■M.S.ドーニー ~語られざる物語~ [原題:M.S. Dhoni: The Untold Story] (監督:ニーラジ・パーンデー 2016年インド映画)
クリケットっていうスポーツは日本ではあまり馴染が薄いんだけれど、これがインドでは国民的スポーツ だっていうんですね。確かにクリケットを題材にしたインド映画というと『ラガーン』(2001)とか『Dil Bole Hadippa!』(2009)とか、他にも沢山名作良作があって、それだけでもインドのクリケット熱が伝わってくるんですよ。
とはいえオレ、クリケットって全然ルール分かんないんですよ。↑で挙げた映画観ててもやっぱり理解していない。そもそもオレってスポーツ苦手なので野球すらルール知らないんですけどね。
で、この映画『M.S.ドーニー』、そのインドのスーパースター・クリケット選手M.S.ドーニーさんの伝記映画だっていうじゃないですか。いや、悪いんだけど知らないっすよM.S.ドーニーなんて。しかもまだ現役なんだそうで、現役で伝記映画ってェのもなんかスゴイですけどね。
とはいえ、ルール知らなくてもインドのクリケット映画ってどれも面白いんですよね。これって子供の頃、野球のルール全然知らなかったけど『巨人の星』のアニメがとっても面白かったのと一緒なんじゃないか、とオレは思ったんですよ。つまり、別に球技見てるんじゃなくて映画のドラマ観てるわけですから、そのドラマがよくできていればちゃんと見せられるものになるんですよ。
というわけで恐る恐る映画『M.S.ドーニー』観ましたけどね。いやあ、最初の心配もなんのその、実に面白かった!
まずやっぱり、ドラマの核となる人間関係をしっかり見せている、ということですね。そしてひとつひとつのエピソードが、きちんと共感を生むものになっている。例えば冒頭の、クリケットグラウンドに深夜散水しに行くお父さんの様子を、こっそり起き出して見つめている子供時代の主人公の姿とか、ここでまずグッとくるんですよ。そして主人公を応援する家族や友人たちの姿なんかにも、やっぱり熱い共感を感じるんですよね。
さらに、シナリオがなかなか上手い。要するに伝記の脚色の仕方ってことなんですが、例えば映画で描かれる主人公の二つのロマンスを、それぞれのヒロインのある言葉を重ね合わせることで劇的に盛り上げている。こんなの実際にはどうだったか分かりゃしませんけど、映画における脚色ということにおいては素晴らしい効果を上げている。こういった、「現実にあったことをドラマに仕立て上げる」際のちょっとしたテクニックが実に巧みで、ああ、こりゃ練り込んでるな、と感じましたね。
それとこれは映画の内容と関係ないんですが、音響が、素晴らしくいい。こんなにサラウンド効果出してるインド映画初めて観たし、音楽もいい。これは是非劇場で体験してください。
もうひとつ思ったのは、この映画、実は3時間以上あるんですが、最初「うわ、長いな」とか思っていた所、観てみるとこの長さがちょうど具合がよかったということなんですよ。まあインド映画ってェのはもともと長いんですが、これが最近は短くなってきている。その中であんまり興味の無いクリケット映画3時間超観るのはどうなの?と思ってた。
しかし、全部を観終ってみるとやはりこの長さで過不足無い、という印象なんですね。この3時間超で丹念に物語をまとめ上げる映画の作り方がインドの奴らにはやっぱりしっくりくるみたいで、だからこそ見せる映画になってたんじゃないか、とも思えるんですよ。最近の短い上映時間のインド映画の物足りなさって、なんだかTVサイズのドラマしか描いていない、ってことだったんですが、その点において『M.S.ドーニー』はどっしりと腰を落ち着けて観られる良作でしたね。
M.S.Dhoni - The Untold Story | Official Trailer | Sushant Singh Rajput | Neeraj Pandey