ナイト・ミュージアム (監督:ショーン・レヴィ 2006年 アメリカ映画)

オレは映画館では鬼のようなマナー奉行と化す男である。お喋りなぞもってのほか。菓子食う音もケータイのライトも悪鬼の形相で「ふが!」とか「ぐげ!」などと呻いて威嚇し相手に「映画館なんだよココは?アニやってんだよチミは?気ィ散らせないでくれよ?ハン?」という態度を断固として押し通すような男なのである。その情け容赦の無い冷徹振りはあたかもゴルゴ13の如しである。ただしそれは映画にもよる。もとから爆発音けたたましいアクションや場内がいつも爆笑に包まれているようなコメディなら小さい音なんぞ気にならないから容赦もするのである。サスペンスや人間ドラマなど静かな場面の多い集中力の要る映画の時に逆上するのだ。ただ問題は”子供が来る割合の多い映画”である。それは子供が映画館慣れしてるかどうか?によるのだ。はなっから子供向けのアニメなら子供がわあわあ騒ぐのは如何ともし難い。大人がそれを観に行く時はそういうものだと覚悟するべきなのだ。しかしそうではない、子供も見られるが大人も鑑賞できるような映画を観に行った時が辛いのである。

上映まではぺちゃくちゃ喋っているような子供でも映画が始まるときちんと口を閉じる。それはマナーがどうこうではなくて子供達も映画に集中しているからだ。しかしこれが乳幼児に毛が生えた程度の子供だと問題である。連れて来た親御さんは子供に楽しんで貰いたくて映画館に連れて来たのだろうが、子供のほうはなんだかよく判っちゃ居ないのである。で、ぐずり始める。鬱陶しい。だがなんだか判っちゃ居ないんだから子供にモノ言ってもしょうがない。一方、親御さんのほうは、ぐずる子供の面倒を見なければいけないので折角料金を払って入場してきた映画をまともに観る事もできない。多分まわりに迷惑が掛かっている事も判っているのだろう。こうなるともう他人の家庭の事情が見えてきて、ああだこうだ言うのが気の毒になってくる。でも五月蝿い。しょうがないから我慢する。そしてオレの払った入場料はどうしてくれるんだ、などとセコイことを胸の中でグチグチ言いながら、映画はどんどん過ぎていくのである。

さて今回の映画は『ナイト・ミュージアム』である。しかも吹き替え版である。客層としては子供や子供連れの家族が多い。どちらかと言えば子供向けかもしれない。微妙である。そしてこの映画を観ていたオレの隣の席にパパ&ママ&お子チャマのご家族連れが座ったのであるが、このお子チャマというのが映画始まった途端ぐずるぐずる。そしてそのぐずるお子チャマをなだめようと優しいパパがずっと猫なで声でひそひそ喋りかける。オレはあーあ、しゃーねーか、と諦め加減である。映画が佳境に入るとCGアニメのキャラクターが動き回るんだが、今度はお子チャマ、「こわいヨォーこわいヨォー」と泣き始める。パパは「大丈夫だヨォー大丈夫だヨォー」と子供に応える。そしてオレはというと、ああ…いい大人のクセにこんな映画を観に来るオレが間違ってたんだ、駄目だ駄目だオレは駄目なヤツなんだあああ、と何故か自分で自分を責め始める。泣く様な映画じゃないのに既にオレ、涙目である。

そのような半ば精神的な修羅場と化していたオレであったが、流石に隣の家族連れの皆さんは途中で席を立ってしまわれた。やっぱり気の毒である。今度はドラえもんとかポケモンを観に連れて行ってあげるとよいであろう。さて安心して映画の続きを…と思っていたら今度は反対隣のオッサンの様子がおかしい。いや、このオレもオッサンなのだからオッサンがオッサンをオッサン呼ばわりするのは所謂同族嫌悪というのに当たり、目くそ鼻くそと同義なのだろうが、兎に角このオッサンはオッサンなのである。さてこのオッサン、ストーリーが盛り上がる度に「むふっ!むふっ!」などと笑いとも呻きとも付かない声を上げると、膝の上に置いていたショルダーバッグのベルトをむんずとばかりに掴み上げ、ピンピンピン!と伸ばしたり縮めたりするという意味不明のアクションを何度も何度も繰り返すのである。それは何か類人猿が他の種族の類人猿を威嚇しているかのような動作なのである。しかも空調のよく効いた映画館なのに額から汗をダラダラ垂らしているではないか。怖い。オレは怖い。

しかしオレも負けてばかりもいられない。隣で”ショルダーベルトをピンピンピン!と伸ばしたり縮めたり”しているオッサンをちょっとばかし睨んでみたのである。すると、あ、動きが止まった。どうやら自分が人間社会に帰属しているのは意識しているらしい。アブナイ人というわけでもなさそうだ。これで暫くは大丈夫だろう、と映画に集中しているとまた隣でガサゴソ音がするではないか!見るとオッサンがショルダーベルトに手を伸ばしている!興奮してきたしるしだ!ヤバイ、と思ってもう一度オッサンを睨みつけるオレ!するとオッサン、ピタッと手を止める!やた!と思ったのも束の間、よくよくオッサンの手元を見ると、”ショルダーベルトをピンピンピン!と伸ばしたり縮めたり”したくて堪らなさそうに指がヒクヒク動いているではないか!ううう…怖い…。やっぱりオレは怖い…。

とまあ、『ナイト・ミュージアム』はそんな映画でありました。『ジュマンジ』とか『ザスーラ』とか好きな人は楽しめると思うよ!オレもあの二つは結構好きだったな!

■Night at the Museum Trailer