【海外アニメを観よう・その6】クレイ・アニメ『ウォレスとグルミット ベーカリー街の悪夢』、ジョージ・オーウェル原作『動物農場』

ウォレスとグルミット ベーカリー街の悪夢 (監督:ニック・パーク 2008年イギリス映画)

ウォレスとグルミット ベーカリー街の悪夢 [DVD]

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パン屋「トップ・バン」を始めたウォレスとグルミット。ふっくら焼けた美味しそうなパンを配達してまわります。でもよく見ると、働いているのは、やっぱりグルミットばかり?!ウォレスは、街で出会ったかつてのCM女優パイエラ・ベークウェルに恋をして、仕事に熱が入らない様子です。おまけに、街で起こっている「パン屋さん連続殺人事件」の犯人にウォレスが狙われていることを知ったグルミットは、あの手この手で主人を救おうとします。それでも能天気なウォレスはまったく気づいてくれません。はたして、グルミットはウォレスを救うことができるのでしょうか?

粘土で作った人形を動かすクレイアニメ、子供番組やTVCMで結構目にしますが、粘土で作られた造型の丸っこさや温かみが親しみやすさを生んでいますよね。粘土って殆どの人が子供の頃学校で触ったことがあるでしょうから、クレイアニメを観る時に、粘土のグニョグニョした感触を頭の隅で思い出して、それでちょっと懐かしい気分が蘇って来たりしているかもしれませんね。この『ウォレスとグルミット ベーカリー街の悪夢』はイギリスの有名アニメーション製作スタジオ、アードマン・アニメーションズで製作されている「ウォレスとグルミット・シリーズ」の一篇ですが、イギリスでTV放送されたときは視聴率が58%に達したという物凄い人気のあるシリーズらしいんですね。らしい、とか書いてますが実はオレ、この「ウォレスとグルミット・シリーズ」を観たのが今回が初めてで、「まあ普通にお子様向のアニメなのかなあ」なんて思ってたんですよ。しかし観てみると、確かに子供たちも楽しめる作品であると同時に、実にイギリスらしいブラックなウィットが盛り込まれていて、想像していたものと一味違った出来なんですよね。だいたい今作のテーマなんて連続殺人ですよ!?犯人の歪んだ心情とか普通に怖いですよ!?ラストだってあれ絶対残酷だし!あとDVDには他にも短篇が収録されていてこれも面白いんですが、ウォレスって実は発明家って設定なのに大ボケで、グルミットの方が人間さまよりも賢いんだよなあ。人間のウォレスが基本何もしないで、その分飼い犬のグルミットがなんでもかんでもやる羽目になっている、というシチュエーションも、どことなく情けなくて可笑しいですね。

動物農場 (監督:ジョン・ハラス&ジョイ・バチュラー 1954年イギリス映画)

動物農場 [DVD]

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残忍で無能な農場主に虐げられてきた動物たちは、2匹の有能な豚スノーボールとナポレオンをリーダーとして革命を起こす。「すべての動物は平等である」という理想を掲げ、人間を追放し、自ら農場経営に乗り出す。順調に滑り出したかに見えた「動物農場」だったが、幸せな日々は数ヶ月しか続かなかった…。

ジョージ・オーウェル原作の『動物農場』をアニメ化した作品である。原作は1945年刊行、アニメ化が9年後の1954年となるが、こういったアニメ化が成されているということを考えると、当時ジョージ・オーウェルというのは結構注目を浴びていた売れっ子作家だったという事が言えるのだろうか。ちなみにあの『1984年』は1949年に刊行されている。物語は農場主に虐げられ続けてきた動物たちの武装蜂起と革命、動物コミュニズム政権の樹立、平等を掲げたスローガンによる労働と利益の再分配、忍び寄る全体主義の腐敗、警察国家による独裁、圧政、弾圧、そして虐げられたものの新たな反乱…という、人間の歴史の中に幾らでもその例を見出すことが出来るような歪んだ社会体制を動物たちになぞらえた風刺ドラマとなっている。自分は原作を読んでいないのだが、動物になぞらえたドラマであり、しかもアニメーションという表現形態であるにもかかわらず、この作品は想像以上におぞましく薄気味悪いものとして完成していた。豚たちによる独裁政権の絵的な醜さはもとより、為政者の都合により玉虫色に変わり続けるスローガン、行き過ぎた労働目標を愚直に信じ続け奴隷のように働かされた挙げ句疲弊し廃物となる労働者たち、権力者の走狗である獰猛な犬たちによる恐怖と暴力に満ちた制裁行為、これらが非情な語り口で描かれてゆくのだ。さらにこの物語では不平分子の粛清と処刑は言うに及ばず、障害を持った動物を死の工場へ売買するさままで描かれ唖然とさせられた。登場する動物たちは体形こそアニメ的なデフォルメはされているもののどの動物も三白眼の目をさらに三角にさせ、その目に憎悪と絶望と傲慢の光を爛々と輝かす。ただしアニメ本来の魅力である動きとそのリズムは決してお座なりにされることなく、普通に描けばイデオロギッシュな臭いが鼻に付くかもしれない物語をひとつの寓話として巧みにまとめている。独裁政権転覆を成しえる映画のラストは原作とは違うものらしいが、どちらにしろ今後現れるだろう新しい体制が同じ轍を踏むかもしれないという事を考えると、歴史は繰り返すだけだという悲観的で寒々しい結末ととらえることができるかもしれない。ちなみにナレーション担当の俳優・モーリス・デナムはこの映画に登場する全ての動物の台詞と鳴き声をも務めている。

動物農場―おとぎばなし (岩波文庫)

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一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

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