最近聴いたエレクトロニック・ミュージックなどなど

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Jayda G 

DJ-Kicks: Jayda G / Jayda G 

人気DJ MIXシリーズDJ-Kicksの最新作はカナダの新進DJ/プロデューサー、Jayda Gが担当。ソウル、ファンク、ディスコ、ハウスを絶妙なチョイスとモダンなセンスで散りばめ、マイルドであると同時に非常に刺激的なテイストを持ったMixに仕上げている。今回のお勧め。 

 

DJ-Kicks: Special Request / Special Request 

今年3月にリリースされたDJ-Kicksシリーズの担当はUKベース・シーンで注目を集めるポール・ウールフォードことSpecial Request。ゆったりとしたテックハウスからエレクトロ、そこから徐々にハードなドラムンベースへと盛り上がってゆくダイナミックなMixを聴かせてくれる。 

 

DJ-Kicks: Seth Troxler / Seth Troxler 

DJ-Kicks

 2015年にリリースされたDJ-Kicksシリーズ、Mixを務めるのはデトロイト/ベルリン・テクノサウンドの融合を目指す若き才能Seth Troxler。ピアノ曲から始まりビートダウン、ディープハウス、シカゴハウスと繋ぎながらグルーヴィーな展開を見せる1作。

 

Boser Herbst / Thomas Fehlmann 

Boser Herbst

Boser Herbst

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The Orbとしての活動やMoritz von Oswaldとのコラボで知られる電子音楽界の巨匠 Thomas Fehlmann。今回KompaktレーベルからリリースしたニューアルバムはドイツのTVドラマのサントラとして製作されたもので、ダビーでミニマルな音の展開は雄大サウンドスケープを垣間見せてくれる。今回のお勧め。 

 

Wrestling / KUČKA

Wrestling

Wrestling

  • LuckyMe
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LAで活動するDJ/プロデューサーKUČKAのデビューアルバム。ミディアム~スローテンポで構成された楽曲の数々は線の細さは感じるがとてもよく練り上げられたエレクトロ・ポップ作品で、エモーショナル過ぎないニュートラルなヴォーカルがまた心地よい。 

 

Mono No Aware / Various Artists  

エレクトロニック/エクスペリメンタル作品を中心にリリースしてきたPANレーベルからリリースされた初のコンピレーション・アルバム。全体的に冷ややかでメランコリックな印象を残すアンビエント/ミュージックコンクレート作品で構成されている。

 

Ecstatic Computation / Caterina Barbieri 

Caterina Barbieriはベルリンで活躍するイタリア出身の電子音楽家/サウンドアーティスト。このニューアルバムではモジュラーシンセを駆使した荘厳なミニマルサウンドを展開している。

 

Blush / Facta

Blush

Blush

  • Wisdom Teeth
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UK「Wisdom Teeth」レーベル主催のとOscar HensonとK-Lone”によるユニットFactaのデビューアルバム。朝露のように透明で清浄感に溢れるアンビエントハウス・アルバム。

 

Inner Being / The Newcomer

Inner Being

Inner Being

  • Astro Nautico
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2019年にNYのAstro NauticoレーベルからリリースされたThe Newcomerのアルバム。硬質な音の粒子が飛び交うエクスペリメンタルな1作。 

 

PSYCHIC LIVE JULY 17 2014 / DARKSIDE  

f:id:globalhead:20210529180420j:plain DARKSIDE - PSYCHIC LIVE JULY 17 2014. Bleep.

2014年に解散したエレクトロニック・ミュージック・デュオDarksideのベルギーにおけるパフォーマンスを収録したライヴアルバム。エレクトロニック・ミュージック、サイケデリック・ロック、ダンス フロア・テクノのハイブリッドともいえるプログレッシブなサウンドが展開する。

 

Union and Return / Torn Hawk 

Union and Return

Union and Return

  • Mexican Summer
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映像作家としても知られるUSアンダーグラウンド・ギタリスト、Torn Hawkの3rdアルバム。華やかでロマンチックなメロディーとシンフォニックなサウンド構成の上にアンビエントなギターがたゆたってゆく。 

 

アオってんじゃねえェ!/ 映画『アオラレ』

アオラレ (監督:デリック・ボルテ 2020年アメリカ映画)

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タチの悪いおっさんに延々あおり運転された挙句、命まで奪われそうになる!?というスリラー映画『アオラレ』でございます。タチの悪いおっさん役をオスカー俳優ラッセル・クロウ、アオラレてイヤーンな目に遭っちゃう女性を『移動都市 モータル・エンジン』のカレン・ピストリアスが演じています。監督デリック・ボルテは『レッド・バレッツ』「幸せでお金が帰るわけ」などの作品があるようですな。

《物語》主人公レイチェルは車で職場に向かう途中渋滞に巻き込まれ、気が立っていた所を青信号でも動かない前の車にクラクションを鳴らしてしまう。するとその車はレイチェルを執拗に追い掛け回しはじめ、一時は巻いたもののガソリンスタンドに立ち寄った際に追いつかれ携帯電話を奪われる。レイチェルの車には男の携帯が置かれており、男から電話が入る。「お前の個人情報は全て知った。これからお前の知合いを次々に殺し回ってやる」そう、このおっさん、心底イカレたサイコパス野郎だったのだ!?そしてレイチェルとおっさんとの地獄の追跡劇が始まる!

車を運転していたらイカレたドライバーに目を付けられ延々追い掛け回されるスリラー映画と言えばスピルバーグ監督の出世作『激突!』が特に有名でしょう。こういったキ印野郎に追い掛け回される同行異曲の作品はあれこれあり、『激突!』に影響を受けたという『ロードキラー』や『ブレーキダウン』、それに『ヒッチャー』あたりもこの範疇に入るかもしれません。ついイライラしがちな道路状況、車という孤独な密閉空間、隣の車が何をしでかすか分からないというパラノイアなどがこういった作品を生みヒットさせているのでしょう。

実はこの作品に登場するイカレたおっさん、被害妄想の固まりみたいな男な上に、別れた女房を殺してきたばかりの殺人者で、「もう何もかもどうでもいいんだああああ!」とすっかり自暴自棄になっており、その挙句に「無敵の人」になっちゃった!という経緯があるんですな。物語ではあおり運転するだけではなく主人公の知合いを次々に襲っては殺してゆき、もはやジェイソンやブギーマン状態のサイコパスシリアルキラーです!

しかし『激突!』やこれらホラー映画と違うのは、このおっさんが「死」を具現化した象徴的だったり超自然的だったりする存在なのではなく、「相当イカレてはいるがあくまでもその辺のおっさん」という、具体的で現実的な生身の存在であるということなんです。

つまりこの作品は車を運転する者なら誰もが遭遇したことがあるに違いない「あおり運転」を切っ掛けとして、さらにその先に待つかもしれない事態を描くことにより、非常に現実性を帯びた恐怖を生み出すことに成功しているんですね。ここまでイカレたおっさんはそうそういないかもしれませんが、実際あおり運転による死亡事故は多数起きていて、この作品はそれにフィクショナルな肉付けをしたものだといえるのですよ。「こんなキチガイがすぐそばにいるかもしれない」、それがこの作品の怖さであり面白さだと言えるでしょう。

まあしかし、それにしても主人公レイチェル、寝坊し過ぎだし、スマホに暗証番号掛けないし、バッグの中も車の中も整理つかないほど乱雑だし、メンドクセエヤツに出遭ったら適当にやり過ごすべきだし、離婚協議中という家庭の事情はあるにせよ、あれこれ迂闊過ぎたのも確か。たいがいのトラブルってこういった迂闊さのせいで起こったりするものなので、日ごろの注意が必要だなあとちと思わされました。

ところでオレ、この作品の予告編を観たとき、「お、ラッセル・クロウが出てる!セクハラ事件で映画界干されたらしいけど復活したんだな!是非観なきゃ!」と思っちゃったんですが、皆さんお気づきのように、ホントのところラッセル・クロウはセクハラ事件なんか起こしていないんですね。実はオレ、ケヴィン・スペイシーラッセル・クロウを混同していたんですね……。ラッセル・クロウ並びにファンの皆様、大変失礼いたしました……(ケヴィン・スペイシーは現在ヨーロッパ映画で復活しそうだということです)。 

今日も日記を書いてみる

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Photo by Park Troopers on Unsplash

今日は特にやらねばならぬこともない一日ではあったが、天気もいいので朝から布団干しをばすることにした。それにしてもオレの布団、相当ヘタッてきており煎餅布団状態であり、寝心地もあまりよくないのでそろそろ買い替え時かなあと思っている。掛布団にしてもあまり暖かくなく冬場はどうも具合が悪いので、奮発して羽毛布団でも買おうか画策中だ。それなので今年の夏のボーナスの一部は布団購入代に充てる予定としている。

布団干しと同時に部屋の座布団もカバーを洗い本体も日干しにした。座布団と言っても別に来客があるような人間ではないので、主にクッション代わりになっている。すなわちソファに寝っ転がっている時の枕代わりである。フローリングの床にはラグが敷いてあるが、そこに座布団敷いて座ったりしているのは本末転倒なのか。まあいい。

あれこれ日干ししながら恐ろしく簡単に部屋の掃除をし、シャツとズボンにアイロンを掛け、ブログの下書きを1個だけ書き(これがまた無意味に時間が掛かった)、もういい加減飽きたので適当に止め、なんとなく時間が空いたのでボケッとしておった。なんにもやることのない休日はいいものだな。

こうした一連のアクションの最中、オレはずっと部屋に音楽を流しっぱなしにしている。居間や台所にいるときはミニコンポでCDやUSBに入れたMP3音源を再生し、パソコン作業(つまりブログ書き)しているときは、パソコンは寝室に置いてあるのだが、パソコンHDに山ほど突っ込まれた音源を流している。音楽好きなんですね、と思われるかもしれないが、これら音楽はなにか作業をしているときに雑念を払うために流されているのだ。雑念、というのは、かったりーとかめんどくせえ、といった類の感情のことである。

そして不思議なもので、ある程度集中し始めると音楽が耳に入っていなかったりするのだ。アルバム1枚再生が終わって音楽が止まっても気付かずずっとパソコン作業を続けていたりする。以前、部屋にいるのに宅急便が不在通知で入っていることが複数回あったので「ちゃんとドアチャイム鳴らしました?」とドライバーに詰め寄ってしまったことがあった。その後、どうやらオレは集中しているときドアチャイムの音すら聞こえていないということに気が付いた。あの時はドライバーのせいにして悪かったと思い、その時の担当ではないだろうが、別の宅配便が来たときに平謝りしたことがあった。

部屋にずっといると煙草ばかり吸ってしまい、流石に胃の調子が悪くなり、今は漢方薬を飲んでいる。飲みすぎ食べ過ぎやそれによる胃酸過多の時はよくある胃薬で対処できるのだが、煙草による胃の痛みには漢方薬のほうが効く。飲んでいるのは「半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)」という漢方薬で、これは「ストレスによる神経性胃炎」に効果があるとされている。煙草は胃壁を緊張させるので、ある意味ストレスと言え、それに効用があるようだ。実際あっという間に効いてくる。

まあ煙草を控えるのが一番なのだが、なかなか止められないのだよなあ。というか止める気があまりないのが一番の問題なのだが。キッツイ仕事やり終えたあとの一服とかたまんないんだよねえ。それとかブログ書いてるとき延々吸っていたりするので、多分オレはブログ書きで命を縮めているのだという気がする。つまり命を削って書いているブログなのだが、なぜそこまでするのかは自分でも不明である。

というか、「ちょっと時間が空いたからブログでも書くか」という思考形態していること自体が何か根本的におかしい、狂っている、という気はずっとしている。実際書くのが好きなんだな。書くのが好きな人らしい、ということは読んでいる方にも伝わっているようで、以前「ライターとか目指さないんですか?」と聞かれたことがあったが、ライターとは文章に対し一定レベルのクオリティと責任を持ちそれに見合ったギャラを貰って物事を書く人で、オレは特に誰にも責任を負う事もなく気楽に適当に書くのが好きなだけだから、こんなもんを職業にしたいなどとはこれまで一度も思った事はない。ライターレベルの文章でもないしな。 

たまには普通の日記を書く

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Photo by sendi gibran on Unsplash

たまには普通の日記を書くのである。

今日は朝もはよから映画館へ出かけ映画『アオラレ』を観てきた。なかなか面白かったぜよ。レヴューも書いたので月曜に更新予定。映画が終わってもまだ昼前だったので、スーパーに寄って晩飯の食材を揃える。ついでにユニクロに寄って靴下4足990円セットを購入。ところでオレは大昔から靴下は黒しか履かないしパンツも黒のみである。そしてアンダーウェアとして着るTシャツは白のみ。こだわりというわけではなく、全て同じ色だと選ぶ必要もなく着るとき何も考えなくていいので楽なのである。それに靴下はどれがほころびても同じ色ばかりだからすぐペアが作れる。

家に一旦着いてから昨日の晩洗濯した洗濯物を取り込み、今度はシーツを洗濯する。洗濯機が回っている間にクリーニング屋に行って冬物の上着の最後の3着をクリーニングに出す。これで冬物衣類は全部片付いた。今日もなかなか気温が高く5月だというのに25度を超えているようで、街ではTシャツの人も多かったが、オレはまだTシャツ一枚で歩くのは我慢している。なぜなら今からTシャツだけにしちゃうと6月から9月あたりまで4ヶ月Tシャツ生活といういうことになり、飽きるからである。

今も職場には長袖シャツ1枚かそれに薄手のジャケットを羽織るという格好で出勤している(現場作業員なのでリモートは勿論無いし背広も着る必要がない)。半袖シャツをいつごろから導入するかが悩みどころである。クリーニング屋の帰りにマツモトキヨシで石鹸3個セットを買い、その足でスーパーで昼飯用の弁当(ドライカレー300円)を買う。土日の朝昼は本当に簡単なものしか食べない。パンか麺類、今日みたいな安い弁当を買ったりとか。その代わり晩飯はきちんと摂る。

昼めし食いながらサブスクの映画でも観ようと思ったが、この間途中まで観た映画のタイトルが思い出せず、また履歴にも残っていない。そもそもオレんちはアマプラとネトフリとフールーの3つが観られるのだが、3つのサブスクを行ったり来たりしているだけで時間が浪費されてしまう。そんなこんなでリモコンを弄っている間に昼飯も食い終わってしまった。

その後はパソコン前に陣取ってブログの下書き2本やっつける。たいした内容のあることは書かない(書けない)のに文章だけは無駄に長いのでこれでも毎回書くのに時間が掛かる。終わったのが5時ごろでその後シャワーを浴びる。今日は暑かったので部屋中の窓を開け放していたが、それでも部屋の温度はあまり下がらなかったような気がする。パソコンの前にいたからか。なかなかに汗臭かった。

晩飯の下ごしらえを終えてこの日記を書きはじめ、なんとなく適当な形になったからこの辺で止めることにする。あとは飯食ってビール飲むだけである。晩に観る映画を何にするのか未だ悩んでいる。オレは晩酌の最中に映画を観るのが好きなのだが、映画を観るときは何も食べない派の方もいるのらしい。そのほうが正しいだろう。なぜなら酒飲んで映画観ていると酔っぱらって最後のほうの記憶がなかったりすることがしょっちゅうだからである。

静謐なる”無” / 佐藤健寿の『奇界遺産 3』

奇界遺産 3 / 佐藤健寿

奇界遺産3

『奇界遺産』七年ぶりの集大成・奇妙な世界をめぐる、狂気の旅

2010年に刊行され、現在も版を重ねるヒット作『奇界遺産』シリーズ、7年ぶりの続編。今作では北朝鮮マスゲームアメリカのバーニング・マン、北極の少数民族ネネツ、日本の軍艦島をはじめ、幅広いジャンルの世界各地の奇妙な文化を収録。イラストには大友克洋の名作『AKIRA』をフィーチャーした、シリーズ過去最高傑作となった。

オレにとって佐藤健寿といえばかつてはUFOを始めとした怪現象を扱うマニアックなウェブサイト「X51.ORG」の人だったが、いつしか世界の奇観・奇習を収めた写真集『奇界遺産』をヒットさせ知る人ぞ知る人となり、さらにTV番組『クレイジージャーニー』で人気者のお兄さんとなってしまい、隔世の感を覚えてしまった。

そんな佐藤の『奇界遺産』の第3集が発売だという。オレも大好きな写真集で1,2集とも持っているのだが、まさか3集目が発売されるとは思わなかった。単純に「まだネタがあるのか?」と思ったからなのだが、好奇心旺盛な佐藤にとって世界の奇観を巡る旅に終わりはないのらしい。

しかし「旅に終わりはない」とは書いたが、この全世界的なコロナ禍により佐藤の旅は一旦休止を余儀なくされたという。その休止期間を利用して製作されたのが永らくご無沙汰だったこの第3集だというから、佐藤が本書の前書きでも書いていたように「皮肉」としか言いようがない。

さてこの『奇界遺産 3』、例によって佐藤ならではの審美眼と情報収集によって集められた世界中の「奇界遺産」を集めたものとなっている。また、これまで口絵として漫☆画太郎諸星大二郎の作品を使用していたが、今回はなんと大友克洋の『AKIRA』が使用されていることも注目だろう。本書はこれまでの『奇界遺産』と同様「奇態」「奇矯」「奇傑」「奇物」「奇習」「奇怪」の6つのパートに分けられ、それぞれに目を奪う、唖然とする光景/風景が眼前に表出する。

それは北朝鮮平壌の市街地というポップでダークな「桃源郷」であったり、ベトナムの鍾乳洞に作られた地獄巡りのテーマパークであったり、墓から出された死体を担ぎまわるマダガスガルの奇習であったり、高熱火災によりレンガが溶け出したサンクトペテルブルグの要塞であったり、研究のため死体が野ざらしにされたアメリカの「死体農場」であったりする。

いずれも強烈な印象を残す写真ばかりで「ネタ切れ」なんて杞憂のまた杞憂だった。また第2集から第3集の間に佐藤の『クレイジージャーニー』出演があったため、同番組で取り上げられた写真も多く、ついこの間の『クレイジージャーニー』暫定復活の際取り上げられたアメリカ・ネバダ州の砂漠に蜃気楼のように出現する祭り「バーニングマン」の写真があったのは嬉しかった。

とはいえ、この第3集はこれまでの1,2集と若干トーンが違っているように思えたのだ。これまでは、人間の精神活動の過剰さ奇怪さが現実の事象に滲みだし圧倒してしまう、「尋常ならざる奇観」を取り上げていた。それは善きにつけ悪しきにつけ人間の想念がもたらす狂気と紙一重のパワフルさだった。確かにこの第3集でもそういった「奇観」は取り上げられるが、むしろこの第3集ではそのパワフルさの先にある虚無、どこか涅槃めいた「静謐なる”無”」が広がっているように感じたのだ。

それは例えば、青森県のイタコが取り上げられていたり、19世紀末アメリカの開拓団が大量遭難したドナー・パス峠が取り上げられている部分に顕著だ。それらは写真の持つ見た目の訴求力というよりは事象の説明としての写真があるのだ。これらに限らず、この第3集には濃厚な「死」の匂いがする。そしてそれが「静謐なる”無”」ということなのだ。

これらは佐藤の趣旨替えとか変節とかいうことではなく、単に年齢を経て佐藤が「枯れてきた」からなのではないかと思う。これまでの1,2集ではグロテスクで賑やかな人間の精神活動の生み出すものに注視していた部分が、それら生み出されたものが終焉へ無へと還ってゆくことに注視し始めたのがこの第3集だったのではないか。いずれにしても佐藤の好奇心はまだまだ枯野を駆け巡るのだろう。コロナ禍が収束し再始動する佐藤が次に何を「視る」のか、オレもまた好奇心を持って待ち続けたい。

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奇界遺産3

奇界遺産3

  • 作者:佐藤 健寿
  • 発売日: 2021/05/19
  • メディア: 大型本
 
奇界遺産

奇界遺産

  • 作者:佐藤 健寿
  • 発売日: 2010/01/20
  • メディア: 大型本
 
奇界遺産2

奇界遺産2

  • 作者:佐藤 健寿
  • 発売日: 2014/03/25
  • メディア: 大型本