《マスターズ・オブ・ホラー!④》三上崇史篇

4回にわたって紹介してきた《マスターズ・オブ・ホラー!》シリーズ、今回が最後になります。とりを勤めるのは放送禁止で物議を醸し出した『インプリント〜ぼっけえ、きょうてえ〜(監督:三上崇史)』です。


■インプリント〜ぼっけえ、きょうてえ〜 監督:三上崇史妖怪大戦争 着信アリ

もともと米国ケーブルTVでのシリーズものだったこの『マスターズ・オブ・ホラー』だが、あまりの残酷さからTV公開を見送られた、というある意味ホラー映画の勲章ともいえる曰くの付いたこの作品は、日本人監督・三上崇史によるもの。原作は岩井志麻子、そして主演は工藤夕貴、ビリー・ドラコ。岩井志麻子さんもコワーイおばさんの役でちょっと出演しています。これが結構ハマっていて…。
舞台は日本の明治中期、どことも知れぬ沼の中に建つ遊郭。ここにアメリカ人ライターの男がある女を探して訪れる…というもの。三上監督作品は『妖怪大戦争』を観たことがありますが非常に傑作だったのを憶えています。作風はちょっと掴めないんですが、この『インプリント〜ぼっけえ、きょうてえ〜』も期待に違わずなかなかの良作でした。
物語は日本の土着的な陰惨さをこれでもかと描いたおどろおどろしい作品。人里離れたあばら家で乞食同然の暮らしをしながら堕胎稼業を営む男女が近親相姦の兄弟で…とか、女郎屋で行われる身の毛もよだつような拷問行為など、アメリカで放送禁止になったのも頷ける様な内容です。まあしかしああいう物語って子供の頃にジョージ秋山あたりのマンガで散々読んでいたから、オレ自身は特にびっくりもしませんでしたが。拷問は針を爪の間に刺してゆくというもので、これも案外オーソドックスな拷問かと。いやあ、この間『ホステル』観てるし、まだまだ大人しいもんっすよ!拷問といえばオレが今まで小説などで読んで一番感心した拷問方法は、体中の関節を全部外してゆき、それをまた繋ぐ、というのを何度も繰り返すという拷問。大抵は気が狂うとか。
さてこれだけ凄惨な物語なのに楽しめたのは映像が美しかったからということでしょう。女郎達の髪が真っ赤に染められていたり外国人が解釈した様な奇妙な和服を着ていたりと、割とビジュアルで自由なことをやっているんです。それらはリアルさはないにしても異様な世界を形作るハッタリとしては生きているんですね。だから暗澹たる物語なのに画面はカラフル。噴き出す鮮血の赤い色さえ美しい。あばら家の川向こうに何本も立つ風車の廻る様がまた美しい。いや、勿論、グログロゲロゲロなあんなものやこんなものも出てきますが。これらのビジュアルが物語を有り得ない世界を舞台にしたダークなファンタジーのような様子に見せるんです。そこにはアメリカ人ライター役のビリー・ドラコの存在が、日本であるはずの舞台を異化しているというのもあるだろうし、おぞましい過去を語る女郎役の工藤夕貴が、特殊メイクの醜く歪んだ顔の女である、というのもあるでしょう。恐ろしくそしてグロテスクな物語ではありますが、女郎として生きる女達の哀感に満ちた深い情緒も感じさせます。