一般にダブ・マスターのようにとられているリー・ペリーの真価は、実はそのプロデュース作にあると言っていい。ペリーのプロデュースはシンガーの魅力を100%引き出す手腕に優れているからだ。ペリーは一見強烈なエゴの持ち主のようにも見えるが、プロデュースという裏方に回った時、シンガーのヴォーカルの質を細かに見極め、それをどう生かすかに最大限集中し、あくまでシンガーそのものを際立たせるべくサウンドを組み立てる。特にブラックアーク・スタジオにおいて製作された数々のバンド/シンガーのアルバムは、どれもレゲエ史に残るような名作揃いだ。今回はそれらリー・ペリー・プロデュースによるルーツ・レゲエの名作の数々を紹介したい。
■Heart of the Congos / Congos
リー・ペリー・プロデュース作の、というよりも全レゲエ史における最高傑作アルバムの一つに数え上げてもいい作品がこの『Heart of the Congos』だ。 正直、リー・ペリーを聴き出したのはこのアルバムと出会う為だったのではないかとすら思ったほどだ。朝露のように爽やかで瑞々しいヴォーカル、天の高みへと上がってゆくかのようなハーモニー、山脈を取り巻く雲海のように冷厳かつ神々しく響き渡るサウンド、これら全てが奇跡のように融合し、高い精神性を感じさせる素晴らしいアルバムとして完成している。一般には下のアルバムジャケットの作品が流通しているが、余裕があるなら上のアマゾンリンクで紹介している音質の優れたリマスター2枚組をお勧めしたい。
■Police & Thieves / Junior Murvin
- アーティスト: ジュニア・マーヴィン,ジュニア・マーヴィン feat.ディリンジャー
- 出版社/メーカー: ユニバーサル インターナショナル
- 発売日: 2004/06/23
- メディア: CD
- 購入: 1人 クリック: 3回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
UKパンクバンド・クラッシュのリメイクでも知られる作品だが、このアルバムもまたリー・ペリーが生み出したレゲエ・マスターピースと言い切っていい名作中の名作だ。硬質なファルセット・ヴォイスにペリーのトレードマークである幻惑的なハイハットが延々と絡み付き、強烈なドラッグのように脳を駆け巡り神経を痺れさせる極上のブツとして完成した音なのだ。ハイテクを駆使した最新のクラブ・ミュージックすら太刀打ちできない素晴らしい覚醒と酩酊状態を生み出すこの音こそがまさにペリー・マジックだ。タイトル曲はなにしろ有名曲だが、アルバム一枚聴き通した時こそそのサウンドの素晴らしさと凄みを実感できる。レゲエ最強。
■Party Time / The Heptones
随分昔レコード店で視聴しその浮遊感溢れるサウンドに魅せられ即購入したアルバムだったが、つい最近これがリー・ペリー・プロデュース作と知りびっくりしたやら深く頷けたやら。アルバム自体はロック・ステディ期のThe Heptonesサウンドをブラックアーク期のペリーが再び蘇らせたものなのらしい。曲はどれも親しみやすく有線でよく掛かっているのを聴くこともあるが、このアルバムもまた実はレゲエ史に残る傑作であり、もちろん傑作ペリー・プロデュース作であることは間違いない。
■War In A Babylon / Max Romeo
これもペリー・プロデュース作としてもルーツ・レゲエ作品としても有名なアルバムだ。ジャケットやタイトルからシリアスなものを想像させるがどうしてどうして、レゲエ特有のユーモラスな曲も多く、ペリーは徹底的に裏方に回って実に多彩な音の数々を披露してくれる。
Max Romeo - War Ina Babylon (Álbum Completo)
■African Herbsman / Bob Marley & Wailers
レゲエ界におけるカリスマ・アーチスト、ボブ・マーリー。実は彼を発掘しレゲエ・シンガーとして生きる道しるべを示したのがかのリー・ペリーであることを、 ペリー・サウンドをよく聴くようになってから初めて知った。いわゆる全世界メジャー・レーベルからヒット・アルバムを出しまくる以前のボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズのサウンドの幾つかは、リー・ペリーによってプロデュースされていたのだ。そしてこのアルバムは60~70年代の、ペリーとマーリー&ウェイラーズの音源をコンピレーションした作品であり、ボブ・マーリーの後のメジャー・アルバムに収められることになる曲の原型が目白押しとなっている。
Bob Marley and The Wailers - Lively Up Yourself (1973)
■Colombia Colly / Jah Lion
コロンビア・コリーというアーチスト名が冠されているが、むしろリー・ペリーのブラックアーク期以前のオケにコロンビア・コリーのデージェイを乗せた、いわば共同制作的アルバムであり、リー・ペリーのダブ・ミックス作品として楽しむことも可能だ。ペリーの初めてのデージェイ作品でもある。
■Ital Corner / Prince Jazzbo
こちらは上記Jah Lionとは違い、ブラックアーク期のペリーサウンドにPrince Jazzboのトーストを織り込んだサウンドとして製作されたものだ。その為より音は重く混沌としてドラッギーな凄味を兼ね備えている。
■Original Guerilla Music / Junior Delgado
このアルバムにおいてはペリー・ プロデュースは全16曲中5曲。他はJunior Delgado自身の他、Augustus Pablo、Dennis Brown、Sly & Robbie、Earl "Chinna" Smith、Prince Jammyが務めており、ペリー・プロデュース作と同時にこの多彩かつ豪華なプロデュース面子を楽しむことのできるレゲエ・アルバムだ。
Junior Delgado - Sons of Slaves (Official Audio)
■Best Dressed Chicken in Town / Dr. Alimantado
あのジョニー・ライドンもお気に入りだったというジャマイカのルード・ボーイ、Dr. Alimantado。オレも数十年前このアルバムを聴き、そのカオスなミックスとかっ飛びまくったヴォーカル・センスに狂喜乱舞し、非常にお気に入りのアルバムだった。そして最近になり、このアルバムの幾つかの曲(4曲)がやはり!あのリー・ペリー御大の手によるものだと知り、「オレは既に数十年前からペリーさんの洗礼を受けていたのか」と驚愕した!
Dr Alimantado Best Dressed Chicken - 1978
■Love Thy Neighbour / Ras Michael And The Sons Of Negus
- アーティスト: Ras Michael And The Sons Of Negus
- 出版社/メーカー: Live & Learn Records
- 発売日: 2006/09/26
- メディア: MP3 ダウンロード
- この商品を含むブログを見る
「ラスタ」「ラスタ・カラー」といった言葉でも知られるラスタファリアニズムとは、ジャマイカの宗教運動を指す言葉である。説明は省くがレゲエ・ミュージックでよく耳にする「ハイレセラッセ」「エチオピア」「マーカス・ガーベイ」といった言葉はラスタファリアニズムのひとつのキーワードなのだ。そのラスタファリアンたちが集う集会で鳴らされる音楽をナイアビンギ音楽といい、これはラスタたちの讃美歌の如き役割を担っている。そのナイアビンギ・アーチスト、Ras Michael And The Sons Of Negusのサウンドをペリーがプロデュースしたのがこのアルバムだ。そして、ペリーの手にかかるとこのナイアビンギがひたすら幽玄なサウンドとして鳴り響き、ここでもペリーの類稀な手腕を思い知らされるのだ。
■Super Eight / George Faith
George FaithのUKアイランドからリリースされたアルバム『To Be A Lover』は3000枚限定発売の入手困難盤で現在相当のプレミアが付いているが(現在Amazonで¥8825)、曲順・曲数の違うこのジャマイカ盤『Super Eight』は普通に安価に中古版が手に入る。1曲少ないぐらいなら安い方がいいやと思いこちらを購入。作品的には優れた曲・退屈な曲半々で、優れた曲の多くはペリーのコンピにほぼほぼ入っているから高額なプレミア盤を購入する必要はないだろう。