰鬱な表情を浮かべながらたった一人の世界に閉じこもっていた。彼女はボーイフレンドに二人の行為をYouTubeに公開されてしまったのだ。少女の苦悩に満ちた心象をあまりにも痛々しく描くこの作品は、後半一転、魂の吐露とその発露の様を素晴らしい疾走感と共に画面に焼き付けてゆくのだ。世界に否定された彼女はそのギリギリの生の中から遂に世界へNO!という言葉を叩き付ける。自らを責め苛むノイズを自らがノイズとなってぶち壊してゆく、これはもうロックそのものとしか言いようがないお話じゃないか。『始まりは音から~インド詩七篇~』7作品を締めくくる良作だった。

まとめとして

アンソロジー『始まりは音から~インド詩七篇~』は様々なジャンルの作品が並び、その完成度はまちまちの部分もあるが、インドの映画界にどのような才能が眠っているのかを確かめることができる試金石のような作品として完成していた。また、インディペンデントなそれらの作風には通常目にするインド娯楽作とは違うインドの人々の生々しい生活や感情吐露が盛り込まれていた。

この作品は「インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン2017」の作品の一つとして日本公開が決定しているが、山ある娯楽作問題作の中でこのようなインディペンデント作品もまた公開されることは、「インドと日本それぞれの社会的文化的背景をもった映画をより多くの人々に鑑賞してもらう」というIFFJの開催趣旨に最も則ったことであるように思う。

ぶっちゃけこんな作品ばかりだとお客さんも呼べないだろうが、しかしたった1作でもあるということがIFFJの意義でもあるんじゃないかな(←偉そうな発言してしまいましたスイマセン)。というわけで『始まりは音から~インド詩七篇~』、インド映画に興味のある人はみんな観ようよ!とまでは言わないけど、娯楽作だけではないインド映画を観てみたい人には割といいんじゃないかな。

『始まりは音から~インド詩七篇~』予告編

www.youtube.com

 

映画『サルカール3』はインドの『アウトレイジ』だったッ!?【IFFJ2017公開作】

■サルカール3 (原題:SARKAR 3)(監督:ラーム・ゴーパル・ヴァルマー 2017年インド映画)

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政治の裏側でドロドロと蠢く魑魅魍魎たちが互いに貪り合う様を描いた政治犯罪スリラー映画『Sarkar 3』でございます。

この映画、なんといってもみんな怖い顔をしている!主演となるアミターブ・バッチャン爺をはじめ、出演者であるジャッキー・シュロフ、マノージュ・バージパーイー、アミト・サード、ヤミー・ガウタムと、揃いも揃って悪人顔だッ!?ついでに書くと監督のラーム・ゴーパル・ヴァルマーまで怖い顔してるぞッ!?

というわけでここで唐突にラーム・ゴーパル・ヴァルマー監督の【オヤジ評価】をしてみたいと思います!

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ラーム・ゴーパル・ヴァルマー(Ram Gopal Varma)1962年4月7日ハイデラバード生まれ(55歳)。主な監督作:『Shiva』(1990)『Rangeela』(1995)『Daud』(1997)『Darling』(2007)

【オヤジ評価】ウホッいいオヤジ。黒いです。太いです。固いです。油多めでこってりです。政治スリラーをよく撮っているということですから、その辺も一家言持っててうるさそうです。飲み屋でOL相手に延々政治談議を仕掛けてきて煙たがられそうなオヤジです。おまけにサウスの生まれとくればその濃さになおさら拍車が掛かるというもの。こんなラーム・ゴーパル・ヴァルマー監督には【二郎インスパイア系インド映画監督】の称号を与えたいと思います!

オヤジ度 ★★★★★

油ギッシュ度 ★★★★★

侘び寂び度 ★★★

 さて冗談はさておき、この『Sarkar 3』、『3』っていうぐらいですからシリーズの3作目です。オレは1,2作目は見ていませんが、どれもこの『3』と一緒で政治スリラー映画らしいんですね。

1作目『Sarkar』は2005年に公開され、アビシェーク・バッチャン、ケイ・ケイ・メノン、カトリーナ・カイフ、アヌパム・ケールなんかが出演していたらしいですな。2作目『Sarkar Raj』は2008年公開で、なんとアイシュワリヤー・ラーイの新規参入がありました。そう、アミターブ爺、アビシェーク、アイシュワリヤーという親父と息子とその嫁の共演という訳だったのですよ!

そして今回の『Sarkar』の3作目ですが、アビシェークとアイシュワリヤーは出演していません。出演してませんが、映画観ているとアビシェークのモノクロ写真が組事務所に飾ってあるんですね(↓アミターブ爺の後ろに心霊写真みたいに写っている、なんかイラッとする表情を浮かべてる顔がアビシェーク)。

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どうやらアビシェーク、前作で死んじゃったみたいです(ネタバレ)。

ええっと冗談ばかりで全然レヴューが始まらないんですが、そろそろ本気出しましょう(いやそもそもオレのインド映画レヴューに今まで本気なんかあったのか?)。そういえば今作、今年も開催される「インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン IFFJ2017」で『サルカール3』のタイトルで公開されるので、HPから粗筋をコピペしておきましょう(明らかな手抜き)。

ムンバイの影の権力者サルカール。年老い孤独になった彼が見るものは?
二人の息子を亡くし年老いたサルカール。だが影の権力者としての実力は揺るがなかった。そんなとき彼の孫が「仕事」に加わろうとするが。アミターブ・バッチャン主演でムンバイのリアルを描く人気シリーズ第3弾。
ジャンル: クライムサスペンス
ココに注目!① : ムンバイマフィア
ココに注目!② : 下剋上の人間模様
ココに注目!③ : 濃厚な世界観

大雑把に言うなら、というか大雑把にしか理解してないのが正直な所なんですが、いわゆる政治を陰で操る連中が覇権を巡って虚々実々の抗争を繰り広げるというお話なんですな。陰謀・欺瞞・裏切り・共謀・密偵・暗殺・破壊活動と、ひたすら暗くおどろおどろしい闇社会の駆け引きが描かれてゆくのですよ。

物語ではムンバイの政治の実権を握るサルカール(アミターブ爺)の一派と、ゴーヴィンド(マノージュ・バージパーイー)率いる野党一派が激しく対立しています。このゴーヴィンド一派はドバイに拠点を置く謎のフィクサー、ヴァルヤー(ジャッキー・シュロフ)が陰で糸を操っています。そんなある日、サルカールの孫シヴァージ(アミト・サード)がサルカールに「仕事」を手伝わせてくれと申し出ますが、このシヴァージ、何か腹に一物持っているような男でした。

さて「暗くおどろおどろしい闇社会の駆け引き」とは書きましたが、作品自体は実の所かなり地味な仕上がりです。物語の殆どにおいてサルカールの組事務所でサルカールとその手下たちが椅子に座ったり突っ立ったままでなにやらボソボソと陰謀を呟いているシーンばかりだからです。それ以外はヴァルヤーがドバイの高級マンションプールでスケベそうなチャンネーとイチャイチャしているシーンです。時たま襲撃や銃撃戦も描かれますが、映画全体に動きがまるで無くて、会話だけで物語が進行してゆくんですよ。

それを補おうとしたのか、なんだか作ったようなアングルが多用されちょっと可笑しかったりします。もっと可笑しかったのは、重々しさを出そうとしたのか全編に渡って「どろろどろろどろろん」と暗くて深刻ぶった音楽が被さり、「ウオォウオォ」と低い男性コーラスが挿入され、ここぞというシーンでは「ごーびんだ!ごーびんだ!ごーびんだ!」というインドに暗いオレには意味の分からない歌が繰り返されるんですね。いやなにもそんなに煽んなくとも……。

しかし深刻ぶっているからといってこちらも深刻に観なきゃならない義理も無いですから、オレなんかは「あーこれ要するにインドの『アウトレイジ』な訳ね、ヤクザシリーズだし」と相当気を抜いて観てしまいました。まあアミターブ爺がビートたけしみたいに「テメー馬鹿野郎この野郎!」と怒鳴ったりはしませんけどね(正確には『ゴッドファーザー』を元にした映画なのだそうですが、『アウトレイジ』新作公開間近なので波に乗ってみました)。

映画全体としてはどうもパッツンパッツンに肩に力が入り過ぎているように思えたし、アミターブ爺のカリスマ性で成り立っている部分の多い作品なんですよね。とはいえ実は後半、意外などんでん返しがあってびっくりさせられた。このクライマックスで物語がシャキッと締まるんですよ。そういった点で言えば、割と悪く無い作品かもよ。……ところで「ごーびんだ」の歌ってあれなんなの?


Sarkar 3 | Official Trailer | Amitabh Bachchan, Yami Gautam, Manoj Bajpayee & Jackie Sharoff