ふたりジャネット/テリー・ビッスン (河出書房新社)

ふたりジャネット (奇想コレクション)

ふたりジャネット (奇想コレクション)

知ってる人はとっくに知っている、河出書房の奇想コレクション。初めて手に取ったんですが…ううう、面白すぎる。何で今まで読まなかったんだろう、ってぐらい面白かったです!
奇想コレクション」は『ミステリ、SF、ファンタジー、ホラー、現代文学のジャンルを超えて、「すこし不思議な物語」の名作を作家別に編集した』というだけあって、ラインナップが面白い。その作家陣にはダン・シモンズシオドア・スタージョンエドモンド・ハミルトン(フェッセンデンの宇宙!)、そしてアルフレッド・ベスターというかつてのSF少年には甘酸っぱい思い出の篭った名前が詰まったラインナップだが、それぞれSF主流ではなく前述のようないわゆる異色短編を編集してあるようだ。そして一番目を惹くのはソフトカバーの装丁と松尾たいこ氏によるキュートな表紙絵だろう。この表紙絵には賛否両論あるようだが、編集者の「マニアだけの短編集にしたくない」「女性にも読んでもらいたい」という意図がSFっぽくないカジュアルな表紙に現われているんだと思う。そしてそれは正解なんじゃないだろうか。
この短編集の作者、テリー・ビッスンについては何も知らないのだが、編集者あとがきにある『南部のおじさんがはなしてくれた(ほら)話』というイメージが全てを表現しているような気がする。ちょっとした温かみと、幾らなんでもそりゃ嘘でしょ!と思いつつ人柄の良さに惹かれてついつい聞き入ってしまう、という雰囲気の物語。編集者はここでSFとアメリカ南部のホラ話の歴史を考察して、SFのルーツをアメリカ南部のトール・テールに見出している所が興味深い。確かにエドガー・アラン・ポーマーク・トウェイン等の名前を見るとそんな気がする。たしかラブクラフトも南部出身だった。
さて内容だが、短編集巻頭の作品、「熊が火を発見する」がなにしろ超ラブリー!ヒューゴー、ネビュラ、ローカス賞を始め、ディヴィス読者賞、スタージョン記念賞の5冠に輝くファンタジーの傑作だ。車座になって火にあたる物静かな熊達、という絵を想像しただけでもう胸いっぱいです。クマー!!
イギリスが島ごと大西洋を航海し始める、「英国航行中」もシチュエーションの突飛さとは裏腹な妙にのんびりしたハートウォーミングな物語で、どう読んだってホラ話なんだけど、このチャーミングな雰囲気がナイス!「未来からきたふたり組」はオトボケ未来人と主人公の女流画家のコメディチックなやり取りが面白い。そしてキュートなラスト。
そして何より楽しかったのはもと弁護士の《おれ》とマッドな雰囲気をプンプンさせた《万能中国人ウィルソン・ウー》の活躍する「穴の中の穴」「宇宙のはずれ」「時間通りに教会へ」の連作短編。なにしろ空間転移は起り時間は逆流し宇宙はもう一つの宇宙を孕む、という超ハードなSFテーマを『のほほん』と解決してしまう、《万能中国人ウィルソン・ウー》のインチキ臭い科学解説とインチキとしか思えない数式の羅列が可笑しい&楽しい!!こんなに“物語”をワクワクして読んだのは久しぶりなような気がする。なんかこのシリーズはずっと続けて欲しいなあ。
という、キュート、ラブリー、チャーミング、ナイス、というベタ褒めまくりの1冊です。皆さんも是非ドーゾ。